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4【プリンセス、ショッピングモールを満喫する③】

 トイレで着替え終わったサラは、満足そうにショッピングモールを闊歩する。

 辺りをきょろきょろと見回しては、逐一目を輝かせるため見ていて飽きない。


「ねぇカンザキ、あれは何?」

「あぁ、あれか? あれはペットショップって言ってな。犬とか猫とか、そういう癒される生き物を買うお店だ」

「へぇ……。あれだけの量の生き物を隷属させておくっていうのは、かなり大変そうね。脱走とかしないのかしら?」

「脱走の心配は多分ないと思うぞ。……というか、他にもっといい言い方無かったのか……」

「しょうがないじゃない、それしか思いつかなかったんだもの」


 そんなやり取りをしながら、俺とサラはお店の数々を通り過ぎていく。

 ペットショップから数十メートル程歩いたあたりで、何故かサラは突然立ち止まった。


「ん、どした」

「……私、大変なことに気付いてしまったわ」

「……な、なんだよ」


 サラは深刻そうな表情をすると、重々しく口を開く。


「私、おなかが空いてしまったの」

「なんだよ、飯かよ。心配して損したじゃねぇか」


 どんな重大な発表があるのかと身構えた俺がバカみたいじゃねぇか。

 しかし、サラはそうもいかない様子。


「だって、普通食事というものは持ち歩くものでしょう? だと言うのに、今日出かけると聞いたとき、食事のことがすっかり頭から抜け落ちて……!」


 成程、向こうの世界ではどこかに出かける際は食料を持ち歩いていたのか。


「……ん? 待てよ、サラの世界には外食する店なかったのかよ」

「あったわよ。でもそれは庶民向けで、私は王族だったから一度も利用したことなんてなかったわ」

「……贅沢だな」

「お金があった、っていうのもあるわよ。でもそれ以前に、そこらの店で王族が食事をするっていうのはタブーだったの」

「そりゃまたなんでだ?」

「王族が死ねば、後継者争いが起きる。それが一人息子だったとしたら、なおさらね。だから、酒場とかそういう外食の店っていうのは暗殺にもってこいだったのよ。私の王位継承権はそんなに高くなかったから、私は利用してもあんまり問題なかったと思うけど、それでもお父様は政治のカードとして私をそういう危険な場所に連れて行ってくれたことは無かったから」


