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18:00の天使

作者: けて

「18:00の天使」


店の席が客で埋まっているのを見るとうんざりする。オーダーは鳴り止まず、置き場所が無くパンクした油だらけの空食器は厨房の入口付近のトレイに山積みにされていた。レストランのバイトとして、私はこんなにもこき使われ、疲弊しているのに、楽しそうな客の喋り声が私の耳には毒だ。何千回も聴いた愉快な店内BGM、私にとっては労働の曲である。自然光が入りやすいように店は窓だらけで外からは丸見えだ。2階にある店は道路からでも目立つ。丸見えの窓際席で食事をする客は動物園のパンダのようだ。安っぽいシャンデリアは朝昼夜いつでも輝いている。飲食店にふさわしい優しい明かりが鬱陶しい、叩き割って客を全て追い出してしまいたくなる。鬱陶しいのはシャンデリアの明かりに群がる客だ。店の床は油でぬるぬるしている。いくら掃除しても翌日には元のぬるぬるに戻っている。店に来た子供がぬるぬるした床でスケートしているのを見るとなんとも言えない気持ちになった。全部で40席ある店内の席は客で溢れている。巣に餌を運ぶ働きアリのように単純な食器の配膳や片付けを行い続けている。労働はクソだ。団体客が散らかした店の机が目に入る。ビール瓶に大量のプレート、お米がカピカピになった平皿に、飲みかけのガラス瓶。ああ、仕事を見つけてしまった。前に、団体客の残した大量の食器を、見てないフリをして厨房に逃げ帰ったのを上司に見られ、ぶつくさ言われた前科があるため、今回は逃げられない。不満や怠惰をため息に変換して吐き出す。労働からは逃げられないのだ。積み重なる苦難(食器)を持っていた盆に避難させる。顕になったぬるぬるの机をふきんでガシガシと拭く、憎しみを込めて取り組んだ。図々しく並べられた机をひとつずつ綺麗にして次の客が使えるようにしていく。盆に山積みになった苦難(食器)をフラフラしながら厨房へ運んだ。これでは本当に働きアリだ。つらいアリ…。山積み食器をひとつずつ食洗機に突っ込んでいく、雑に入れれば割れる。私の不名誉な皿割り名人のあだ名は店長が付けたものだ。もう二度とそんな呼び方はさせるものか。苦難(食器)を乗り越え、ふと時計を見ると、18:00だ。その瞬間、私の背中に赤く輝く翼が生えた、気がした。店内のシャンデリアを反射して赤く光っているのだ。鬱陶しいシャンデリアである。私の退勤時間がやってきた。地獄から開放されるのだ。働きアリ卒業式、アリから退勤天使へと生まれ変わったのだ。客ども、嫌味上司諸君、ベトベトの食器君たち、もう二度と来ないからな。それではごきげんよう。制服を脱ぎ捨て、私服に着替える、パリッとした黒シャツに黒ズボン、これが1番格好いいのだ。店長や同僚にオツカレサマデシタとさよならの言葉を唱えて、店を出た。夏風が強く頬がえぐり取られそうだ。夕日が綺麗だった。私の背中の羽は夕日を反射して赤く輝いていた。気がした。さあ帰ろう、マイホームへ、天使の帰還である。今日もオツカレサマデシタ。

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