第19話 爆発
パルは暖かな春の日差しの中、最南端の愛する町を小さな象に乗って軽やかに進んでいた。
「今日も素敵なお天気ね!エレファス。」
〜バオーン〜
風車が見える度に、パルがそれをクルクル回してゆく。
「パルとエレファス、いつもありがとう。」
「どういたしまして、テラさん!」
「クッキー持っていきな。ほら。」
「嬉しい、ありがとう。」
「よーし、次は港の風車よ。エレファス!」
エレファスは急に歩みを止め、鼻を使ってパルを地面にゆっくりと下ろした。
「エレファスどうしたの?」
パルの呼びかけには答えず、エレファスは海に向かって一人歩み出した。
「はっ、お母さん、夢見てた、エレファスの。」
「帰ってからずっと寝てたんだ。もう朝だよ。」
「エレファスは?」
「あれからずっと海の中、町を守るって。
みんな、港が見える岬にいる。」
「私、行かなくちゃ。」
パルとシルが岬に着くと、町の人々が海を見つめていた。
港の周りに、見渡す限り大小無数の船が見える。
数百の大船団だ。
「パルちゃん、体は大丈夫?」
「チルちゃん、もう元気になったよ。
敵の船、、、すごく、いっぱい来たね。」
「うん。」
チルが不安そうに、パルの手を握った。
エレファスは、あの日のことを考えていた。
王女様が倒れた日のことを。
エレファスはその死をすぐに悟った。
あの暖かく優しい魔力の波動が、だんだんと小さくなりついには完全に消えてしまったのだ。
その瞬間、エレファスの時は止まった。
王女様、俺も一緒に、、、。
しかし鋼鉄の箱の彼には、どうやったら王女様の後を追えるのか分からなかった。
魔力が許容量を遥かに超えると爆発する危険があることは、バーリの話から知ってはいたが、もはや魔力はほんの少ししか残っていなかった。
エレファスに出来ることは、意志も感情も持たない元の鉄の塊にただ戻ることだけだった。
エレファスは水面を見つめていた。
朝陽がまっすぐに差し込む、透き通った青い水の上をいくつもの船が通っていく。
「待て、まだ早い、もう少し。」
船団の後方のひときわ大きな船にその男は乗っていた。
「将軍、敵は人っ子一人見当たりません。
白旗もありません。」
「だろうな。あの町の選択肢はそれしか無かろう。
どこに逃げようとしても無駄なあがきだ。
上陸したら、すぐに騎兵を出して追い詰めてやる。
男どもは皆殺しだ。
女は戦利品、子供は奴隷として生かしてやる。
あの日の恨み、100倍にして晴らしてやるわ。
ここ最南端の地から一気呵成に北に侵攻し、奴らを攻め滅ぼしてやるのだ。」
エレファスの上をひときわ大きな船が通る。
「あれが旗艦か、そろそろ頃合いだな。」
エレファスは、容量を遥かに超えて溜め込んだ魔力を一気に全て解放した。
体が熱を帯び、ぶるぶると振動する。
異変に驚いた魚やイルカが慌てて逃げていく。
「王が戦死した。
我もこの戦ばかりは、どうなるかわからん。
もしもの時は先に行っておるぞ。」
「どちらに?」
「死は終わりではない、次の世界に旅立つのだ。
そこで我が王が待っている。
我が先に行ったら、エレファス、いつかそこでまた会おう。
門番には、エレファスと名乗る無骨だが心優しい者が来たら、我の所に案内するように伝えておく。
そこでは戦は無いだろう。
王と我を乗せて、どこか旅にでも連れて行ってくれ。
楽しみだ。
我が友、エレファス。」
「王女様、、私も、今、そちらへ、、、。」
ババババババ、バオーーン!
エレファスは大爆発を起こした。
「将軍、何か大きな音が、、。」
「海が揺れているぞ。一体何があったのだ。
うわぁ、、、。」
その瞬間、海面が山のように盛り上がり将軍の船を空に向けて高々と吹き飛ばした。
山のように盛り上がった海面は巨大な波を引き起こし、次々と船団を襲った。
船という船は衝突し、転覆し、真っ二つに裂け、岸壁に打ち付けられ、またたく間に沈んでいった。
「エレファス、だめだよ、、、行かないで。
お願い、、。」
パオーン、、、。
エレファスの声がかすかに聞こえた気がした。
しかし、すぐに何も聞こえなくなっていった。




