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第12話 酔いどれオヤジの記憶

「ジャン、この酔っ払い、いつまで寝てるんだよ。

畑仕事もろくにしないで、飲んで寝てばかり。

昔はいい男だと思ったけど、私がバカだったのかね。」


「うーん。頭いてぇなあ。」

男はすごすごと起き、顔を洗って食卓に着いた。


「あれだけ飲んでりゃ、頭も痛くなるよ。」


「そういやあ、あの戦車エレファスが動き出したらしいじゃない。」

「えっ。いつ。」

「あんなデカい図体して、どこに隠れていたのやりゃ。

何でもつい最近、誰も乗ってないのに突然南に向かって動き出したらしいよ。今日あたり、うちの村通るかも。」

「あんな、役に立たない戦争道具が今さら何しようというのかね。王女様も守れなかったガラクタのくせに。

一体何が起こるやりゃ。

あいつは、何か縁起が悪いんだよ。

勝手に動き出すなんて、悪いものでも憑いてるんじゃないの。怖い、怖い。」


「それ以上言うな。あいつはガラクタじゃない。

勇者、そして戦士だ。

あいつがいなけりゃ、俺は生きていない。」


「ごめんよ。言い過ぎた。あんたもあの戦場にいたからね。でも、王女様が亡くなってから、あんた変わっちゃった。

私あんたが心配なんだよ。」


「わかってる。心配かけてすまん。」



パオーン!パオーン〜。


「おや、噂をすれば。エレファ、」

「ちょっと、行ってくる。」


ジャンが爆音がする方に歩くと、街道には既に多くの人々が集まっていた。




「そろそろ、最初の村に着くな。

エレファス、ここは静かに行くぞ。

お前を良く思わない者も多いと聞く。

王女様を守れなかったガラクタとか言う奴もおる。」

「まあ、お前には攻撃力も防御力も無かったからな。

攻撃と防御は王女様と兵士任せ。

お前はその図体と咆哮で敵をビビらせ、兵士を鼓舞する役割だったしな。

おっ、それについてはわしに秘策があってな。

馬車に新装備を用事してある。

あとで、取り付けてやる。お前びっくりするぞ。」


「村が見えて来たぞ、静かに、静かにな。」

パオーン〜、、



「おや、何か様子がおかしいな。」


何とそこには、エレファスを称える男達が街道の両脇を埋め尽くしていたのだ。


「エレファス、エレファス、エレファス!」


男達は腕を振り上げ熱狂していた。

あの戦いで、ちょっとした邸宅程あるこの鉄の戦士にどれだけ勇気づけられたことか。

耳をつんざく咆哮、そしてその上には、無防備な姿で魔法をふるう美しい王女の姿を。


矢の雨に恐怖し尻込みする兵士たちは、その姿につき動かされ戦ったのだ。


ジャンは15年の昔、まだ20そこらの若者だった。

恐怖に押し潰されそうになり、うずくまり逃げることしか考えられなくなったあの時、彼はそれを見たのだ。


「我とエレファスに敗北はない。栄光あるのみ。

みな、我とエレファスに続け。」


ジャンの涙に滲んた目には、今もエレファスの上に立つ美しき王女の姿が見えている。

「何と美しいことか。」



そして、村を過ぎるとエレファスの後には10人を超える男達が兵装を纏い続いていた。

そして、バーリの馬車には、村からの食糧や水、ワインがうず高く積みこまれていたのだった。

馬車を引くのは、立派な髭を蓄えた村の老村長だ。



「あんた、無事を祈ってる。」

「ああ、やり残したことを済ませて帰ってくる。

心配するな。エレファスがいれば大丈夫だ。」

「あんた、酒は。」

「酒はいらん。」

「分かった。捨てておく。」


「いや、帰ってお前と乾杯する。

それまで、取って置いてくれ。」

「全く、あんたって人は。」



ジャンは妻を抱きしめると、隊列の最後を胸を張って歩いていった。

その姿は、酔いどれオヤジではなく、かつて女が惚れた、若き勇者の姿に戻っていたのだった。


「エレファス、ジャンを頼むよ。

お願い。あの人がいないと、私は、、、」


バオーン!バオーン。


エレファスの咆哮は、後ろの山々にこだましどこまでも響いていったのだった。












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