第11話 パオーン
パオーン〜パオーン、、、。
「おやおや、エレファス。
でっかい図体して何を泣いておる。」
老科学者バーリは南に向かう街道で、山の方向から悲しげな泣き声を聞いたのだった。
「ここから先の山は、南に向かう街道最大の難所。
さては登り道で動けなくなったかの。」
しばらく進むと、戦車エレファスが立ち往生していた。
車輪を回そうと頑張っているが、うんともすんとも言わず全く進まない。
「無理もないわ。
魔力の補充も無く、よく一人でここまで来たものよ。
どれどれ、見せてみい。」
見たところ、大きな破損箇所は見当たらない。
「まあ、燃料切れといったところか。」
バーリは、戦車の上に登り魔力計を確認した。
「おやまあ、空っぽか。」
パオーン〜
エレファスは力無く泣いていた。
「困ったのう。魔力になるものはないか。
うむ、仕方あるまい。あれを使わせて頂くか。」
バーリは、懐から大事そうに何かを取り出した。
「王女様から直々に頂いた宝石。
王女様も、以前は気に入って身につけていたこともあったと聞く。
まあ、もともとはお前を作った礼にと頂いたもの。お前に返すのが道理じゃ。
何より信頼するエレファスの為とあれば、王女様も笑って許してくれるだろう。」
バーリは何やら機械をいじると、備え付けてある小さな箱に宝石を入れて丁寧に蓋をしめた。
「さて、首尾はどうかの。
エレファス、どうじゃ元気は出たか。」
魔力計の針はぐんぐんと進み、あっと言う間に満タンになった。
「バオーン!」
「よしよし、これで南まで行くには十分過ぎるわ。
この山を越えれば、後は緩やかな下り坂。
南の海まで、もう3日もあればつくじゃろ。」
「さて、次の村で馬を売って、荷車はお前さんに引いてもらうとするか。
しかし、お前と旅をするのも久しぶりじゃな。
王女様にお前をお届けして以来か。
お前を見た役人どもが、こんな汚い鉄の箱に王女様をお乗せする訳にはいかん、帰れ、とか言っておったな。」
「しかし、王女様はお前を一目見て、
素晴らしい、気に入った、と。
くっ、あの、役人どものあっけにとられたアホ面、
今でも忘れられんなあ。
あれから、お前に名前を付けてくれて、楽しかったのう。」
「おっと、昔話をしとる場合じゃなかった。
エレファス、お前、南に何か大事な用事があるのだろう。
分かっている。分かってる。
さあ、出発じゃ。」
〜バオーン〜バオーン。
勇猛な巨象の咆哮が、遠く山々にこだましていた。




