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11【プリンセス、修羅場への闖入】

「私を受け入れて下さい……、ほら……」


 崎葉先生は刻一刻とその体を徐々に俺に近づけてくる。


「こ、こういうのは正しく男女の関係じゃないとよくないと思います……! 俺は……!」

「日本には『セフレ』という言葉があります。つまり、必ずしもそういう関係である必要は無いんですよ?」

「なんでそうなるんだ! 順序がおかしいだろ! 急展開すぎる!」


 家に入れたらこんな展開になるなんて誰が想像した? 俺は想像してなかった。

 というか、この人の貞操観念どうなってんだ。最近のチョロイン系ラノベのヒロインですらもうちょっと節度があるぞ!


「深呼吸して身を任せてください。ほら、私の目を見て……」

「な、なんで……!」


 俺は口で否定するが、言葉に流され思わず目を見てしまう。

 すると、不思議と身体の芯からあたたかな気持ちとなった。


「……はぇ?」

「ふぅ。ようやく抵抗を止めてくれましたね」

「いや、抵抗をやめたというか……」


 本当は俺の為にも彼女の為にもこの行為を止めさせなければならないと思っていた。

 思っていたはずなのに。

 いや、そもそも俺はどうしてそう思っていたんだ? 周囲に黙って付き合ってしまえば、特に問題になることでもないじゃないか。

 それに、サラも母親らしい存在が居ればそれだけでうれしいんじゃないのか?


「では、まずはお口でご奉仕いたしますね」


 そう言ってズボンのチャックを下し、ベルトを外し、ジーパンに手をかける。


「大きさは、普通よりちょっと大き目ですね……」


 下着の上からでも主張しているマイサンを見て崎葉先生はそう言葉を漏らす。


「それでは、ご対面……」


 遂に腰に手を掛けようとして……。


「ちょっと、カンザキ!? 来月に定期テスト……」

「うぉっ!?」


 サラが入ってきた。


「チッ」

「……誰よ、その女」

「ちょっと、これはそういうアレじゃ、いや、そういうアレだけど、そういうんじゃないというか……!」

「何がそういうのじゃない、よ! 完全にヤってるじゃないの!」


 ……う、否定できない。


「今日はこのくらいにしておきますね。それじゃ」


 この修羅場を放置して、崎葉先生はそのままフフ~、と笑いながら帰っていった。

 後に残ったのは地獄みたいな空気の俺とサラだけ。


「きょ、今日は早かったんだな」

「テスト二週間前で午前授業だったらしいわ」

「そ、そうか」

「…………」

「…………」


 サラは無言で、ゴミを見るような目で俺を見下ろす。

 俺はと言うと、ベルトも閉まっていないズボンを穿いて正座をしている。


「…………」

「…………」

「誰、あれ」

「……塾の、後輩の先生です」

「随分仲よさそうじゃない」

「……そ、そういう訳じゃ」

「何処まで進んでるわけ」

「どこまでと言うと、全く進んでいない……?」

「そんなわけないでしょ」


 サラは相変わらずゴミを見るような目で見降ろしてくる。

 俺はそれに返事もできないまま、うつむいて正座をしたまま。

 ……俺は、空気があったとは言えどうしてあの場であんなことをしてしまったんだ。

 うなだれた俺を見て、サラははぁ、とため息をつく。


「……まあいいわ。第一、あの状況になったのはあんたの責任じゃないから」

「へ?」


 俺は思わず変な声を上げる。


「あんた、気づいてなかったの? ……って、当たり前か」


 サラは一人で納得する。


「な、何のことなんだ?」

「あの女、人間じゃないわよ」

「……は?」


 俺はうまく理解できなかった。


「い、いや、どれだけ彼女のことが気に入らなかったからって、そういう暴言みたいなのはよくないぞ」

「違うわよ、バカ。そのままの意味だって言ってるの」

「そのままの意味……?」

「そう。あれは人間じゃなくて悪魔よ」

「……うそん」


 ……でも、よく考えるとなんか妙に力が強かったような……?


