第4話 無詠唱魔法
「もう一回!ドスン。うっ。」
「もう一回!ドスン。うっ。うっ。」
「もう一回!ドスン。うっ。うっ。はあ。」
パルの家の納屋では、恒例のハンスとパルの朝練が行われていた。
ハンスが右から左から、いろんな形でパルに掴みかかろうとすると、何かに操られるように勢いよく回転しながら倒れる。この繰り返しだ。
「よし、今日はこの辺にしといてやるか。
はぁ、はぁ。。」
ハンスはパルに格闘技の先生みたく偉そうに声をかけたが、実はハンスの体力に限界が来ていたのは明らかだった。
「お父さん。大丈夫?どこか痛くしてない。」
「大丈夫だ。ふぅ。今日はすごく魔法がキレていたぞ。お父さんギリギリ受け身をするのがやっとだったよ。」
見物していたシルが声をかけた。
「全く、あんた息上がってるじゃない。
運動不足じゃないの。こんなんでヘタってたら、秋祭りの力比べで優勝なんて絶対無理無理。
そろそろ朝ごはんにするわよ。」
「もう詠唱無しでも、近接魔法は自在に出来るようになった。この一年頑張ったかいがあったな、パル。」
パルとハンスは対人近接無詠唱魔法の練習をしていたのだ。要は護身術だ。
ハンスはパルにずっと人相手に魔法を使うことを固く禁じていた。何故なら、魔法を使えない相手に対し、一方的に魔法を使うのはフェアでないし制御を誤れば命に関わるからだ。
しかし、一年前から自分や大事な人の身を守ることに限り、その方針を変更したのだった。
今日もパルはチルちゃんと学校に向かっている。
「今日もお父さんと朝練したの?」
「うん。お父さんもうぼろぼろ。何か心配になっちゃった。」
「パルのお父さんって、静かな人よね。」
「そう。普段はあんまり話さないの。
だけど、朝練の時は教官みたくよくしゃべる。何回も何回も転ばされて、絶対あちこち痛い筈なのに。パルもう一回、手加減するなって。」
「大切なパルなこと心配してるのよ。」
「そうだね。だから、私もお父さんとお母さんを守れるように練習頑張るの。いつか町のみんなも守れるくらいになれたらいいな。」
「出来るよ。パルなら。」
「ありがと。チルちゃん。」
「私の癒しの魔法も、頑張ってそうなれたらいいな。」
「出来るよ。チルなら。」
「ありがと。パルちゃん。」
「久しぶりに手つないで学校行かない。」
「うん。何か楽しいね!」
「うん。何か楽しいね!」