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その指先に閃光を  作者: 安井優
ステージ2.『▶はじめから』『つづきから』
4/61

2-2.

※特定のゲームを思わせるタイトルが登場しますが、実際の作品とはなんら関係はありません。

 また、そのゲームに対して、登場人物が批判するような描写が一部あります。

 気を悪くされた方がいらっしゃいましたら、大変申し訳ありませんが、あくまでもフィクションです。

 全く実在するゲームタイトルと関係はありませんので、ご了承ください。

「ゲームの世界一位らしいよぉ」


 昼休み、いちごミルクのパックがゴミ箱から外れた音と同じ軽さで翔太は口を開いた。


 翔太がゴミ箱へのシュートを外すのはこれでもう三度目だ。そのまま捨てればいいのに、翔太は毎度ご丁寧にゴミ箱のそばまで行ってパックを拾い上げ、席まで戻って来る。


「なんの話?」


 大斗はスマホから顔をあげることすらせず尋ねる。おそらく、最も適切な相槌を脊髄反射で返しただけだろう。そもそも今朝のことを忘れている時点で興味もないようだった。


 脈絡のない翔太の話に付け加えたのは圭介で、


「大道の話。俺もさっき聞いたわ」


 おにぎりにかぶりつきながら、「なんか、ゲームを早くクリアする? みたいなやつだって」と誰から聞いたのかわからない情報を披露した。


「なんだよそれ」


 意味不明、と俺が二人を見ると、隣で大斗がスマホから顔をあげた。


「RTA」

「あーるてぃーえー?」


 聞いたことのない単語に首かしげる俺とは対照的に、翔太と圭介は、それだ、とうなずいている。


「へぇ、やるじゃん」


 大斗は素直に感心しているようだった。あまり人を褒めることのない大斗が人を褒めた。そのことに俺は興味がわいて、スマホの検索アプリを起動する。検索欄に『RTAとは』と打ち込むと、すぐさま結果が返ってくる。


 リアルタイムアタックの略。ゲームをスタートしてからクリアするまでの時間を競う。


 表示された文字列を読みあげてもいまいちピンとこなかった。だいたい、リアルってなんだよ。タイムアタックにリアルもクソもねえだろ。


「そんなにすごいやつ?」


 俺が大斗に尋ねると、


「ま、ものによるけど」


 と大斗はスマホに視線を戻した。指の動きから察するにゲームの最中だったのだろう。俺たちの中で最もゲームに詳しいであろう大斗は「なんのゲームだって?」と画面から目を離すことなく会話を続けた。答えられるのは翔太と圭介だけ。俺は、二人が顔を見合わせて「なんだっけ」と記憶を探る姿を見て、答えが出てくるのを待つしかない。この会話が早く終わればいいのに、と願いながら、外の景色を眺めて気をまぎらわす。


「なんとかメモリー、的な感じじゃなかったっけぇ」

「ああ、そうだ。きらめきメモリアル、みたいな名前だったと思う」

「あ、そうじゃない? そうだったと思う! ヒロ、知ってる?」


 圭介と翔太がスッキリしたと盛りあがる。大斗もいよいよスマホを触る手を止めて「知ってるけど」と顔をあげた。だが、その表情には、拍子抜けした、と書かれている。


「きらメモやってるとか、マジでオタクじゃん」


 大斗は皮肉交じりに口角をあげた。


「えぇ~、なにそれ、どういう系?」

「ギャルゲー」

「ギャルゲーってなに? ギャルがやるゲームってこと?」


 翔太の質問がツボにはいったらしい。大斗が珍しく声をあげて笑った。俺もギャルゲーの意味はよくわからないが、翔太の言葉が本当なら、あの地味根暗メガネの代表格みたいな大道が、ギャルがやるゲームで世界一位をとっていることになる。


