自宅庭の池の最期
うちのダンナ詩集です。生々しい死別の話になりますので、辛そうな方はブラウザバックお願いします。
庭の池をさらえた
70センチしかなくて
何度金魚を買い直しても
どんどん殺してしまった池
小さすぎるせい
アイビーの葉毒が落ちるせい
私が水を替えないせい
それでもたまに蛙は棲みにきてくれて
あなたは嬉しそうに「フロギー来た」って笑ってた
蛙を掴まえに草蛇まで現れた
あなたが逝って3年と5か月
あなたが召される前日
ホスピスへの救急車を待たせながら
ベッドに腰掛けてあなたは用を足した
あなたが意識のあったあれが最後
自発的に動いた最後
あなたは最後まできちんとしたあなたで
ホスピスから独り戻った私に遺されたのはまず
尿瓶だった
あなたの生の証の液体
飲みはしなかったのだから
私の執着もさほどではない
とぼとぼと音を立てて
私はそれを池に流し込んだ
死んでしまった池に
死んでしまったあなたの液体と
私の心
似合う気がしたから
3年と5か月
もし何らかのあなたの名残りが
濁った水に遺されていたなら
それらは全て庭の土に
染み込んでいった
あなたの二酸化炭素を吸った花々と
窒素を養分にした芝生とを
私は再生できるだろうか
秘密は心にしまい戻して
新たな形で
あなたの生を言祝ぐ庭にできるだろうか