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20【アイドルの弱気の理由】

「なっ、どうして!?」


 俺は思わず大き目の声を上げてしまった。


「なんでって、もしかしてプロデューサー、知らないワケ?」

「な、なにを」

「何って、GISの出場資格についてよ」

「しゅ、出場資格……?」


 俺の反応にため息を吐くと、旗乃は呆れた視線を向けてきた。


「プロデューサー、GISについて、どれだけ知ってるワケ?」

「恥ずかしながら、GISの存在については今日知ったばかりでほとんど何も知らないんだ」

「はぁ……。いい? 私がGISに出場したくない理由は二つあるの」


 旗乃は二本指を立てる。


「一つは、GISの応募資格は二十歳以下に限られてるってこと」

「二十歳以下? だったら、旗乃の出場資格についても問題ないし、周りのレベルも高すぎるってことは無いんじゃないのか?プロが参入してくることは無いわけなんだから」

「普通ならね」


 俺はその含みのある言い方に疑問を覚える。


「でも、今年は違う。いい? ニ十歳以下ならだれでも出れるってことなのよ?」

「それの何が問題なんだ?」

「はぁ……。ほんとに分かってないのね」


 旗乃はこちらを見据えて口を開く。


「今年は迷路メイロが出るってことよ!」

「……ッ!」


 そういうことか。言われてから気付いたのが恥ずかしい。


「やっとわかったみたいね。この時点で、優勝はかなり危ういわ。ただ、GISに出場するのが難しい理由はもう一つあるわ」

「……教えてくれ」

「まぁ、いいけど。ただ、そのためには私の口から説明するよりこれを見た方が早いわね」


 そう言って旗乃はスマホを操作して動画を見せてきた。

 動画に出演しているのは迷路メイロ。投稿日は一週間前でありながら、再生数は既に五十万を超えていて、高評価も三万以上ついている。


『はーい、みんな見てくれてありがと♡ 今日は、GIS予選の応募動画で~す♡ ってことで、みんな高評価、よろしくね~♪』


 動画内ではメイロが笑顔を振りまきながら視聴者に向けてのメッセージを告げていた。

 それが終わると、メイロは歌いながらダンスを始める。


「これが、私の参加したくないもう一つの理由」

「動画が?」

「プロデューサー、動画の内容ちゃんと見てた?」

「確か、GISの予選とか……」

「そう、GISには動画予選があるの。GISは、『GIS Wildcard』ってタイトルにつけて動画をあげて、動画予選で勝たなきゃそもそも本戦には出場する資格すらないの」

「それは……。かなり、厳しすぎないか……?」

「しょうがないでしょ。これまでのテレビ番組のオーディションじゃ有名事務所に所属してなきゃそもそも出場資格すらもらえなかったのよ。それに比べたら、個人で頑張ってる子にもチャンスがあるってだけでも良心的よ」

「そうは言っても……」


 動画予選と迷路メイロ。この二つの壁を越えなければ、GISで優勝することは難しいという事実に、俺は頭を抱えた。

 だが、すぐに俺は旗乃の発言の違和感に思い当たる。


「だが、旗乃の夢は有名になることだろ? だったら、エントリーだけでもしていいんじゃないのか?」


 だが、旗乃は俺の発言を聞いてさらに不機嫌そうな顔になる。


「仮にもプロのアイドルが集まってる中で、中途半端な動画を出したくはないわ。そんな動画は、彼女たちのプライドを傷つけるだけだから。そんな動画を出すくらいなら、エントリーはしない方がマシ」


 旗乃は、意思の籠った瞳で俺に言う。


「……だったら、それに匹敵するくらいの動画を作ろう」


 だとするならば、俺もプロデューサーとして、そう言わなければならないだろう。


「どうやって。私にはそんな歌も踊りもないわよ」

「……それは俺が考える」


 覚悟を持って、俺はそう告げる。


「簡単なことじゃないわよ」

「それでも、やらなきゃいけないだろ」

「……どうしてそこまで私をGISに出したいの?」

「それは、旗乃が有名になるための一番の近道だと思ったからだ」


 勝算は無い。

 だが、俺は受験で多くの同級生たちに勝った。

 他の参加者たちに勝つために傾向と対策を読み取るのが俺の得意分野なら、それを最大限旗乃の為に使えば、勝機はありそうだと思った。


「俺に、分析する時間を一週間くれ。一週間で、歌詞と振り付けは考える」

「一週間!?」

「……なんだよ。そんなに怒るほど長い期間か?」

「逆よ! そんな短期間で歌詞も振り付けも、考えられるわけがないじゃない!」

「やってみなきゃわからないだろ」

「分かるわよ! どんなプロでも、歌詞を書くのに最低一か月は必要だし、振り付けは最低三か月必要だって知ってるの!?」

「……それでも、俺はやらなきゃいけない。やれば、旗乃は出場してくれるだろ?」

「そんな確証、何処に在るのよ!?」

「……俺は信じてる」


 旗乃は俺の話を聞いて、旗乃は一瞬黙る。


「私が納得できるクオリティじゃなかったら、動画は撮らないから。それは約束して」

「あぁ、分かった」


 俺は旗乃と約束する。

 期間は一週間。その間に、俺は動画予選の歌詞と振り付けを考えることになった。

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