表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第3話 シル

その年の冬、最南端の町の子供の多くはひどい熱病に苦しんでいた。まだ小さかったパルの状態は特にひどく、もう何日も何日も熱が下がらずうなされていた。

いろんな薬を試したが効果はなく、ついには薬を飲む力さえなくなっていたのだ。


意識が朦朧とする中、その晩パルはシルの祈りを聞いたのだった。


「神様。どうか私の最愛の娘パルをお助けください。私にはこの命の他に何もありません。私の命の代わりにパルを助けてください。パルが16になったら、必ず私の命を神様のもとにお届けします。約束します。

どうかパルを、パルをお助けください。」


「お母さん。そんなの駄目だよ。

絶対駄目だよ。お母さん。やめて!」


パルは声にならない声で叫んだ。

そしてパルの意識は暗い闇の中に落ちていった。



翌日パルの熱は下がり始め、数日後にはベッドから出られるようになっていた。


パルが元気になり学校に行けるようになった頃には、シルは元のそれ以上のうるさい鬼ババに戻っていた。


「全くお前はどうしようもないよ。

病気なんかしやがって。鍛え方が足りないんだよ。

バカも風邪ひくんだね。また病気になったら絶対に許さないからね。

お前は元気だけが取り柄なんだから。

これでも腹一杯食べて、さっさと学校に行くんだよ。勉強もだいぶ遅れただろ。バカもいい加減にしてくれよ。」


シルは、パルの家では滅多に食べられない贅沢品のお肉を、何時間も何時間も柔らかくなるまで煮込んだ、温かいスープをパルの前にドンと置いた。


「わっ。お肉だ。いただきます。

お母さん。このスープすごく、すっごーく美味しいよ。」


シルはパルの言葉に油断したのか、一瞬だけ本当に優しい笑顔を見せたのだった。


ふと漏れたシルの笑顔を見て、パルもクスッと笑った。


「そろそろチルちゃんがくる頃だね。

お前、おかわりするんだろ。」

シルは空になったパルのお皿に、残ったスープを全部入れたのだった。



パルはずっと前から知っている。


お母さんは自分を愛していることを。

自らの命に代える程に。



「でも何で16なんだろう。」


パルはもう15歳。

16歳になる来年の春は足早に近づいていた。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