人造人間
「聖職者の魂を……?」
どういうこと?
ファンゲイルの言葉を繰り返す。
目の前で鎖に繋がれる人間とも魔物とも言えない異質な存在からは、たしかに聖属性の魔力を感じる。私という例外を除けば、魔物が持つことのできない人間だけの魔力だ。
これほど強い聖属性の魔力を持つ人は、『聖女』や『枢機卿』あるいは下位の『神官』など、聖職者に限られる。
「さて、身体を調べさせてもらおうかな」
私の問いかけには答えずに、ファンゲイルは楽しそうに笑った。
トアリさんの骨は抱えたまま、部屋の中に入っていく。失ったはずの腕は魔法で作り出した氷で代用されていて、しっかりと骨を支えていた。
「この子は、真っすぐトアリを……違うね。天使のタリスマンを狙って突っ込んできたんだ。スケルトンたちは完全に無視。不意を突かれたおかげで、腕を取られちゃったよ。聖魔力に侵されて治療もできない」
トアリさんを庇って、咄嗟に腕を出したんだね。不意をついたくらいでファンゲイルを負傷させるなんて、相当戦闘力が高い。おそらく、魔物のランクで考えてもA以上はあると思う。
話しながらでも、ファンゲイルの手は止まらない。身動きの取れない人造人間の頭に手を触れて、解析の魔法を行使する。
「ククク、そうか。これ、僕の魔法が元になってるね。面白いというか、よくもこんな非人道的な使い方を思いつくもんだ」
「ファンゲイル様の魔法というと、五百年前に提供していたという『不死化』の術式でしょうか?」
「そうだね。でも完成形は僕しか知らない。未完成の術式を、五百年かけて改良した結果がこれというわけだ」
「……もしかしたら、セレナも」
研究者気質の二人が、また私にわからない話をしている。
私は死霊として魂を感知することができる。
体内の魔力はミレイユほどの魔眼を持っていないと見えないから、ファンゲイルや私にはわからないはずなんだけど、この人造人間に関しては魂から常に放出されているような状態だ。
魂から細い血管のような糸が全身に張り巡らされ、魔力を循環させている。その血管自体も魂であるという、不思議な身体だ。
ただ、見えるだけなのでそれ以上のことはわからない。
「セレナ、少し話がありますわ」
「んー?」
あーでもないこーでもない、としばらく言い合っていた二人が、揃って私の方を向いた。
ついでに、人造人間も私を見ている。怖い。
「うん。僕から順を追って話すね。まず、この人造人間は皇国が作ったもので間違いない。僕の魔法をベースにして作った技術だ。人工的に作った強固な肉体に、聖職者の魂を植えこんでいる。それも、数人分をね」
「聖職者の魂を数人分ってことは……」
「もちろん、生きたまま吸い出したんだろうね」
生物が死ぬと、その魂は自然に返る。死んだ直後であれば自然に抜け出した魂を捕らえる方法もあるけど、効率は悪い。
だが、ソウルドレインのように魂を無理やり引きはがすスキルや魔法があれば話は別だ。
「ギフテッド皇国が神官の命を犠牲に作った戦闘兵器ってことだね。いやぁ、知ってはいたけど、裏では結構黒いことやってるよねぇ」
軽い口調のファンゲイルだけど、私の心境は複雑だ。
仮にも聖女として、教会の代表として国の皆に接してきた。結界の維持や魔物の駆除、ケガの治療など、人々の役に立ってきたつもりだ。なにより心の拠り所として、ギフテッド教会が存在しているのだと思っていた。
レイニーさんは知っていたのかな。
それはないと信じたい。人間を犠牲にするなんて、あのレイニーさんが認めるはずがない。
「ん? でも待って。虫の魔物と一緒にいたんだよね?」
「そうだね。大方、裏で繋がっていたんでしょ。天使のタリスマンを『蟲の魔王』が狙う理由はないし、皇国絡みと考えるのが自然だ」
「そう言えば、誰かの依頼で私を捕まえに来たって言ってた」
「へえ、聖女ちゃんが死霊になってることも知ってるんだ。これはいよいよ、かなぁ……」
魔物を絶対悪としておきながら、魔王と協力関係にあったなんて……。虫の魔物で実際に被害が起きているというのに、ギフテッド教の在り方とはなんだったのか。
少しは残っていた教会への信頼が、崩れ去っていく。ファンゲイルを全面的に信用するのはどうかと思うけど、こうも証拠が揃っていると疑うことも難しい。
「ここからは予想なのですけれど……セレナ」
少し強張った顔で、ミレイユが口を開いた。
どんどん真相が明らかになっていきます。
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