表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/121

訓練

 元々、無事を確認しに来ただけなので村からはすぐに退散した。


 正直、いきなり態度変わって怖いし! 最初はもうちょっとフレンドリーだったのに……義理堅い人たちなんだね?


 聖女をやっていた時も、似たような感情を向けられたことはある。でもそれは、神様から特別な権能を授かった人、という扱いなのであくまで崇拝しているのは唯一神様だ。私を信奉することは神様を信奉するのと同義ということ。


 でも、村人たちは私そのものを信仰しようとしている。たしかに助けたし、聖霊の身体や聖女の魔法は神々しいかもしれないけど、それはちょっと違うよ……。目を覚ましてほしい。


 ギフテッド教会は地方の民間伝承まで根絶やしにしようとするほど狭量ではないけれど、大々的に魔物を信仰していると知られればさすがに怒ると思う。

 噂では異端審問官っていう教会や皇国に敵対する者を始末する専門の神官がいるらしいし。会ったことはないけどね。レイニーさんに聞いてもはぐらかされた。


「はぁあああ! ダークスイングッ!」


 『不死の山』を登っていると、暑苦しい声が聞こえてきた。


「ぬるい」


 冷徹な声と、金属がぶつかる音。


 冥国から少し離れたこの場所は、障害物が取り除かれ平らにならされ、闘技場のような空間になっている。

 主に高位の魔物たちが訓練で使っている。たまに、ファンゲイルやミレイユが広いスペースが必要な実験を行う際にも用いることがあるね。


 今訓練しているのは、声ですぐわかったけどゴズとメズだ。牛と馬の頭部は互いに火花を散らしている。

 二人の性格は正反対に見えて、二人とも戦うことしか頭にないタイプだ。いつも訓練している。


 王国から冥国に移動する道中は、何度も二人の訓練に参加したなぁ。

 冥国に来てからはゴーストの研究をしていたので、戦闘訓練はあまりしていない。だって、戦う機会があるなんて思わなかったし。


 でも、訓練もちゃんとやらないとね。


 本当はのんびり暮らしていきたいのだけど、『蟲の魔王』ネブラフィス、そしてその裏にいると思しき皇国と戦うと決めた以上はそうもいかない。


「おお! セレナではないか!」


 ゴズが私に気が付いて、巨大な斧を掲げる。


 ものすごく親しみのある挨拶だ。お互いに思うところはあるにせよ、今は身内みたいなものだからね。

 一度殺し合った仲だし、実際ゴズは死んでアンデッドになったわけだけど、意外と上手くやれている。それはメズも同様だ。


「来い。相手してやる」


 メズは槍の石突でこつんと地面を叩いた。


 二人とも知恵と言葉を持つ高位の魔物だ。別の魔王に生み出された魔物らしいけど、今はファンゲイルの配下になっている。経緯は知らない。


「うん、いくよ!」

「いつになくヤル気じゃな」

「良い心がけだ」


 強くならないと。

 守るためには力が必要だってことを、改めて実感した。

 ヒトダマに生まれ変わり、王国を救うために進化を重ねてきた。それは強くなるためでもあったし言葉を話すことが必要だったから。でも、ファンゲイルとの契約で王国から手を引いてもらった時、成長をやめてしまった。


「不定形結界――魔力圧縮」

「ほう」


 でも、これからは止まらない。

 皇国が何か悪事を働いているなら、聖女としてそれを許せないから。


「結界で硬魔を再現しているのか。面白い」


 メズがニヤリと笑った。


 土壇場で生み出した技だ。まだ精度は不安定で、長時間の使用はできない。


 メズは頭上でくるりと槍を回すと、硬魔を穂先に纏った。高密度で一点に集中させた硬魔は、金属すらも打ち砕く。

 私が全力で聖結界を張ったとしても、紙のように容易く切り裂かれてしまうほどだ。近接戦闘において、硬魔は圧倒的な力を発揮する。


「ダークスパイク」


 メズの放った槍が、私を貫かんと迫る。


 私は両手のひらを広げ、前に突き出した。魔力を放出する。イメージは盾だ。

 不定形結界で空洞の盾を形作る。中に流し込んだ闇魔力を一気に圧縮させた。


 完成したのは、顔くらいの大きさの円盤。


聖盾(アイギス)!」

「はあッ」


 盾の中心に、槍が突き刺さった。見た目に反して、魔力同士の衝突なので音は小さい。

 穂先を渦巻く闇魔力が盾を削り取ろうとうなりを上げた。しかし、私は魔力を注ぎ続けることでそれを食い止める。


「ふむ、まだまだであるな」

「あっ」


 メズがぐっと槍を押し込むと、私の盾は呆気なく崩壊した。


「しかし、発想は良い。柔魔と硬魔、両方を使わなければ作れないものだ」

「うう……いけると思ったんだけどなぁ」

「我の槍が一朝一夕で防がれてはたまらん」


 硬魔を再現してはいるけど、厳密には硬魔ではない。

 だから、身体や武器に纏わせないといけない硬魔と違って、身体から離れた位置に展開することもできるのだ。それがアイギス。圧縮した魔力で作った盾だ。


 盾じゃなくても不定形結界を利用すれば色々なものが作れると思う。

 進化しなくても鍛錬と工夫次第で強くなれるのだ。


 まだ圧縮が足りないので、要練習だね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