四月 第三部
四月も中ごろ、新しいクラスにも慣れ、本格的に授業が始まる。
黒板の前には担任である若井先生が立っている。英語の授業を担当しており、若く見えるのにとてもわかりやすい授業だ。さすが、若井先生。
そのあとも真面目に授業を受け、昼休みになった。購買に行こうか、食堂に行こうか迷っていると___
「一叶!一叶!一緒にご飯食べよ」
これまで何度も聞いた元気な声が届いた。
「ああ、そうだな。けど、なにを食べようか迷っててな。睦姫はいつも通り弁当か」
「うん、そうだよ。迷うくらいなら一叶の分も作ってあげるよ?」
と、魅力的な提案をしてくる。睦姫の弁当はいつも美味しそうだ。
「いや、それはさすがに悪い。大変じゃないか?それに、部活の朝練とかで忙しいだろ」
「全然!一人分も二人分も変わらないよ?明日から作ってあげる」
「うーん、僕としては助かるけど…」
僕が渋っていると、後ろの席から気の抜けた声がした。
「いーなー、俺にも弁当作ってくれー、一之瀬」
そう言って天麻も会話に加わってきた。
「おいおい、流石に図々しいだろ。睦姫に負担を掛けるなよ」
「なんだよ、お前はよくて俺はだめなのかー?ずるいだろー」
こいつ…さっきの授業まで寝てたくせに。こういうところはしっかり聞いてやがる。
「僕は何も言ってない。お前は睦姫にたかるな」
「たかるってなんだよー」
「まあまあ、二人とも落ち着いて、天麻くんも覚えてたら明日、作ってくるから」
「まじ?やったー!一之瀬の弁当が食えるー」
その答えを聞いて無邪気にはしゃぎ始める。「覚えてたら?」と少し引っかかっているが、またはしゃぐ。
「一叶の分も作ってくるね」
はしゃぐバカを横目に睦姫がそっと耳打ちしてくる。
「ありがとう。でも、大変だったらやめていいからな?僕の分もこいつの分も」
未だに落ち着かないやつを見ながら答える。
「うん、わかった。一叶はやっぱりやさしいね」
近すぎて見えなかった顔が離れ、笑顔が見える。
まあ、この笑顔に免じてこの舞い上がっているバカの発言は不問としよう。
明日の弁当に期待をしつつ教室を出る。今日は購買で何か買おう。教室を出た僕たちを現実に戻ってきた天麻が遅れて追いかけてくる。
「待てって、おいてくなよー」
悪態をつきながら三人で移動する。あのまま突っ伏してればよかったのに。
一叶は基本的に天麻の扱いが雑です。まあ、仲がいい証拠でしょう。
今回も新キャラは無し。次は登場するかも。
そろそろ話をすすめます