第2話 クルクルパル
最南端の町の小さな家は、今日も朝から騒がしかった。
「全くいつまで寝てるんだよ。このどえりゃあバカ娘が。全くどうしようもないよ。
お前は大飯食らいしかいいところが無いんだから、さっさとたくさん食べるんだよ。
ほらスープもちゃんと飲みな。」
「はーい。お母さん。」
シルが朝から怒鳴っているのに関わらず、食卓には美味しい香りが漂っている。
ほっかほかの焼きたてのパンは、シルが真っ暗なうちから作ったお手製だ。
「今日は学校帰りに、テラさんの家に寄って、風車を回して麦を挽くんだよ。
お前の唯一の特技クルクル回転魔法でな。いいとこ無しのお前には、それしか取り柄が無いんだからしっかり働くんだよ。」
「うちには、ただ飯を食わす余裕なんて無いんだからね。学校の勉強もしっかりやるんだよ。これ以上バカになったらかなわないからね。」
「はーい。お母さん。」
「パルちゃん!」
友達のチルちゃんが迎えにきた。
「あっ。チルちゃんだ。」
「暗くなる前に帰ってくるんだよ。お前には、これからもたっぷり働いてもらわないといけないからね。」
「はーい、ごちそうさま。行ってきます。」
「パルちゃんのお母さんのシルさんって。口悪くて本当鬼ババだよね。外まで怒鳴り声が聞こえてきたわ。パルちゃんがこんないい子に育ったのが本当不思議。」
「ははは。ここだけの話、あれは演技。
本当はものすごく私を愛している。それは分かっているの。何故そんな演技をするのか理由はわからないけど。」
「そうなのかなあ。パルちゃんがいいならいいけど。」
学校が終わり、パルはテラさんの家に来ていた。テラさんの家には大きな風車がある。初夏の季節は風が弱いので、パルが魔法で風車を回すのだ。
「パルちゃんいつもありがとね。助かるよ。あの大きな風車を回せる程の魔法を使える人なんて、他にはどこにもいないからね。」
「はーい。今日は全く風が無いね。じゃ始めるね。」
パルは一度目をつぶって心を落ち着かせた。
「クルクル、クルクル、クルクルパル!」
パルが変な呪文を唱えて手のひらを向けると風車がゆっくりと回り出した。
小屋の中ではむちゃくちゃ重い石臼が音を立てている。
テラさんは小麦を足しに小屋に入って行った。
「パルちゃんもう大丈夫。用意してた小麦が全部挽き終わったよ。本当助かったよ。ありがとね。」
「はい。お代はいつものように小麦粉でいいね。はい、今日は重いよ。」
「ありがとう。テラさん。またいつでも呼んでくださいね!」
「あっ。焼きたてのクッキーがあるから持っていきな。」
「テラさんのクッキー大好き。嬉しいなあ。」
パルは重い小麦粉の袋を背負って、クッキーをつまみながら鼻歌まじりに家に帰る。
「今日はとっても素敵なお天気ね。
あっ。お母さんとお父さんの分のクッキー残しておかないと。」
パルは二人がいい食材はみんなパルに食べさせ、自分たちは粗末な残り物で済ませているのを知っている。
「全く二人とも、何ですぐ分かるような演技をするのかしら。変なの。」
「まあ、考えても仕方ないわ。」
パルのクルクル回転魔法は、こうして磨かれて行ったのだった。