第20話 エレファスの選択
あれから数ヶ月たち、最南端の町は日常を取り戻し始めていた。
エレファスの爆発後、兵士達は長槍を携えて上陸してくる敵を待ち構えていたが、生きて陸に辿り着いたのはわずかで、水中での経験に長けた海の国の若い船乗りだけだった。
彼らは抵抗することなく投降した。
重い甲冑や兜を身につけた兵士達は、泳ぐこともままならず海に沈んでいった。
かつての兵士や町の男達は、到着した共和国軍と共に船の残骸を片づけ1000を超える敵兵の遺体を埋葬した。
そうして冬の気配が訪れる頃、港の簡単な補修も終わり町の民が港に入れるようになったのだ。
パルは海を見つめていた。
人のつまらぬ争いにはまるで興味がないかのように、カモメが気持ちよく空を泳いでいる。
「パルさん。」
「あっ、バーリさん。
いろいろ考えていて。
エレファスが自分を犠牲にして、皆を助けてくれたこと。
敵とはいえ、たくさんの人が亡くなったこと。
そして私の魔法、魔力のこと。」
「王女様とエレファスの話をしようか。
わしはな、王女様にエレファスに取り付けるいろんな武器の提案をしたのだ。
それこそ、簡単に敵を大量に殺すことが出来るそら恐ろしい武器をな。
あまりに恐ろしいから、詳しくは言わんが。
王女様の魔法をもってすれば、どんな武器も容易く自在に動かすことが出来る。
だがな、王女様は頑なに拒否したのだ。
そんな恐ろしいものをエレファスに付けてはならん。
このままで良いとな。
王女様は、エレファスを殺人道具にはしたくなかったんだろう。
人はエレファスを、王女様を守れなかったガラクタとか言うが、それは違う。
エレファスには攻撃力も防御力もなかったのだ。
ただ、巨体の迫力と耳をつんざく雄叫びで敵を恐怖に陥らせるだけ。
ただのハッタリじゃ。
攻撃と防御は全て王女様だより。
矢など王女様の魔法の前では無力、何本飛んで来ようと全て回転しながら落ちていったわ。
しかし、大魔法を繰り返した王女様はついに魔力が尽きてしまったのだ。
今回、エレファスは同じ間違いをしたくなかったのだろう。
奴が持つ唯一の攻撃力、それはあの方法しかなかったのだ。
結果、約束通りエレファスは誰も死なせることなく、町の人々を守り抜いた。
魔法や魔力とは世の理に反するもの。
しかし、時にはそれを使わなければならないことがある。
王女様は戦いを心底嫌っておった。
魔法を戦いに使うことを。
そして、王女様は言っていた。
エレファス、心優しき我が戦車と。
エレファスが、人殺しなど到底出来ぬことを知っていたのだ。
だから、自分の魔力だけで戦ったのだ。
エレファスは心底悔いていたのだろう。
王女様だけに汚れ役をさせてしまったことを。
王女様を守れなかったことを。
そして、この戦いでは自分が出来る唯一のことをした。
そして、皆を守りきった。
魔法や魔力とは世の理に反するもの。
しかし、時には使わなければならない時もある。
大切なものを守るためにはな。
パルさん、エレファスの選択を理解してあげて欲しい。
心優しき戦車の最後の決断を。」




