新魔王の元従者
少年はその日、運命を呪い、恨み、憎んだ。
その日、主を失い。仕事も失い。大切なものすべてを失った。すべて失った結果にこんな力だけが残った。
この時少年は、すべてを憎んだ。
少年自分自身をも。 少年は願うことになる。
あのようなことなことが起きないような力が欲しいと。
そして、少年は追い求めるだろう。
大切なもの取り戻す方法を。
僕の使命は彼女に従い、いざとなれば自分の身を犠牲にして彼女を守ること。
それが今、脅かされようとしている。
振り下ろされた剣が僕に向かって一閃されようとしている。
「う、うあああああああああああ!」
僕は、臆病にも身をかがめ、うずくまっている。
こんな情けない姿を後ろにいる彼女に見せたくはなかった。
振り下ろされた白刃がゆっくりと流れる。
走馬灯が何秒もの時間を作り出し、後悔の念だけを脳内に見せる。
(ああ、僕は本当に役立たずなんだ、意気地無し、愚図で、守りたい人すら守れない)
月明かりを帯びた刃がゼノンを切り裂こうと首の寸前に届こうとしていた。
次の瞬間。
「ゼノン」
彼女、ティア・マーセル・ラプラスが意気地なしを突き飛ばす。
剣は豆腐を切るが如くするりと、彼女の右腕を体から分裂させる。
彼女の腕は宙を舞ってべットの上に落ちる。
ティアの左腕の切り口から大量の血が吹き出ている。
それを眺めていた僕は、自責の念に襲われる。
「痛い、血が、血が止まらない。
ゼノンあなたは生きてだから早く逃げて」
「僕のせいだ、僕のせいだ、はあぁ、はあぁ、はあぁ」
茫然自失でうなだれている、ここに来て初めて侵入者口を開く。
「選ばれしお方はそっちか
ふっはっはっははははははははは」
わけのわからないことを言って、高笑いをしているやつは、倒れているティア様に手をかざして何かをしたように見えた。
僕は、ようやくティア様の元へ駆け寄ろうとすると、再びやつは標的をゼノンに定めた。
次の瞬間、侵入者の右足振り抜かれ、鈍い音ともに衝撃が襲う。
それを理解したのは、侵入者の振り抜かれた足がゼノンに命中し、後方5mの壁に吹き飛ばされた後だった。
その衝撃で視界がぼやけ、意識をも朦朧とした。
焦点が定まらない眼で、ティア様を捉えようと必死に走らせるが、そこにはもう奴もティア様も居なかった。
最後の記憶はそこまでだった。
「うう、はっあ、ティア様は?」
意識を失ったところから、起き上がるとそこにはティアの姿はなく、ティアの床に飛び散ったティアの血すらなくなっていた。
かと言って壁にできた大きなへこみは視認できた。
そこで、僕は思い出した。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
僕のせいだ、僕のせいでティア様は」
自分の体たらくさに死にたくなるほど、にくい、呪いたい。
そして、ティア様を傷つけたあいつもにくい、にくい、にくい。
『にくいのですか?』
「ああ、にくい、今すぐ殺したい。それに、主を取り戻したい」
何かが聞こえたような気がして、とっさに答えてしまった。
次の瞬間、魔法陣が展開する。
「あっ」
突然力が抜け、床に倒れた。
体が熱い(主に頭部が)。体も動かない。意識が飛ぶ。
うめき声を上げる僕。
悶絶する僕は、再び気を失った。
「あれ、僕は何をしていたんだ、思い出せない」
先に起こったことすら思い出せない僕は、ある異変おこっていることに気づく。
屋敷内であるだろう、倒れていた場所だけ部屋がなく、地面になりそこから先はいつもと一緒で見覚えのある廊下が続いていた。
「なんで、なぜ部屋がない?」
と、ぶつぶつ独り言を言いながら、頭皮をかこうとすると、何かに当たった。
それは、本来人間にはないものであり、魔族にも持っているもはすくないという『角』。
「なんだ、なんだ、これ」
動揺を隠せない僕に、リンクするように昨夜起きた出来事よみがえってくる。