3【プリンセス、ショッピングモールを満喫する②】
「わぁ…………!」
ショーウィンドウに張り付くサラ。
窓ガラスと一体化するんじゃないか、と思えるほどおでこをくっつけながら食い入るように見つめているのは、店員さんがレイアウトした洋服の組み合わせだった。
白のビクトリアブラウスに、黒のジャンパースカート。見た目は「ふゆと死ぬのよ」の人の2Pカラーのような感じだ。
普段のツンケンしている態度と比べると天と地ほどの差で、できれば普段もこれくらい手のかからない性格だと助かるのだが。
「ちょっと、何やってんのよ、カンザキ! 早く来なさい!」
「はいはい、今行きますよ、お嬢様」
ぷりぷりと怒るお嬢様に呼ばれ、俺はサラと一緒に店内へと入る。
中学二年生の女児にしてはファッションセンスがない少女と、その少女を引き連れた二十代後半の成人男性。
はたから見ると犯罪的であるからだろうか、店員からは若干訝し気な視線を向けられ、何とも気まずい気分になる。
そんな気まずさをかき消すため、店員に声をかけた。
「あ、あの、すいません……」
「ふぁ、ふぁい!」
怪しみながら見ていた男から突然声を掛けられたからだろうか、店員は素っ頓狂な声をあげた。
「あの、えーっと……。し、親戚が一人で海外から留学に来て服を買いに来たんですけど、俺、ファッションセンスとか無くて……。いい服を見繕って欲しいんですけど……」
「あ、そういうこと……。了解いたしました。あれくらいのサイズですと……」
服屋の店員は、俺の話を聞くと何やら納得した様子で女児服コーナーへと向かっていく。
そこへ、サラが戻ってくる。
「カンザキ、私この服が欲しい」
そう言って籠に入れて服を持ってきたサラは、籠を置くと服を取り出して広げて見せてきた。
それは赤のシフトドレス。生地がかなり柔らかく、肌に密着するようサイズも少し小さめに作ってあったため、サラが着るとかなり体の起伏が強調されるような製品だった。
「それはちょっと戻してきた方がいいんじゃないか……?」
そこへ、ある程度よさげな商品を見繕ってきてくれた店員が戻ってくる。その商品を見てぎょっとした。
「そういう性癖……?」
店員が何か言った気がするが、聞こえなかった。だが、プラスな内容ではないことは間違いない。
「いいじゃない、カンザキ。あんた、こういうの好きでしょ」
「いや、そんなことないから! 人様がいるところで誤解されるようなことを言うんじゃない!」
「しかも苗字呼び……?」
店員はさらに怪しんだ視線を向けてくる。
襟元のマイクを口に近づけ、今にも内線で通報されそうな予感。
「かっ、買います、お姉さんが持ってきた服、買いますからっ! ありがとうございますっ!」
その場にいると俺が捕まりかねないので、俺は店員の女性から服をかすめ取り、そのままレジに向かって走った。
「こっ、これ下さいっ!」
「え? は、はぁ……」
レジ係の人は困惑しながらも、黙々とバーコードを通していく。
サラが持ってきた服を通す際にぎょっとした気がするが、気のせいだろう。気のせいということにする。
「合計三万九千円になります」
「あ、はい、クレジットカードでお願いします」
三万九千円、一気に買ったのもあるが、やはり洋服いうのはかなり値が張るなと改めて思う。
引き落としが終わり、袋を受け取ると若干早歩きになりながらもそそくさとウニクロを退出する。
サラを置いてきてしまったか、と少し離れて思ったが、振り返るといつの間にかひょこひょことついていていた。
「その服、今着たいんだけど」
「着るとこないだろ」
「多目的トイレでもどこでも、入ればいいじゃない」
「いや、でも……」
サラは、言うと俺の言葉を待つ様子もなくトイレの案内表示に従ってトイレに向かって歩いて行く。
「はぁ……、しょうがないか」
服は俺が持っているし、着替えられなかったら意地でもトイレの前から動こうとしないだろう。
仕方なく俺はサラを追ってトイレへと向かった。
「あっ、下着買うの忘れた……」
男の俺としては女性用下着なんて敬遠したいものだが、サラには絶対に必要な物だろう。
……プライム会員だし、あとで頼めば明日には届くかな……。