馬鹿な旦那さまは妻が番だと気がつかず、今日も番を探してかけまわる。
誤字脱字あるかもです、すいません。気楽に読んで下さい。
結局、私が死んだ原因はなんだったんでしょうね旦那さま?
獣人が住むこの世界で、番至上主義だったのは、はるか昔のお話でした。
種族ごとの小国が統一され、他種族にも番があらわれ、世界の人口が爆発的に増えて、と色々な要因が重なり、今では番同士が結ばれることは稀なこととなっていました。
長い年月の間に、狂おしいぐらい番を求める気持ちや、番がいなくて狂う気持ちも薄れていき、番以外の相手とも儀式を行うと、うっすらと残っている番を求める本能がなくなり、相手を唯一として愛することが出来るようになりました。
そんな世界で、狼獣人のルークの家は番が見つかりやすく、番と添い遂げることが多い珍しい家系でした。
ルークもいつかは番以外と家庭を持つことをわかっていながら、仲の良い番同士の両親や親戚を見て、番同士の結婚への憧れを捨てることが出来ずに成長しました。
「自分たちが番同士なのは幸せなことだけど、それがなくてもきっと幸せな生活を送っていた。ルークもきちんと相手を見て幸せを探しなさい」
と両親がことあるごとに言うのにも、わかった風な返事をしていました。
この世界では番の匂いを出すのもわかるのも13才頃からであります。
はるか昔には産まれたばかりの番をすでに成人している相手が拐ったりと言うような事件も多かったらしいですが、時代にあわせて番を認知する時期は遅くなっていき、その傾向は今でもゆるやかに進んでいます。
そんな時代なので、多くの獣人たちは幼少期に番であることと関係なく初恋を経験します。
ルークの初恋は幼なじみの兎獣人のアミで、アミの初恋もルークでありました。二人に犬獣人のポップを入れた三人は同い年で家族ぐるみで仲が良く、いつも一緒に遊んでいました。
ポップもアミのことを好きなのはルークも気づいていたけれど、学年一頭の良いポップへの劣等感も相まって、これ見よがしにアミのことを独占していました。
口では「番と結婚したい」なんて夢を語るくせに。
「大きくなったら、ルークのお嫁さんになりたい」
と花のように笑うアミに、
「成人する18になっても番が見付からなかったら結婚してやる」
なんて上から目線でひどいことを言われても、アミは嬉しく思っていました。
こんなに好きなのだから、
『13才になって番がわかるようになったら相手はルークだったらいいなー』って思っていました。
でも同時にルークが番を求めているのは知っていたので、見つかれば身を引く覚悟もしていました。
その不幸が起きたのは12歳の時でした。
その日、図書室でポップと仲良く勉強をしているアミを遠くの校庭から見つけたルークは、イライラして部活終わりを待っていたアミを無視して走り出しました。
自分の脚にアミがついて来られる訳ないってわかっていながらも、必死についてくるアミの姿に自分への恋心を確かめ溜飲を下げたのです。
すっきりして、もういいかな?と足を止めた時、後ろでびっくりするぐらい大きな音がして、振り向いた先で、辻馬車の横に倒れているアミの姿を見付けました。
そこからの記憶は曖昧ですが、変な方向に足が曲がり意識のないアミをポップの両親の病院に運び込み、ただただアミの無事を祈りました。
父親には殴られ、ポップからは非難の目で見られました。
でもアミが助かるならどれだけ殴られても、非難の目で見られてもいいと思っていました。
一週間が経ち意識を取り戻したアミは、左足が動かなくなり、額に大きな傷を負っていました。
意識がない間に両家で話し合いがもたれ、ルークとアミは婚約を結ぶこととなり、13になったらすぐに結婚の儀式をすることになりました。
アミは、自分の不注意でもあるのだから責任を取らなくていいと言ったのですが、両家で決まったことを覆すことは出来ず、またお互いの両親も小さな頃から仲睦まじいルークとアミを見てきたので、結婚の儀式をすれば責任など関係なくうまくいくと思っていたのです。
この時、また不幸が重なりました。足や顔のケガがひどく、アミの両耳の後ろに出来た小さな傷に本人も含め誰一人として気づくことがなかったのです。
一方、婚約と結婚の話を黙って聞いていたルークが最初に思ったのは、
『これでもう番を探すことが出来ない』
ということで、そんなことを思った自分にもびっくりしました。
アミが意識を無くしていた間は何でもするから無事でと思っていたのに、今は喪失感しかありません。大好きだったアミと結婚するのに、番を求める心が一段と大きくなって行くのです。
それから結婚までの一年、ルークはアミに寄り添いました。でもどこか上の空なのは周りにも伝わります。愛しさからふわふわしているのでは無く、遠くを見てため息をつくルークを見て、女子生徒たちがアミが一人になった時を見計らい詰め寄ります。
もともと、番同士で多く結ばれた血筋のため他の獣人より獣としての力が強く、姿もカッコいいルークは人気がありました。
「傷物なのに無理矢理婚約して、ルークさまがかわいそう」
