へのへの森田の胸の内2
5、学校・美術室(放課後)
森田、美術室に戻ってくる。
瑠花、キャンパスに向かい続けている。
村瀬「麻見は、彼氏とかいないのか?」
瑠花「いないね」
森田「何の話ししてたの?」
瑠花「彼氏がいるか聞かれた」
森田「ああ。村瀬は付き合いたてで、彼女にどう接したらいいか分からないみたいなんだ」
森田、席につく。
瑠花「ふーん。とりあえず、デートでも誘えば良いんじゃない?」
村瀬「どこに行けば良いんだ?」
瑠花「知らないよ。映画とか行っておけば良いんじゃないの?」
村瀬「映画、か。趣味が分からないんだよなぁ」
瑠花「別に行ってから何観るか決めれば良いじゃん」
村瀬「女子ってそれで良いのか?」
瑠花「逆に男子ってそれじゃダメなわけ?」
森田「ふふふ。僕も麻見に賛成」
村瀬「マジかよ……。分かった。ちょっと考える。じゃあ、俺は帰るわ」
森田「うん。気を付けてね」
村瀬、美術室を出る。
瑠花「部員でもないのに、いつの間にか居ついたね」
森田「だね。でも楽しくていいじゃない。なんか、村瀬といると、色々考えるんだ。村瀬ってクールに見えてけっこう一生懸命だよね」
瑠花「森田、あいつに花楓の話、した?」
森田「彼女がいるとは言ったかな?」
瑠花「気になってるらしい」
森田「教えてあげた?」
瑠花「まさか」
森田「そっか」
瑠花「花楓は、最近どう?」
森田「良くはないみたいかな?」
瑠花「そっか」
6、病室
森田、ノックをして引き戸を開ける。
花楓「平次くん」
森田「調子どう?」
花楓「今日は、まあまあ。平次くんは? 面白い事あった?」
森田、椅子を引き寄せて座る。
森田「それがね、人の告白現場に居合わせちゃった」
花楓「え、えっ、それ、どうなったの?」
森田「付き合う事になったみたいだよ。なんか、互いにまだ好きって感じじゃないみたいたけど……。でも、良い感じみたい、かな?」
花楓「そうなんだ! やっぱり、高校生って大人っぽい? アルバイトとかして、皆働いてるんでしょ?」
森田「僕、大人っぽい?」
花楓「平次くんは……、変わらない」
森田「そんなもんだよ」
花楓「そっか。すぐに変わったりしないよね。学校は広い?」
森田「そうだね、広いよ。教室の数も多いし、野球部の専用グラウンドがあるんだ。美術室も広くて、黒板が上下に動くスライド式なんだよ」
花楓「ええ、見てみたかったなぁ」
森田「文化祭、呼ぶよ」
花楓「うん! 楽しみだなぁ」
森田「えっと、花楓さん」
花楓「何でしょう、平次くん」
森田「ぎゅっとしてもいいですか?」
花楓「昨日、髪を洗ってもらったから、良い匂いがしますよ」
7、学校・美術室(放課後)
森田、鉛筆でスケッチを描いている。
瑠花「森田、なんかあった?」
森田「ないよ?」
美術室の戸が開き、村瀬が入って来る。
瑠花「映画はどうだった?」
村瀬「ああ。まあ、楽しかったかな」
瑠花「ふーん」
森田「映画、いいよね。僕も行ってみたくなっちゃったよ」
森田、手を止めずににこにこ笑う。
村瀬「森田も彼女と行けば良いんじゃないか?」
一瞬、間が開く。鉛筆の音だけが響く。
村瀬「な、なに……?」
森田「僕の彼女、ずっと入院してるんだぁ。次の外出の時いけるか聞いてみようかな?」
瑠花「……あんた、今日は集中したいから帰って」
村瀬「あ、ああ。邪魔して悪かったな」
森田「気を付けてね」
村瀬「ああ」
森田、鉛筆を動かし続ける。
村瀬、美術室を出る。