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「まぁ待て」

 隊長が葉巻を持った手で制止する。

「一つずつ聞いて行こう。まずお前はあのトラックに乗っていたのだな?」

「はい」

「荷物を運ぶためだな?」

「そうです」

「そして移動中に子供を踏んだ」

「見ていませんが、たぶんそうです」


「これは俺の予想だが、その子が勇者なのであろう」

 たぶんそうなんだろうと健も思う。


「わが国ではな、子供であろうと馬車の前に立てば、踏まれても自業自得とされておる。貴族の子息であれば罪に問われるかもしれぬが、分別のつかぬ貴族の子息が、馬車が頻繁に通るような場所に一人で居る事は、まずあり得ぬ」

 しかし日本では罪に問われる。


「その子は貴族であったのか?」

「いえ、日本に貴族は居ません」

「ではお主、なにも悪くはないではないか」

「私が居た国、日本では人を撥ねてしまうと罪になります」

「ほぅ?」

「私が聞いた話では死んだ場合は2~3年の懲役と聞いた事があります」

「懲役?監獄に入れられる期間の事か?」

「はい」

「全然軽い罪ではないか」

「いや、それでも人一人殺してる事になりますからね…」


「しかし何故そのような事で名前を変えられたのか、俺には理解できん」

「聞いていいですか?」

「何だ?」

「どうやって名前が分かるんです?」

「ハンス説明してやれ」

「え?私ですか?」

「そうだ」

 隊長は葉巻の火を消し立ち上がった。

 そしてそのまま部屋から出ていく。


「この世界には鑑定板という魔道具があり、それで名前やステータスを見る事が出来ます。ミヤタケンはその名前の所が勇者殺しになっていたのです」

「名前ってそんなに簡単に変わるわけないですよね?」 

「当たり前です。名前を変えるなど家名を与えられた者やはく奪された時、あと婚姻くらいでしか変わりません」

「でも変わることもあるんだ」

「しかしミヤタケンの勇者殺しは前代未聞です」

「そりゃそうですよね」

「だから我々も困っているのです」

「すいません」

「しかし、私にはミヤタケンが悪い人のようには見えません」

「ほぉ?そりゃ何故だ?」

 隊長が小さな樽みたいなジョッキらしき物を持ってそう割り込む。

「喉が渇くだろ?酒じゃねーがまぁ飲めや」


 皆が喉を潤したタイミングで隊長がハンスに聞く。

「ミヤタケンが何故悪人ではないと言える?」

「隊長、そんなのは簡単ですよ。ミヤタケンは従順で不気味なくらい大人しいです。地下牢で騒いだのも明かり窓やスライムが居なかったせいで、他は何一つ反抗するような態度を取っておりません」

「そうだな…あとは目だな」

「目ですか?」

「ミヤタケンは俺達に対し申し訳なさそうな目をしている。こういう目をするものは、食うに困って盗みを働いたものや、酔って暴れてシラフに戻った者の目にそっくりだ。反省している者の目だ。そしてあちらの世界では罪になる事を黙っていればよいものを、この者はあっさりそれを白状した。だから俺もミヤタケンは悪人では無いと思っている」

「しかし勇者殺しの名前ですよね…」

「それだ、俺の予想だがミヤタケンは女神の怒りに触れるような事をしたのではないかと思う」

「それが勇者殺しですか?」

「そうだ。教会では勇者は女神の使徒だと言われておる。名を変えたのは女神だと俺は思っている」

「女神様が名前をお変えになられたのですか?」

「たぶんな…俺から言わせてみればあんなの神ではないと思うがな…」

「隊長それ以上はマズいですよ」

「フン、女神の癒しだか何だか知らぬが、貴族様にしか使われない力など、神の力であるものか」

「隊長…」

「貴族様にとっては女神様でも、平民からしてみれば神でも何でもないぞ。寄進は金貨しか受け付けず、それを払えぬ者は見殺しだ。それにな、神なのか女神なのか、両方居るのか居ないのか、教会は女神が唯一の神だと言うが、唯一の神なら唯一の女神と言うべきであろう?」

 健は黙って続きを聞く。

「女神の教えは帝国から来たのだ。ヤマダ王国は帝国から亡命なされた勇者様によって建国された国だ。100年前までは教会や女神の教えはヤマダ王国には無かった。だが100年前の帝国の内乱で亡命してきた下級貴族によって女神の教えが広められた。教会は年々王国での発言力を増してると聞く。教会の教えで王国が帝国と同じようになったら、俺達は平民はロクに飯も食えなくなるのだぞ?現に駄目王によって10年前、平民肉食禁止令のお触れが出ているではないか」

 何それ?平民は肉が食えないの?


「伯爵様は陛下もつらいお立場なのだと仰られるが、あれなら兄のジョンオベール様が王になられたら良かったのだ。ジョンオベール様は聡明なお方だ。俺はジョンオベール様が反乱を起こされるのであれば、ジョンオベール様に付くぞ」

「隊長…話がズレていますよ?」

「ああ…すまん…」

「俺は女神など貴族が名前を利用しているだけで、実際には存在せぬものだと思っていた。しかしお主の名の事はどう考えても女神の仕業にしか思えぬ。俺は女神が嫌いだ。だからお主が犯罪者だとは思っておらん。しかし教会からしてみれば、勇者殺しは大罪だ。俺の予想だと極刑か生贄の刑のどちらかになると思っている」


 まじか…

 帰るどころか俺死ぬのか…

 健は言葉を失う。


「ハンス、だからここにいる間だけでも少しはマシな環境にしてやれ。」

「はっ」

「朝いちばんでベッドと毛布を買ってこい。そしてその上でこの者を寝かせてやれ」

「了解です」


 隊長の優しい心遣いに健は泣く。

 どうせ死ぬんだ…もうプライドもクソもない。




「ミヤタケンよ…極刑ならともかく、生贄の刑はな、死ぬまでヴァンパイアに血を吸われると言う刑なのだ。しかし貴族の一部の者は釈放されたという話も聞く。お主はたぶん勇者様と同じ世界から来られたのであろう?勇者様はそのお力も凄かったと聞くが、知識でも世界に貢献なされたと聞く。希望を捨てるなよ。」

 隊長の優しい言葉に涙が止まらない。


「ハンス、今日は疲れた。また明日話を聞く。椅子を二つ持って行き、お前はこの者の話し相手でもしてやれ。今日から夜の巡回からは外れる事は俺が帰りに言っておく。お前は腕が立つからな。凶暴犯の見張りだと言えば皆も納得する。昼間はそうだな…ミゲルだ。あいつを見張りにつけさせろ。ミゲルと交代したらベッドを買いに行け。買って設置をしたら、今日の仕事は終了だ。頼むぞ」

「はっ」

「あーそうだ。この者はトイレの使い方を知らぬようだ。今は興奮しているから、落ち着いたらトイレの使い方を教えてやれ。さっき小便したら肥溜めに尻拭き布が3枚も落ちておって驚いたぞ」

「了解しました」


「連れていけ」

「ミヤタケン、行くぞ」

 腕で顔を伏せ無言で頷き、ケンはハンスの後をついて行った。

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