「ルークさまは責任感だけで婚約している」
等々、アミが劣等感をもち、自信をなくすのに一年と言う時間は短くありませんでした。
ルークはそんな様子に気づくこともなく、ポップもその頃いつも忙しそうにしていたので、アミはどんどん殻にとじ込もっていったのでした。
そうして、まずルークが13才を迎えました。
朝起きてなんとなく自分の身体が変わった気がしましたが、どこからも番の匂いはしません、相手がこの街にいないのかまだ13歳になっていないのか……
アミはまだ13才になっていないので、もしかするとアミが番かもしれないという気持ちも幾分かありましたが、番を探しに行きたい気持ちが大きくなりました。
そこから半年が経ちアミが13歳を迎えました。
半年の間にルークの番への思いは募る一方でした。
アミからは番の匂いがしません、またアミも番の匂いを感じることが出来ませんでした。
二人の気持ちは落ち込みましたが、早々に結婚の儀式が行われました。
二人が番同士でなくても儀式さえ行えば寄り添えるはずです。
ルークの両親もこれで息子の気持ちがアミ一筋になると思っていました。
その儀式ですが、世界の各地にある教会の奥にある泉で、お互いの獣耳をゆっくり揉み合うと言うものです。
獣耳は実の親にすら触らせない、伴侶となるものだけが触れられると言う繊細な場所です。
仕組みは分かりませんが、実際儀式をすると伴侶が唯一になるのです。
泉でしか出来ないのは、無理矢理伴侶にされることを防ぐためなのでしょう。
その儀式のために、二人きりで泉に向かったルークとアミですが、
ルークが、ガバッと頭を下げて言いました。
「ひどいことを言っているのはわかっている、だけど俺が18になるまで儀式を待っていてほしい。儀式をしてしまうと番の匂いがわからなくなる。18になったら必ず儀式をするから」
と。
アミは顔を真っ青にしながらも、自分の存在がルークの足を引っ張っている、ルークは責任感だけで自分と結婚すると思っていたので、結局それに頷き、代わりに一つ、
『このことは二人だけの秘密にして、表向きは唯一になったように振る舞ってほしい』
とお願いをしました。
もし、ルークに番が見つかったら自分から頼んだと周りに説明をするし、責任をもつからと付け加えて。
アミはこれ以上両親に心配をかけるのも、ルークが責められるのも嫌だったのです。
それから二人の生活が始まりました、儀式を行った(と思われている)とはいえ、成人を迎えていないので、学校に通い帰るのはお互いの家でした。
足の悪いアミには実家の方がなにかと利便性がよく、成人したらアミの住みやすい家を建てようと、お互いの両親は考えていました。
実際、さまざまな理由で儀式だけを先に行う獣人たちは一定数いたので、ルークたちもそうだと思われていました。
その頃からアミは少しずつ体調を崩して行きました。
二年経ち15才になる頃には、ベッドからなかなか出られないほど弱くなっていました。
一方のルークは最年少で騎士学校を卒業し、仕事で遠征へ行くことが多くなりました。その実力に加え、その地での魔獣の討伐等のあとにその地にしばらく残り復興に力を貸す様子に、周りの評価はぐんぐんと上がっていました。
真実は、ルークが騎士を目指したのも国のあちらこちらへ行けるからで、その地に残っているのも少しでも番を探したいからだと言うことを知っているのはルークとアミ二人だけでした。
騎士の給金はよく、地方へ行くと手当てもつき、そのお金でルークはアミの治療をおしみなく行っていたので、夫婦の時間が少なくても周りからは仲がよいと思われていました。
そんなアミに寄り添っていたのは、こちらも最年少で医師学校を出て、親のあとを継ぐために頑張っているポップでした。
ポップはアミが事故に遭ってから、アミの足を治すために一心不乱に勉強をしていました。なので学校を出て久しぶりにアミに会ったときに、大好きなルークと結婚したのに明るさが消えていたアミにびっくりしました。
そしてその理由が事故だけでは無いだろうことにも、ずっとアミを見ていたポップにはすぐにわかりました。
アミと結婚できたのに長期間放っておき、アミに寂しい思いをさせているルークが信じられませんでした。
事故の責任で結婚出来るなら、アミを傷つけたのが自分だったらよかったのに、と悪魔のような考えも持ちましたが、それでもアミがルークを慕っているのがわかり、アミの幸せのために自分の心を隠していました。
ある日、ポップはちょっとした違和感をルークに感じました、ちょうど診察に来ている時にルークが遠征から帰って来たのですが、アミの身を心配し、しばらく会えなかった愛しい相手に会えた喜びを表現するには何か芝居じみていると思いました。
学校で獣人の生態について勉強し、卒業レポートにも纏めたポップにはルークのしっぽの振り方や耳の動かし方に不自然さを感じたのです。
なにより、小さい頃は目に見えてアミに近づくポップを威嚇していたあの様子がないのです。
次のルークの遠征時、ポップはその疑問をアミに投げつけました。