 ……成程な。

 というか、よくよく考えてみたら当たり前だよな。王家の人間がそこら辺の居酒屋でお酒を呑む、なんてこと本来じゃありえない話だ。

 たまにそこら辺を徹底してないライトノベルなんかがよくあるから、王族でも外食経験くらいはあるもんかと思ってたが、そういう訳でもないみたいだな。


「まぁ、日本の店で出される食事に毒が盛られるなんてことはほとんどないから安心していいぞ」

「……ほんと?」


 サラは俺の説明でも未だに不安そうにこちらを見上げる。


「大丈夫だって。そんなに不安なら俺が毒見してもいいぞ」

「まぁ、そこまで言うなら……」


 俺の説明を聞いたサラは、しぶしぶと言った様子で俺の提案を飲み込んだ。


「じゃあ飯屋、行くか」


 やっぱり、飯と言えばあそこだよな。


◇◆◇


 やってきたのはセイゼ。

 とてもリーズナブルな価格で本格イタリアンが食べられると言うことで、JKからイタリア人にまで幅広い世代と人種に人気なお店だ。

 席についた俺とサラはメニューを開き、料理を吟味する。


「何でも好きなもの頼んでいいぞ。……俺はこのトマトスパゲッティにしよう」


 これはメニューを開いて三秒で即決すると、サラはその名前を聞いて顔を歪めた。


「……あんた、トマトなんて食べるワケ?」

「なんだよ。トマト、おいしいだろ」

「私としては、どうして観葉植物を食べるのか、理解に苦しむわね」

「……は? 観葉植物? 何言ってんだ。トマトはトマトだろ」

「あんたのとこではそうなのかもしれないわね。でも、私がいた世界ではトマトは観賞用だったの」

「不思議なこともあるもんなんだな」

「逆に、私の世界ではでっかいカエルがいて、それが雨季に大量発生するから食料としてたしなまれている、って言ったらあんた卒倒するでしょ?」

「……確かに」


 料理にカエルの肉が出てきたら、確実によける自信がある。


「そう言うことなのよ。……それじゃあ、私はこのハンバーグステーキを頼むわ」

「はいよ」


 料理が決まった俺たちは、ボタンを押して手早くウエイターに注文内容を伝えた。


「一応ドリンクバーも付けといたから」

「ドリンクバー? なにそれ」

「飲み物が飲み放題になるってこと。というか、サラは俺の脳みそ全部見たんじゃないのか?」

「全部は見てないわよ。必要な分だけ。だって、見知らぬ大人の男の頭に触れている、っていつ襲われてもおかしくない状況よ?」

「そんな、人聞きの悪い」

「今ならもちろん、そんなことはほぼ確実にやらない人だってわかってるわよ。でも、あの状況じゃそれは分からない。だから、意思疎通に必要そうな言語情報と、それに付随する現代水準の文化情報だけ抜き取った。あの短時間じゃ、あんたの脳みそにある全部の情報は見れないわよ」

「……そうだったのか」


 ……え? だったらグラビアの情報とか必要なくない?


「あんた、グラビアアイドルの件について考えてたでしょ」

「え? なに、サラの術は脳みその内容までわかるわけ?」

「それは禁術で教えてもらえなかった」


 あるのかよ。


「けど、なんとなく予想できるわよ。……言っておくけど、あれは不可抗力だからね。情報を探すときに、ちらっと映って『キモっ』って思っただけだから」


 ひどい。そんな、思ってることをストレートに言わなくてもいいじゃん……。


「じゃ、私はそのドリンクバー、っていうの、取ってくるから」

「はいよ」


 ……そうして数十分、お互いに雑談を交わしながら料理を待っていると、やっとウエイターが二人分の料理を運んで持ってきた。


「……これが、こっちの世界の肉料理なのね……」

「まぁ、ハンバーグはかなりこっちの世界ではオーソドックスだろうな」

「この食器を使って食べればいいの?」


 そう言ってナイフを縦に突き刺すサラ。


「違う! お前、ナイフで食べたら危ないだろ! ナイフはこう、んでフォークは切ったやつをこうやって……」


 俺は対面からサラの横に移動すると、サラの手を握ってナイフの持ち方とフォークの持ち方を教える。


「ちょ、ちかっ……」


 サラはむすっとしながら、しかしちゃんと話は聞いている。


「わかったか? ナイフとフォークの使い方」

「わかったから、離れて頂戴」


 ナイフとフォークの使い方を聞き終わったサラは、明らかに不機嫌そうな表情をこちらに向けてくる。


「あ、ごめんな……」


 そういえば、彼女は大人っぽく見えても十四歳。

 今のは大人が子供を扱うような態度だったとはいえ、少しデリカシーに欠ける行動だったか……。


「いただきます」


 しかし、サラは俺が元の席に戻ると今のを全く気にしていなかったかのようにハンバーグを頬張り始めた。


「ん~……、おいしい……。結構いけるわね、これ」


 口に入れてすぐ、頬が緩んでいる。


「おいしいか、ハンバーグ」

「もちろん! 元の世界じゃ、はぐはぐ、香辛料なんて高級で、んっく。こんなふんだんに、はむっ、使った料理なんて、はぐはぐ、めっはになはっは……、はぐはぐ」

「わかったから、一回飲み込んでから喋ろうな」

「んっく。……食べてる最中に話しかけてきたのはどっちよ」

「それはすまない……」

「……まぁ、料理はとてもおいしいからそれでチャラにしてあげるわ」

「ありがとさん」


 サラはツンケンした態度だが満足している様子なので、俺もその様子を見て安心した。

 俺も自分が頼んだトマトスパゲッティを口に運ぶ。

 うん、おいしい。食べる瞬間にサラが顔をしかめた気がするが、気にしない。


 食事が始まると、お互い無言になった。

 サラは食事中にあまり話す方じゃないのか、それとも料理に夢中になっているのか、こちらに話しかけてくれない。

 俺も別に食事中に話すタイプではないので、結果二人は黙々と手を動かすことになる。

 そうやって食事に集中していたためか、いつの間にかお互いの皿は空になっていた。


「……それじゃ、買いたいものも買い終わったし帰るか」

「そうね。帰りの案内もよろしく頼むわ」


 ……これ、完全に俺従者扱いされてるな。

 まぁ、別に俺も子供の相手をするのは嫌いじゃないし、いいか。

 子供の相手が嫌いだったら塾講師なんてやってないからな。


 俺たちは会計をしてセイゼを後にし、まっすぐバス停へと向かった。

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