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第25話 夜襲

「《《今から》》? まさか夜襲を?」


 ハルトマンが怪訝そうな顔をするが、リシュエルは当然とばかりに頷いた。


「我等は闇を見通せる夜が本領。飛び道具を相手には都合がいいでしょう?」


 後は見ていろとばかりに言葉を切ると、先に天幕から出ていたアバドンの少し後方へ陣取るリシュエル。


「何を始めるつもりだ? そもそも兵はどこに……」


 エスデルクが呟くが、答える者はいない。皆固唾を飲んでアバドンを見守るばかり。


「主よ。この戦を御身に捧げます。とくとご照覧あれ」


 アバドンが短く祈りを告げたその瞬間だった。


 どくん、と心臓が跳ねるような鼓動が周囲へ走り、天幕の布を揺らした。


 それが数回起きた頃、誰の目にも明らかな異変が現れていた。


 アバドンの身体が、数倍に膨れ上がっていたのだ。


 鼓動は止まず、アバドンの膨張も止まらぬまま。

 ついにはエルヴン軍の櫓と並ぶまでとなった。


 アンデッド軍は今や、アバドンの身体の内に凝縮して収納されていたのだ。


「さあ、始めましょうか。蹂躙を」


 すでにアインの背に乗り、短弓を準備していたリシュエルは、周囲の天幕の陰へツヴァイとドライを連れて消えて行った。


 巨大化して残ったアバドンのやることは、その場の者皆が、その頃には見当が付いていた。


 腕を大きく振りかぶり、足を力強く踏み出して、エルヴン陣営へ突撃を開始したのだ。


 その地震と聞き間違えそうな足音と揺れに、エルヴンの見張りが慌てて警鐘を鳴らすも時既に遅し。


 辛うじて放った火炎弾や矢も圧倒的質量で弾き返し、アバドンの拳は櫓の半数以上を一撃で叩き壊していた。


 しかも恐ろしいことに、アバドンは巨大化しても動きが鈍化しておらず、すぐさま返す左腕を振り下ろし、櫓を完全壊滅させた。


 これでは生存者がいようとまともに機能しようがあるまい。


 その場には構わずすぐにアバドンの取った行動は、エルヴン軍を更なる絶望に叩き込むのに十分すぎた。


 ぐっと腰を落としたかと思うと、ふっと姿を消す巨体。


 気付けば、遥か高みの宙へ跳んでいたのだ。


 そして強烈な飛び蹴りを見舞い、城門どころかエルヴン城を半壊させたではないか。



 すでに人の身でどうにかできる範疇になく、逃げ惑うエルヴン兵を、誰が責められようか。



 更におぞましい事に、今のアバドンはその身に収納したゾンビ達を重ね合わせて作った、いわば張りぼての身。アバドンが派手に動けば動く程に、ぼろぼろとゾンビが剥がれ落ち、地に堕ちた者は付近にいた生き残りのエルヴン兵へ襲い掛かって行ったのだ。


 あまりのことに呆けていたエルヴン兵は、この奇襲に対応できず、次々と捕まってはゾンビ化していった。





 城内にまでゾンビが雪崩れ込み、混乱の坩堝と化していた頃、リシュエルは城から伸びる、とある地下道にいた。

 言うまでもなく、王族専用の抜け道である。


 程なくして、曲がり角から松明の明かりと聞き覚えのある罵詈雑言が響いて来る。待ち伏せなど一切考えていない迂闊さで。


「なんなのよあの巨人は! あんなの反則じゃない! ふざけんじゃないわよ!」」


 我ながらそうは思うが、天、あるいは戦神はリシュエルに味方したのだろう。


 曲がり角からもうすぐ何者かが姿を現そうと言うタイミングで、リシュエルはツヴァイとドライを先行させた。


 途端に響き渡る絶叫。

 アインに乗ったまま曲がり角まで行けば、壮年の男と少女の姿をしたエルヴンが、それぞれ喉笛を噛み千切られ絶命していた。

 ついでに言えば、お付きのメイド達数人もだ。


「さっすが手塩にかけて育てた子達ね。良い手際だと思わない?」


 短弓を相手の眉間へ照準を合わせながら、リシュエルは言葉を紡ぐ。


「ねえ、お姉様?」


 その視線の先には、ツヴァイに押し倒され、ドライに喉元を抑え込まれた少女が悔し気にリシュエルを睨んでいた。



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