閑話【プリンセス、夢を見る】
私は自室の窓から、星を眺めていた。
「サラお嬢様、国王様が食堂でお待ちです。本日は国を上げてのお嬢様のお誕生日パーティ。さぁ、ダンスホールへ向かいましょう?」
使用人が私に話しかけてくるけれど、私はそれに従いたくない。
「どうせ、お父様が貴族たちに私とエレ皇太子の婚約を発表するための場でしょ? 皆、私より私がどんな地位に就くかしか興味がない。こんなの、私へのパーティじゃなくて私の地位へのパーティじゃない」
私は、もっと自分を見てほしかった。
小さい頃からそうだった。お父様は私を政治のカードに使うことしか考えてなくて、私がどう成長するかよりもどんな相手と結婚するか、ということしか私に説いてくれなかった。
どんなことも、すぐ花嫁修業という言葉に関連させる。
唯一好きでやっていた術の勉強だって、「そんなものは男の仕事だ」と言って教本を取り上げられた。
それからは隠れて練習をしていたが、それが見つかるとこっぴどく怒られた。
所詮お父様は私を娘としてじゃなく道具としてしか見ていない。
「私、もっと自由になりたいわ」
「お嬢様は充分自由でございます。スラムには生きることすら厳しい子供達だっております。十四まで生きられたお嬢様は、そういった者たちに比べると遥かに自由でございます」
「そうかもね」
昔一度、お忍びで下町に出かけたことがある。
みんな生きることに一生懸命で、自分が売れるものは何が何でも売る、くらいの気持ちで道行く人に声をかけていた。
確かに、その日を生きることは難しいかもしれない。
でも、自分がやりたいことを好きな時にできる、ということの方が遥かに自由だと感じる。
街の人たちと私の違いは、自分の時間を自由にできるか、お金を自由にできるかの違いだと思う。
お金があれば生きることには困らないし、物欲はすぐに満たされる。
でも、物欲なんていうのは、満たされ続ければ虚無を生む。
ある時から、私は自分のやりたいことをどうにかしてできないか、ということばかり考えるようになった。
術の教本が欲しければ使用人と口裏を合わせて下町に買いに出かけたり、外国に行きたくなれば稽古の先生に外国の話を聞いたりした。
それでも、やりたいことは際限なく膨れ上がる。
そして、それは今日、この「自分のために開かれた、自分のためではないパーティ」によって爆発した。
「もう、私は嫌。全部、いやぁ……」
私がこぼした涙は強く吹いた風によって明後日の方へと飛んでいく。
私は、この縛られ続ける生活が嫌だ。
私は、やらされ続ける勉強が嫌だ。
私は、好きでもない人と結婚させられることが嫌だ。
私は、この世界の全てが嫌だ。
なら、いっそ————
「お、お嬢様!? おやめください!」
私は嫌いな世界に別れを告げるように、テラスから身を投げた。
できることなら、次の人生は自由に生きられるように願いながら。