第10話 ある魔法科学者の願い
老人は南に向かう街道を南に向かって馬車を走らせていた。
幌で覆われた荷台には、大小さまざまなガラクタが積み込まれている。
「まさか、お前がまた動き出したとはな。」
老人の名はバーリ。あの戦車エレファスを作った男だ。
かつては、魔法の力を最大化することが出来る奇跡の科学者として名を馳せ、宮廷からの信頼も厚かった。
しかし、王女の死後生まれた共和国では、魔法は夢幻の如く隅に追いやられ、彼の名も遠い昔話でしか聞かないようになっていた。
「戦車エレファス、どこにいたのだ。
ずっと探しておったが、まだ動く力が残っていたとはな。
王女様の魔力の残滓かそれとも。
王女様への想いか。
わからん。
まあわしも、こいつ鉄の塊、機械のくせに、もしかして意思があるのかと思ったことがあったな。
王女様と一緒に出陣する時は、本物の巨大な象のような咆哮が地の果てまで響いたものじゃ。
あれだけで、大抵の敵は蜘の子を散らすように逃げていったわい。」
「とにかく、15年の歳月、あちこちガタが来ているだろう。さぞや、寂しかった、悲しかったことだろう。
かわいそうに、錆びを落として油も差してやらねば。
な。」
あの戦車エレファスか動き出したことは、既に人々の噂になっていた。
目撃情報は、南に向かう街道に集中している。
「エレファス、お前何故南へ向かう?
南に何があるというのか。
王女様は最南端の地を、この上なく愛していたと聞く。
エレファス、わしを置いていかんでくれ。
いつか、天国でお前と一緒に王女様にお仕えするその時まで、どうか一緒に戦わせてくれ。
老いぼれの最後の願いじゃ。」
 