アミは最初何も語りませんでしたが、心が弱っていたのもあり、ポップに真実を伝えてしまいました。
ポップは激怒し周りに伝えるべきだと諭しましたが、アミはそれに頷くことはありませんでした。
そんなアミがいじらしく、自分が支えたい、もしルークが番を見つけたらアミは自分と伴侶の儀式をして欲しいと思わず気持ちを伝えました。
アミは少し嬉しそうに微笑んで、気持ちは嬉しい、でもやっぱりそれは出来ないと言いました。
アミは少なからず寄り添ってくれるポップに気持ちが傾いていたし、何よりずっと放っておかれ、ルークへの気持ちがなくなりかけていたのもわかっていたのですが、こんなベッドから動けない自分と伴侶になるのは申し訳ないと思っていたのです。
「ルークと伴侶になるなら支えてもらうより、追いかけるより、隣で一緒に歩きたい、もし私が死んで生まれかわったら今度はポップと伴侶になりたい」
その真っ直ぐな視線と口調にポップは、何も言えなくなりました。
その時の強さが嘘のように、アミの容態は悪くなり、ルークがその遠征から帰って来た時には、意識もほとんどなくなっていました。
さすがのルークも命の灯火が消え行くアミを前にアミの大切さを実感しました。くしくも18の誕生日を前にして、この遠征が終わったら番探しをやめようと思っていたところだったのです。
ルークに、手をとられその姿をぼんやりと捉えたアミは、最後の力をふりしぼり、
「旦那さま、番を見付けて下さいね」
と呟くと、その灯火を消しました。
ーーーーーーーその瞬間!!
ルークにだけわかる部屋に充満する番の匂い!!
なぜだかわからないけれど、灯火を消したアミの身体から次から次へと番の匂いが漂ってくるのです。
「アミから、アミから番の匂いが、、、!!」
そう叫び意識を失ったルークが目覚めたのは、それから5日後でありました。
意識を失っている間に、アミの身体も神の元へ連れていかれ、ポップから話を聞いた怒りの両親からはお墓の場所も教えてもらえませんでした。
幼い頃の思い出はあれど、結婚してからの思い出はあまりありません、思い出すアミの姿はいつもベッドの上です。
「番を見付けて下さいね」と言う、アミの遺言も叶えてあげられません。
儀式さえ行っていれば、伴侶の消失にも耐えられたでありましょうが、ルークはそれもしていません。
番の消失で狂うことも少なくなってきた現代ながら、獣の血が強いルークにどれだけ影響が出るのか……しかもあんなに濃い匂いを嗅いでしまったのです。
「アミが番だとわかっていれば、こんなことにならなかったのに」
番を無くした悲しみから、ルークはそう呟くのでした。
◇◇◇◇◇
「ルークは自分の何が悪かったのか、いまだにわかってないみたいだね」
ポップは読んでいた手紙を、向かいに座る妻にそっと差し出しました。
それを受け取りながら、アミは目を伏せました。
あの日、ルークが狂い叫ぶ横で、必死に心肺蘇生を行うポップに奇跡が起きたのはルークが意識を無くした後でした。
息を吹き返したアミは、体調まで良くなっており、そこから色々な診察を受けました。
番の匂いがしたと言うルークの言葉を頼りに普段は診ない耳の後ろまで診察した所、そこが硬くなっていました。
12歳のあの事故のさい、一番大事な獣耳の後ろの傷から身体を守るための防衛反応として周りの筋肉が硬くなり、そのためにアミは獣耳の後ろから番の匂いを出すことも感じることもできなくなっていたのです。
そのために匂いの元になるフェロモンが体内に停滞し身体を蝕んでいたのです。そして一度命が止まり、身体から全身の力が抜けたことで、停滞していたフェロモンが一気に外へ出たのです。
アミの症状は稀でありましたが、それでもきちんと儀式を行っていたら、気づくことが出来たはずでした。
診察の間にポップの口から儀式を行っていないことが両親にばれてしまい、またポップから
「一度死んで生まれかわったアミと結婚したい」
とプロポーズをされ、ルークが意識を失っている間に儀式を行い、生まれ育った街から遠いこの海辺の街へとやってきたのです。
ルークにはアミが死んだことにすると三家とも約束をしてくれ、親元を離れる寂しさはあったものの、ポップとアミは新天地で幸せな新生活を送っているのです。
ポップと生活を送る中で、番が相手でなくても、儀式を行いお互いを唯一とすることがどんなに幸せであるかを知ったアミには、いかに自分とルークの生活がおかしかったかがよくわかります。
「アミが番だとわかっていれば、こんなことにならなかったのに」
ルークがずっとそう言っていると、アミの兄からの手紙にそう書いてあります。
でも、番とか関係なく相手ときちんと関係を結ぼうとしなかった事が悪かったとは未だに思っていないみたいです。
アミはそれは自分にも当てはまると今ならわかります。
でもルークは自分の行動がアミの身体も心も殺したことには考えつかず、いまだに悲劇の主人公気取りなのかもしれません。
「馬鹿な元旦那さま……」
そう呟くと、そっと手紙を机の上に置いたのでした。