GWのロゴを見ると思い出す事
……今年もゴールデンウィークがやってきた。
この時期、どこを見てもあふれている、GWの文字。
これを見ると、私は学生時代を思い出す。
あれは確か、中学校二年生の、美術の授業。
【自分のイニシャルを使って自分のロゴマークをかきましょう】という課題が出た。
自分のイメージをロゴマークにしましょう。
自分らしさをロゴマークにしてみましょう。
自分の事だとみんながわかるようなロゴマークをかきましょう。
当時から体格の良かった私は、トレードマークのでこ出しポニーテールを意識して作品を描いた。アルファベットをムチムチにして表現した作品は、どう見てもお前だろうと、誰もがバッチリわかるものに仕上がった。
作品は、学校の秋の文化祭の時に体育館で展示されることになっていた。
見た目に愉快な私の作品は、派手な色使いも相まって…やけに注目を集めた。普段、わりと端っこの方でこそこそと学んでいるような事が多いこともあり、何となくくすぐったいような、恥ずかしいような、申し訳ないような…胸のあたりにモヤモヤしたものを感じた。
ずらりと並ぶ作品の中には、いくつも私に感動を覚えさせるものがあった。
塗り斑が一切ない繊細な作品。
奇天烈なデザインでどこにアルファベットが仕込まれているのかわからない作品。
まさにロゴマークという感じのセンスが光る作品。
そんな中…私が一番すごいと思ったのは、モノクロのロゴマークだった。
アルファベットの形の枠の中に面相筆で緻密なイラストを描いて、つめ込んだ作品。
ポスターカラーの黒以外を一切使わず、ジェットコースター、おいしそうなハンバーグ、プールで泳ぐ男の子、山に登る家族、流れるメロディを表す五線譜、夜空と晴天のコントラスト、レンガの建物に近代的なビル、車、自転車、犬、猫……みっちりと描き込まれていた。
その作品を描いたのは、和田銀二(仮)君だった。
イニシャルは、GW。
何とも華やかで、ハッピーなイメージのあるアルファベットなのに…、楽しそうなイラストなのに。
何となく…、寂しさを感じた。
私はこの作品が気に入ってしまって、何度も見に行った。
最初は、人がいっぱいいるときに、後ろの方から。
人がいなくなった時に、真正面から。
二日目の朝、誰もいない体育館に行って、じっくりと。
お弁当を早めに食べ終わって、もう一度見に行ったら、描いた本人がいた。
そこで何を話したのかは、あまり覚えていない。
初めて話す人だったので、緊張していたのかもしれない。
…スゴイねと絶賛したような気がする。
…別にとあしらわれたような気もする。
「色を塗ったらもっと綺麗だったかもね」と言ったことは覚えている。
「僕には色なんか塗れないよ」と言われたことは覚えている。
後日、展示した作品の中から優秀なものを選んで市民祭りの会場に飾られるという事を、担任から聞いた。
私は、絶対にGWのロゴマークが選ばれると思った。
選ばれて当然だと思っていた。
賑わう市民祭りの会場に、私の作品が並ぶことになった。
ご丁寧に親元へ学校から展示のお知らせが届いたので、母親と祖母と一緒に見に行くことになってしまった。
市民祭りの会場には、派手な色遣いの作品ばかりが並んでいた。
そこに、私が惚れ込んだ作品は、なかった。
私には、色がついてないから選ばれなかったとしか、思えなかった。
カラフルに仕上げなければいけないなんて、そんなのは…担任の思い込みだと思った。
ふざけたデザインの私の作品より、もっと選ばれていいものがあると思った。
私の作品を指差して、笑う人がたくさんいた。私の作品は、見ず知らずの人たちからも注目を集めていた。
たくさんの人に笑われているのを見た母親と祖母が、言った。
「あんたは一生、他人に笑われる人生なんだわ。ブクブク太ってそれを誇って…恥ずかしい」
「出来が悪いと特技になっていいねえ…、へたくそでも選んでもらえてよかったねえ…、この子なんかこんなにきれいな絵を描いて展示してもらってるのに!」
自分の短所をアピールして、おどけて、笑いに変えた、私。
自分のやり方が、正しいとか、素晴らしいとか、頑張ってるとか…そう言った全部の感情が、スゥッと色あせていくのが、わかった。
カラフルに仕上げた作品が、モノクロになっていくような。
自分自身に精いっぱい色を付けたのに、色がみんな逃げだしていくような。
色の力を借りて誤魔化してきたものが、墨汁で塗りつぶされたような。
市民祭りの次の日、私は廊下に貼り出されている和田君の作品を見に行った。
モノクロで、細かく描き込まれた……、ゴールデンウィークを楽しむような、イラスト。
………。
もしかしたら、ただ単に、色を塗りたくなかっただけなのかもしれない。
もしかしたら、色を塗れない事情があったのかもしれない。
もしかしたら、色を塗りたいと思えなかったのかもしれない。
……ただの憶測でしか、私の想像でしかないけれど。
和田君の、モノクロ作品に……、私は、自分と、似たような空気を感じたのだ。
何度も、何度もGWを経験して、昔の出来事を振り返る事ができるようになった今、私が思うのは。
和田君は、色を塗るような生き方をしているのだろうかという事だ。
彩る事を許されているだろうか。
色を楽しむことができているだろうか。
私のように、自由に、気ままに、色を塗って…笑って暮らせるようになっているだろうか。
………。
もしかしたら、ものすごくド派手なファッションデザイナーになっているかもしれないよね。
もしかしたら、ものすごく愉快な絵本作家になっているかもしれないよね。
もしかしたら、ものすごく明るい人になっているかもしれないよね。
すぐに悪い方に考える癖が…未だに出てきてしまうなあ。いかん、いかん。
GWも、あと半分。
つまんないことを思い出す時間が、もったいないな。
私は、近所のショッピングモールのイベントを楽しむため……、靴をはくのだった。