「何の種族かは分からないわ。でも、あれは人間以外の超常の存在よ」

「そ、そんな……。でも、彼女はサラが来る以前からうちの塾に居たぞ……?」

「なんでいるのかは分からないわ。……でも、私が元の世界に帰るための手掛かりになるかもしれないからちょっと呼び戻してよ」

「は、はぁ。そう言うなら」


◇◆◇


 ということで、俺は電話で再び崎葉先生を呼び戻した。


「戻りました。神崎先生、もしかして見られた方が興奮するタイプだったんですか?」

「ちょ、子供の前でそういうのは悪影響だからやめてくれよ」

「えぇ~? まんざらでもないんじゃないんじゃないですか? ……でも、神崎先生には嫌われたくないので止めておきますね」


 そう言いながら崎葉先生はテーブルにつく。

 俺、サラが横に座ってその正面に崎葉先生が座った形だ。


「えと、とりあえず、前提条件として。崎葉先生はヒトなんですか?」

「ん~、どっちかと言うと、ヒト寄り?」

「……やっぱり、悪魔なんですか?」

「私たちは悪いことしてる意識は無いですけどね。男から女の姿で精を搾取したら、男の姿で女に精を注ぎ込む、ってことをしてるだけです」

「それじゃあ、ホントに悪魔?」

「伝承とかによると悪魔として書かれていることもあるかも?」


 マジかよ……。

 サラである程度耐性ができたとはいえ、俺の信じてきた日常とは何だったんだ……。


「しゅ、種族は?」

「内緒です」


 なんで生態は教えてくれるのに種族名は教えてくれないんだ。


「この地球には、崎葉先生みたいなヒト以外の種族は居るのか?」

「まぁ、小人とかは見たことありますけど、私自身がこの世界の生き物じゃないので、その辺りは詳しくないですね」


 ……そうだったのか。


「ってか、ということは崎葉先生も異世界から来たってこと!?」

「まぁ、そうなりますかね」

「マジかよ!?」


 これは、大きな発見だ。

 サラが元の世界に戻ってしまうかと思うと少し残念だが、本人の希望が元の世界に戻ることなんだ。

 これで元の世界に戻る方法さえ聞き出せれば、サラにとってはいい結果だろう。

 ……と思ったのだが。先程から黙っている様子を不思議に思って横を見てみると、帰る方法が見つかるかもしれないというのに思いつめたような表情をしていた。


「……もし私が元の世界に帰れたとして、違う人生を送ることはできるの?」


 口を開いたサラは、崎葉先生にそう質問した。

 サラから詳しい元の世界の話は聞いていない。だが、そんな質問が咄嗟に出た、と言うことはそれだけこれまでの生活で思うところがあった、ということだろう。

 口で言っていた帰りたい、というのは、「元の世界に戻りたい」ということであって、「元の生活に戻りたい」というのとは意味が違った、ということなのだろうか。

 確かに、これまでも興味を持っていることは楽しそうに取り組む姿勢であったが、こちらから強制するように何かをさせようとしたり頼んだりすると強い拒否をしていた気がする。

 それとこれとは何か関係があるのだろうか。

 いや、関係が無い筈が無い。


「そんなに元の世界に帰りたいんですか?」


 崎葉先生の言葉で我に返る。


「……分からない。でも、元の世界は恋しい」

「そうですか」


 崎葉先生はそう言って一息つく。


「ですが、私はサラさんを元の世界に帰すことはできません」

「……ッ、どうして!」


 思いもしなかった返事をした崎葉先生に、サラは食ってかかる。


「勘違いしないでくださいね? サラさんを元の世界に帰すのが嫌ってわけじゃないですから」

「じゃあなんで!」

「貴方が粉々になるからですよ」


 技術的に不可能や、戻したくない、という回答であればよかった。元の世界に帰る方法があるかも、という希望が残ったのだから。

 しかし、提示されたのはもっと残酷な現実。


「いいですか、この世界からあなたが居た世界にフェノアをつなぐことはできます。ですが、それはあなたの肉体を霧状にし、魂を千二十四個に分解するのです」

「……そんな」

「私はヒトではありません。すなわち、私が耐えられるフェノアは私用のものであり、ヒトであるサラさんは到底耐えられるものではない、ということです」

「…………」


 その答えを聞き、サラは俯いて黙る。


「ですが、これは希望でもあります」

「……え?」

「この世界からあなたの世界にフェノアを作ることは可能である、ということです。私のフェノアを通ることは不可能でも、あなた自身が、自分用にフェノアを生み出せるようになれば元の世界に戻ることが可能になる、ということです」

「ほんと!?」


 サラは、崎葉先生から提示された元の世界に戻る方法を聞いて顔を明るくする。


「ど、どうすればいいの!?」


 その方法を聞くためにサラはテーブルに身を乗り出す。


「フェノアを発動するには目的地までの距離を知る必要があります。サラさん、貴方は占星術を扱えるようにしてください」

「せ、占星術?」


 サラは初めて聞く単語に戸惑う。

 そうか。サラはあくまで俺の頭の中しか見てないわけだから、俺が知らない概念についてはサラも知らない、ということなんだ。

 占星術については、俺も簡単にしか知らない。

 星占いをしたりするやつ、だったか?


「占星術とは、この地球では古代、遡れば紀元前二千年頃のバビロニアから続く由緒正しき天体観測技術です。星と星の距離を知り、それを航海や土地の測量などに用いてきました。そして三世紀ごろに現在のイギリスにその技術が渡ると、ゲルマン人たちはルーン魔術と占星術を合成し、現代地球の科学とそん色ない魔術を生み出しました。星の光を借り、失せ物などの方角を知る技術や、中には土地を高速で移動する魔術もありました。この高速で移動する魔術は「ホレウ」、などと現地語では呼ばれていましたね。ブラックホールなどに使われているホールという言葉、その語源となっています。しかしルーン魔術は五世紀ごろにキリスト教の宗教破壊によって秘匿されてしまいました」


 崎葉先生はそこで一度言葉を区切る。


「サラさんが元の世界に戻るためにまずするべきこと。それはルーン魔術と占星術の合成魔術、『空間魔術』の習得です」

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