第17話 心優しき我が戦車
「ゆっくりもしていられない。
ここで誤爆でもしたら迷惑千万。
早めに出発するか。」
エレファスは、ゆっくりと港の漁船が使うスロープに向けて走りだした。
気がついた町の民や兵士が手を振ってくれている。
バーリは、ただ呆然と立ち尽くしている。
大泣きしているのが遠くからでもわかる。
「あいつ泣いているのか、、、またいつか会えるさ。
ふふっ、奴も老けたものだ。
まあ、あの歳ならそう遠いことでもあるまい。
バーリ、我が友、俺が先に行って待ってる。」
〜バオーン!バオーン!〜
エレファスは、力強い咆哮で応えた。
そして、人々の歓声の中、その巨体は静かに海の中に消えて行った。
「よし、この辺りでいいだろう。」
エレファスは海底で静かに停止した。
透き通る水には、眩しい太陽の光がゆらゆらと差し込んでいる。
「しかし、海の中にまで来るとは思いもよらなかった。
海とはなんとも不思議な所だな。
この海の蒼き美しさについては、王女様から何度も聞かされていたがな。
王女様はいろんな話をしてくれた。
鉄の箱、機械の俺に。
そう、俺が自分というものを意識したのはあの日からだ。
それまでは何も覚えていない。
俺には時間というものさえ無かった。
ただ命に従うだけの機械だった。
俺にとっての時が始まったのはあの日からだ。
柔らかい風が吹く初夏の日だった。
時が過ぎるとは早いものだ、、、本当に。」
その日、王女は訓練地の草原で戦車の操作法を試していた。
「はははバーリ、だいぶこの戦車を動かすのに慣れてきたぞ。
水晶に手を置き、右に左にとただ心で念じた通りに動く。
進めと思えば、御意、と答え進む。
しかして、バーリ、この戦車は、御意、しか言えんのか。」
「そのように設計しております。
自分の意志があるのではなく、王女様の命に絶対服従する機械です。
その回路しか組み込んでいないので、命に背くことは絶対にありません。」
「そうか、うむ、、分かった。」
王女は何故か少し不満そうに答えた。
「よし戦車よ、次の路地を右に曲がれ。」
戦車は、右に曲がりかけた所でふいに止まった。
「おやおや、バーリ、絶対服従の機械が我の言うことを聞かぬとは如何に。」
「そんなはずは?故障かも知れません。」
王女様とバーリが右の路地の先を見ると、母イノシシがウリ坊をいっぱい連れて道を渡っている。
子供達は6匹はいるだろうか。
ウリ坊はまだ小さく、懸命にちょこちょこと母の後を追っている。
「バーリあれは。あの小さくてしましまのは。」
「イノシシです。母親がこの春生まれた子供を連れて初夏の散歩でもしているのでしょう。」
「なんともまた、かわいいものだな。」
「王女様、安全確保の停止でした。」
「安全確保、、、、そうか。」
戦車は最後のウリ坊が道を渡り終えると、パオーンと小さな雄叫びを上げて右の路地を走り出した。
「ふふふ、面白い。
我が戦車よ、誠に賢いのう。よくぞ止まった。
褒美に、そうだ名前をつけてやろう。
名前が無いと何かと不便だしな。
何がいいか。
そうだ、これがいい。
昔、父上に世界で一番強い動物は何かと聞いたことがあってな。
父上はこう言った。
象だな。象は世界で一番大きくそして強い。
どんな猛獣も、本気の象には勝てない。
そして、意外にも象はとても高い知性を持ち心優しいとな。」
「巨象の如く巨大で力強いが、ときに心優しき我が戦車よ。
今日より、我は汝をエレファスと呼ぶ。
エレファス、
常に我と共にあれ。」
〜パオーン〜
「あの日から、王女様は何かと俺に話しかけてくれるようになったな。
エレファス聞いてくれ、と。
そう、俺という存在が本当に始まったのはあの日からだ。」




