24【恢復】
……俺は、銃撃された。
腹部が破裂するような衝撃も喰らったはずだ。
……だと言うのに、意識はある。
いや、もしかしたらこれも意識だけがどこかに浮遊しているだけで、身体は死んだのかもしれない。
それか、これから異世界転生するとか?
別の世界から女の子がクローゼットに転移してくるだけでもラノベっぽい展開なんだ。この後俺がサラの世界とか、はたまた別の世界とかに転移しても何ら不思議じゃないよな。
ほら、俺の目の前にも女の子がやってきたし……。
「あら、思ってたより早く死んじゃったんですね?」
「……え? 崎葉先生?」
ってことは、崎葉先生の種族って天使だったの?
「私の見立てだと、あと三年くらいは生きると思ってたんですが」
「長く生きても三年だったのか……」
「まぁ、そんな感じの試練を味わう予定でしたので」
「崎葉先生が味合わせるの?」
あら、この人って意外とSだったのかしら?
「別に私が試練を与えるわけではないですからね? アカシックレコードに基づいて、知ってることをお伝えしてるだけですから」
「あ、アカシックレコード?」
「ご存じないですか。まぁ、無理もないですね。アカシックレコードは、簡単に言うと世界の誕生から終了までの全ての出来事が記載された図書館のような場所のことです」
「そんな場所が……」
「と言っても、入館証が必要なので一般人が簡単に入ることはできないですけどね。人間で生きているうちに入ることを許されたのはバートリー・エルジェーベトとシュリニヴァーサ・ラマヌジャンくらいでしょうか」
「そんな人がいるんですね……」
「話が逸れましたね。とにかく、本来であれば三年後に命の危機に瀕する予定だったんですよ」
「……じゃあなんで俺死んだんですか?」
「良く解りませんね。サラさんが絡んだ影響でしょうか?」
「……そうか」
……まぁ、運命がどうだったとか関係なく、俺は死んだのだ。
ならば、この人に連れられて俺も天国へ行くとするか。
「それじゃあ、俺を連れてってくれよ、崎葉先生」
「何か勘違いされているようですね? 私からは二つ訂正させていただきましょう。まず一つ。私は夢魔なので、あくまでもこれはあなたの夢に侵入しているだけですよ」
「夢魔……?」
え、天使じゃないの……?
「そして、それともう一つ。あなたはどうやらサラの世界の技術で生き返ったようです」
「……え、俺撃たれたのに?」
「ええ。私も詳しい技術が分かっていないので、サラさんには今度お会いした時に詳細をお伺いしたいところですが、とにかく今は死んでいないようですよ」
「……そうか」
サラは、おそらく危険を冒してでも俺を蘇生してくれたのだろう。
死者蘇生の魔法がどれだけ危険なものなのかは分からないが、死者蘇生の技術は不老不死と同様数千年前からずっと人類が研究してきたことだ。
そう簡単に扱えるような代物ではないことは容易に予想できる。
……これで、呼吸と同じくらい簡単に出来たら笑っちゃうけどな。
「……あ、目を覚ます前に一つだけ。一応この蘇生、不完全っぽいんで記憶にガードつけておきますね?」
「……あ、あぁ。ありがとう」
やっぱり、崎葉先生は頼れる人だな。
「今後も、よろしくな」
俺の発言に対して、崎葉先生はいつものように誘惑してくるのかと思ったのだが。
反応は真逆、悲しそうにその顔を悲痛に歪ませた。
「……私は、お二人の味方ではありませんよ」
「……え? どういう意味……」
しかし、俺の発言の答えは得られないまま、意識は浮上した。
浮上、してしまった。




