第15話 パルとエレファス
パルは港の広場でチルやテオと、エレファスの巨体に驚きつつニコとバーリの話を聞いていた。
不安で泣きそうなチルがつぶやいた。
「大きいね、エレファス。」
「うん。」
「エレファスがいれば、町のみんな助かるかな。」
「そうだね、、、。
エレファス、町のみんなを助けて。
みんな私の大切な家族なの。
お願い、、、、エレファス。」
パルは赤茶けた鋼鉄の装甲に優しく触れながら、小さな声で語りかけた。
すると、突然、パルの目の前の鉄の装甲に小さな扉が現れ静かに開いたのだ。
「こんな所に扉があるなんて。」
「行かなくちゃ。二人も来て。」
パルは何かに引き寄せられるように、エレファスの中に入って行った。
パル達が入ると、すぐに扉はまた閉じ、その痕跡すら消えていった。
港の長ニコとバーリの対話は続いていた。
「それでバーリ殿、この戦どう戦えばいいとお考えですか。」
「それが難題よの。敵は数千、我らは数百。
兵力に大きく劣る我々が勝つ方法は限られておる。
過去の戦に習えば、街道を峠まで北上し、峠の細い道で奴らを待ち構え、地理的有利を活かして戦うのが定石かの。
狭い山道にエレファスを配置、崖の上の兵が投石や弓矢で敵を殲滅する。エレファスを突破した敵がいれば、後に隠れた兵が長槍で伐つことになる。」
「町を放棄して、峠で迎え撃つ。
悔しいが、それしか策はないのでしょうか。」
「いくらエレファスがおるといっても、四方八方から来る幾多の船からの波状攻撃を、数百の兵で守ることは厳しいだろう。」
らせん階段を上ると丸いハッチがあり、それを押し上げるとそこはエレファスの甲板だった。
前部には、操縦室のような構造物がある。
腰位までは防護壁があるが、その上はむき出しだ。
その内部には、平らな木の台といくつかの計器が配置されている。
ハンドルやレバーのようなものは一切なく、台には丸い水晶玉が埋め込まれているだけだ。
パルは引き寄せられるように、そこに進んでいった。
パルは何かに促されるように、不思議な光を放つ水晶玉にゆっくりと左の手のひらを添えた。
すると、泉が湧き出すようにパルの心にエレファスの言葉が伝わってきたのだ。
「やはりバーリ殿の言う通り、港と町を放棄して峠で戦うしかないか。
そうなれば、町の民は山向こうの村まですぐに避難せねばならん。
みんな意見があったら言ってくれ。」
重苦しい沈黙が続いた。
誰もが、敵の一割ほどの戦力で港を、町を守り切ることは出来ないと分かっているのだ。
「反対意見が無ければ、すぐに撤退準備を始める。
みんな、残念だが今は町を離れるしかない。
しかし、我らはまた必ず戻ってくる。
愛するこの町に。
絶対にな。」
そして、町の者達は深いため息をつきながら広場を離れようとしていた。
「エレファスの声が聞こえる。
彼らを陸に上げては絶対だめだと言ってる。
大切な話なの。
テオ、私が言うことをみんなに伝えて。」
テオが広場を去ろうとする人々に向けて、大声で呼びかけた。
「みんな少し待ってくれ!
パルが今エレファスの声を聞いている。
その言葉を聞いてから、判断して欲しい。
今から、俺がパルが聞いているエレファスの言葉をみんなに伝える。
聞いてくれ。」
「北の蛮族はすなわち山の民。
それも、ここよりはるかに高い険しい山がそびえる山々、冬には雪に覆われる厳しい所だ。
奴らはそんな厳しい土地で、狩りをして弓の腕を磨いてきた。
彼らはそんな山で戦う術を知り尽くしている。
街道など通らなくても、いくらでも山を越えられる。
そこで戦っては、我々に到底勝ち目は無い。
奴らは、たやすく我々を殺し尽くすだろう。
さながら、鹿を狩るように。
俺も峠道では身動きが封じられる。
進むか後退するかの二択のみだ。
絶対に奴らを陸に上げてはならない。
海で奴らを食い止めるのだ。
海の国の船や船員を動員させてはいるが、所詮北の奴らは海の中では素人。
防具や刀、槍を持っては泳ぐこともままならぬ。
俺に策がある。
信じてくれ。
王女様に誓う。
俺は、もう誰も死なせはしないと。
俺に与えてくれ。
皆を、国を守る最後のチャンスを。」
バーリはニコに尋ねた。
「パルとは?」
「パルはこの町一番の魔法、それも強力な回転魔法の使い手です。
風が無いとき、あの大きな風車を回して麦を挽いてくれる心優しい子です。
町の者は皆、彼女を愛しています。
この町にパルの言葉を疑う者など、一人としておりますまい。」
「そうか、、パル、強力な回転魔法の使い手とはな。
まさかこの地に。
うむ、それが、エレファスがここに来た理由か。
最後のチャンス、、って。
エレファス、お前、一体何をするつもりだ。」




