二人目
人を殺った。
俺には金が要るんだ。
おとなしく寄越せばよかったものを抵抗しやがったあのジジィは五万しか持ってなかった。
まだまだ足りない。
住宅街から離れて足早に進む途中、大きな白い家を発見した。
パッと塀の中を覗いてみれば庭のガーデニングが行き届いていていかにも裕福そうな家だった。
こんな家には監視カメラでもついているかと思って見渡すがそれらしいものは見当たらない。もともと治安の悪いところではない。住人のそういった警戒心は薄いのだろう。
俺は決めた。
この家から金を奪ってやる。
インターホンを鳴らす。
しばらくして確認もされずにドアが開いた。
「…どなたですか」
ひょろっとした色白のいかにもひ弱そうな男が出てきた。
俺はすかさず中に押し入った。内側から鍵をする。
「何なんですか」
「うるせぇ、金を出せ!」
俺は男に包丁を突き付けた。ジジィを刺したやつだ。そのまま男を脅しながら部屋に入る。
「金はどこにある」
「ここにはないです、寝室に」
「取ってこい」
「付いてこないんですか」
「逃げやがったらこの家に火ィつけるぞ!お前も殺す。一人殺るのも二人殺るのも同じだからな!!」
それを聞いて男は一瞬はっとした表情を見せた。
誰だって殺人犯は恐ぇだろう。俺はにやりと笑った。
男はそのまま寝室に向かったようだ。
部屋を見渡すと庭の雰囲気とは一変してずいぶん散らかっている。
ふと床に落ちているものが目に入った。拾いあげて驚いた。
テレビでよく見かけるそれは警察手帳だった。
「あ、あいつ!」
運が悪かった。俺は逃げようと立ち上がったが足が思うように動かない。足を踏み出したところで足が滑った。そのまま不様に転ぶ。
「痛てぇーッ!」
頭をぶつけて手をやるとぬるりとした感触。血だ。俺の血か?
それは違った。
足を滑らせたのもこの血のせいだ。
じゃあ誰の…。
血は目の前のクローゼットの中から染みだしていた。
喉を鳴らし、俺の手は導かれるように扉を開けていた。
この血はこの女のものだったのだ。
背筋に冷たいものが走った。叫びたかった。だけど恐怖で声もでないとはこのことだ。
「一人殺るのも二人殺るのも同じとあなたは云った」
振り返ると部屋の入り口に男が立っていた。
「僕も同じだったんです」
そして俺には銃口が向けられた。
完