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17【歩み出すアイドル】

「有名……? 今までどれだけ頑張っても有名になんてなれなかった私が、そんなに簡単に有名になれるわけがないでしょっ……!」


 これまで俺の話を聞いてくれている姿勢の板谷さんだったが、俺のセリフを聞いた途端怒りをあらわにした。


「違う、まずは話を聞いてくれ」

「……分かったけど、ろくな案じゃなかったら容赦しないから」

「いいか、今の時代有名になる方法なんていうものはいくらでもある。SNSでバズってテレビに出るチャンスを掴んだ人もいれば、配信者として有名になったことで、テレビから来てくれって頼まれる人もいる。テレビの人に見つけてもらうって方向に頑張るよりも、自分から売り込める人材になってやるって方向で努力してみて欲しいんだ」

「そんな簡単に言うけど……」


 板谷さんは俺の話を聞くと、顔をしかめて俯いてしまった。


「今の状態は確かに、ハッキリ言って元子役っていうブランドがあるだけで、有名になるためのアドバンテージはほとんど土台が無いに等しい。これから有名になっていくためには、これまで以上に厳しい道を歩いて行く必要があるだろう。それでも、俺は夢に向かって、歩いて欲しいと思ってる」

「それは」

「無責任か?」


 板谷さんが言うより早く言葉を遮る。


「……確かに、そうだろう。俺は夢に向かって進んでもらうことを願うだけ。ただの塾講師に手伝えることなんて、数学を教えるか、できても数少ない人生経験から正論を語るくらいだろう。それでも、俺は言わせて欲しい。有名になるために、もっと自分から動いてみないか」

「…………」


 板谷さんは無言だ。

 ……ひどい先生だと、そう思っただろうか。こんな先生になんて頼りたくないと、そう思っただろうか。


「……私が高校を庵田高校にしたいって言った理由、まだ先生には話してなかったよね」

「そうだな」

「私、常ヶ丘高校にはいきたくなかった。偏差値の高い高校じゃアイドル活動なんてできないと思ってたし、それ以上に、校則でアルバイトは禁止だったから。私がアイドル活動してることを学校にバレたら、アイドル活動をやめさせられると思った。だったら偏差値の低いバイトができる高校に入学して、自分の自由な時間を使ってアイドル活動をしたいと思ったの。だから、私の志望校は庵田高校。これは、誰に何と言われても変わらない」

「……そうか」


 つまり、志望校の乖離は夢に向かってやりたいことがある娘と、自分の望む道を進んで欲しい親との衝突だった、ということか。


「先生の言いたいことは分かった。私も、何か自分でできることは探してみる。でも、その代わり先生には一つお願いがあるの」

「仮にも講師だからな。生徒のお願いなら、できる範囲で全部聞くぞ」

「先生には、私のプロデューサーになってほしいの」

「ぷ、プロデューサー? いや、俺はただの塾講師で……」

「先生の話を聞いて、私も配信者になってみたいなと思った。今はテレビで活躍してるタレントがユーチューブに流れてくることもあるから、私が初めても違和感は無いと思ってね。……それから有名になれるかは別だけど。でも、そういう人たちにはみんな企画を考えるプロデューサーがいる。だから、先生は私が高校に入学するまでの間だけでいいから、私をプロデュースして」

「そ、そんなこと急に言われたって……」

「私がやって来たこと全部否定して、新しいことを始めろっていうなら先生も責任取ってくれないと」

「……た、確かにそうかもしれないけど」

「責任取ってくれないなら、私先生を襲っちゃうかも」


 そう言いながら、俺は板谷さんによってベッドに引きずり込まれてしまう。

 そして、そのまま板谷さんは俺に馬乗りに。


「ちょっ、力つよっ!」


 ……ねぇ、最近女性に押し倒されすぎじゃない?


「先生、プロデューサーになるって認めて? じゃなきゃ、このまま続きしちゃうよ」

「つっ、続きって……、何をっ……!」

「先生は女の子にそういうの、言わせたいんだ……。ふーん。……まぁ、いいよ、言ってあげる。先生が私のプロデューサーになるって認めないなら、今先生のいきり勃ってるモノ、私の中に入れちゃうよ」

「ちょ、まてっ! そんなことさせられるわけ……!」

「じゃあプロデューサーになること認めなよ。先生がもし私の中に出したとしたら、私が警察に行ったときDNAの鑑定でバレちゃうかもね? もしそうなったら、その時は先生に襲われたって言っちゃうから」

「わ、分かったから! なるっ、なるから! プロデューサー、なる!」


 俺は流れで、強制的に等しいがプロデューサーになることを宣言させられてしまった。


「はい、言ったね。じゃあ今後は、私が呼んだら来てもらうから。それと、プロデュースお願いね、プロデューサー?」

「板谷さんの中では、俺はもうプロデューサーって扱いなのか……」

「当たり前でしょ。だから、先生も私のことは板谷さんじゃなくて、旗乃って呼んで」

「じゃあ旗乃。プロデューサーからの最初の仕事だ。今日はもう遅いし、家に帰りな」

「……こんな遅くに、女の子を一人で返すわけ?」

「それは……。確かに……」

「今日は遅いし、一緒に泊まって行っちゃえば? というか、泊まるしかないでしょ」

「それはさすがに問題が……」

「大丈夫だって、一緒に出るとこ見られなきゃいいだけだし」

「問題おおありでしょ……。というか、旗乃の性格って初対面のときはこんなイメージじゃなかったんだけど。性格変わりすぎじゃないか?」

「だって、これでも元子役で、元芸能人だし。先生向けの真面目ちゃんな性格も、テレビ向けの清楚系キャラも、読モのときのギャルっぽい性格も、全部作ってるから。もしかしたら、今のこの性格も素に見せた偽物かもね?」

「俺は君が末恐ろしいよ……」


 だが、これは大きなメリットとなるだろう。

 もし今後のメインの活動土台が配信者となる場合、視聴者が求める配信者像を演じるというのはかなり大事なスキルとなる。それは、女性の場合となると特に顕著だろう。

 SNSには、彼氏バレして炎上した配信者が数多くいる。そういった人たちは、彼女のいない視聴者層をうまく取り込めるように多少なりとも性格を繕って配信していたからいざバレたとなると炎上してしまう。その現象が裏付けしているのは、キャラ付けが刺されば刺さるほど視聴者は配信者に期待する、ということだ。

 これは、下手をすれば大炎上の可能性がある博打になってしまう可能性もあるが、もしうまくいけばコアなファンをしっかり獲得できる戦略である。

 それを行っていくためには、どれだけ叩いても埃ひとつでない完璧なキャラを演じる能力が必要になる。

 今後の活動方針によっては、もしかしたら万バズも狙えるかもしれないぞ……!


「まあ、しょうがないから今日は泊っていくしかないか……」

「やったね。一緒に、いろんなことしよ?」

「ダメだ。お前はベッドで寝ろ。俺はそこの椅子で突っ伏して寝るから」

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