「それはさすがにキツいだろ」


 俺がツッコめば、大斗はまだツボにはまっているらしく机をたたいて「腹いてぇ」と声を振り絞った。


「ギャルゲーとは、ギャルゲームの略称で、魅力的な女性が登場することを売り物とするタイプのゲームのこと……だってさ」


 大斗の代わりに圭介がスマホの検索結果を読みあげる。つまり? と翔太が表情で訴えると、ようやく大斗が笑いをひっこめた。


「女を攻略するゲームってこと」


 大斗の口が悪すぎるのか、それとも本当にそういうゲームなのか、判断がつかず


「は?」


 と聞き返せば、「マジだって」と大斗がニヤニヤと嫌味ったらしく答える。


「えぇ、なにそれぇ! 絶対嘘でしょ!」


 翔太も意味がわからないと大斗に抗議している。


「っていうか、それ、そもそも競うやつじゃなくね?」


 圭介の素朴な疑問に、俺と翔太は「たしかに」と声をそろえた。


「女攻略するのになに競うんだよ」

「ほんとそれ! っていうかぁ、女の子攻略するのってそもそもめっちゃ大変だし」

「それは翔太の話じゃん」

「そもそも、タイムとか競う系のゲームってレースゲームくらいしかなくね?」

「たしかに。マルオカート一択だよなあ」


 バカ話を続ける俺たちに、大斗が呆れたように肩をすくめる。


「クリアまでの時間を競うだけなんだから、別にゲームはなんだっていいだろ」


 シンプルな説明に、俺は先ほどスマホで見たRTAの定義を思い出した。途端、俺の脳の隙間に『RTA』というものがパズルみたいにピタリとおさまる。


「じゃあ、その、きらメモ? っていうのは、女を攻略したらゲームクリアで、RTAってやつだと、その女を攻略するまでの時間を他人と競うって感じ?」

「そういうこと」

「へえ~、すごいな」


 どうやら圭介も理解したらしい。納得したような表情でうなずいている。翔太は一拍遅れで理解したのか、ハッと目を見開き、「えっ!」と声をあげた。


「じゃあさ、それで世界一位ってめっちゃすごいってこと⁉」


 たしかに。ゲームを早くクリアできるということは、ゲームがうまいということではないか。俺だって人並みにゲームはするけれど、早くクリアしろと急かされたってそうそうできるものではない。


「プロゲーマー的な?」


 圭介が大道をチラリと見やる。つられて俺も、あの大道が? と視線を投げれば、


「いや?」


 と大斗が遮った。当然、一人盛りあがっていた翔太は「へ?」と間抜けな声を出す。俺だって「は?」と大斗へ視線を戻した。圭介に至っては「世界一位なら充分すごいだろ」と大斗をたしなめるように笑っている。

 だが、大斗はさも常識と言わんばかりに俺たちを見て一言、


「誰でもなれるんじゃね」


 あっけらかんとそう言い放った。


 ――誰でも一番になれる。


 疑問をぶつけることも、否定をすることだってできたはずなのに、俺の感情は言葉にならなかった。


 ただ、騒がしい教室の雑音をすべてかき消すように、窓の向こうからザァンと大きな波音が俺の前を通りすぎていった。

 前書きにも記載しましたが、特定のゲームを思わせるタイトルで、お気を悪くしてしまった方がいらっしゃいましたら、大変申し訳ありません。

 ちなみに、私は、この作品も、この作品のRTAもめちゃめちゃ大好きです!!!!

 なんのゲームかわかった! という方、ぜひ、RTAも見てみてください!!!!

 最高に狂っていて(ほめ言葉)めっちゃ面白いので……! 何卒よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいい [気になる点] BLっ気があってなんかかわいい [一言] 見守っておきます
[良い点] RTAって、またそのゲームの違う一面が見られるので、楽しいですよねッ! 「誰でもなれる」なぁ。ぱっと見はそう見えるんだよなぁ、あれ。 プレイ人口が増えるのは嬉しいことなのですが……競うの…
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