へのへの森田の胸の内3
森田M「何気ない一言だったのは分かってるんだ。それでも、花楓が「見てみたかった」って、もう見れないんだって諦めたような言い方をしたのが、本当に、ただ本当に、悔しかった。同時に、なぜ村瀬といると色々考えてしまうのか、分かった気がする。村瀬は最初から諦めたりしないんだね。どうせ無理だからとか、このぐらいで良いだろうとか、そんな風に始める前に諦めたりしないんだ。僕はずっと諦めてしまっていた。花楓と高校に行けなかったのも、映画館に行けなかったのも、誰も僕に恋愛関係の話題を持ち掛けないのも、全部仕方がないと思ってた。望む事すらしなかった。そんな僕が、花楓が諦めた事を悔しいと思った。本当に、ただ本当に、悔しいと思ったんだ。ねえ、花楓。僕は学校という空間を見てもらいたくてこの作品を作る事を決めたけど、違ったよ。今、本当に君に見せたいのは、僕が関わっている、この人達の方だ」
8、学校・教室(昼休み)
昼ご飯を食べている。
由希「そういえば最近へのへのもへじ描いてないね」
森田「だいぶ描けたから」
村瀬「あれ、目的があって描いてたのか?」
森田「作品展に出品する作品の題材にしようと思ってるんだ」
村瀬「悪い、ただの落書きだと思ってた」
由希「どんな作品になりそうなの?」
森田「学校を表現したいんだ。石こうっぽくしたいから石こう粘土で作ろうかと思っているんだけど、サイズ感に迷ってて――」
村瀬「まてまて、分からねえ」
森田「え? あ、ごめんね」
由希「良い作品になりそうなんだね」
森田「どうなんだろう? 僕はいつも見せたい物を作ってるだけだから」
村瀬「見せたい物? 作りたい物じゃなくてか?」
杏里「そういえば、前に言ってた人を描こうと思うとへのへのもへじなるっていうのは、どういう意味だったの?」
森田「ああ、それね。うーん、やっぱり説明し難いんだけど、人は同じパーツで出来てるじゃない? 同じ素材で構成されてて、みんな同じなんだ」
杏里「同じ顔に見える、的な?」
森田「いや、そうなんだけど、そうじゃなくて……。なんて言うんだろう? ちょっとの差しかないんだよ。それを上手く表現できなくてへのへのもへじにするしかなかったと言うか……。ごめんね、やっぱりまだ上手く言えないや」