遊びにいこう!
最新話まで読んでくださっていた皆さま、申し訳ありません。
プロットを組みなおしたところ、投稿済みの内容について、不都合が生じたため、
一部を削除し書き直しました。お手数ですが、前話に目を通して頂けると嬉しいです。
半年もすれば、冥国の生活も慣れてくる。
王国で聖女をしていた時よりも快適なくらいだ。孤児院のみんなには会いたい。元気にしてるかなー。
ゴーストたちを育てるのに歩き回ったから、周囲の地形もだいぶ覚えてきた。ほとんどはげ山だ。たまに洞窟があったり、スケルトンたちの採掘場があったりする。面白味はあまりないね。
というのも、ファンゲイルが長年住んでいるので瘴気が充満しているのだ。不死を司る彼が放つ闇の魔力は、ほとんどの動植物を死滅させる。残っているのは一部の生命力が強く、瘴気に適応できる植物だけだ。
まあ私にはむしろ快適なんだけどね。つくづく、人間離れしたと思うよ。
山の外には行っていない。いくつか国があるみたいだけど、魔物が気軽に行っても迷惑なだけだ。聖霊は人間に近い姿をしているとはいえ、足はないし透けてるし浮いてるしで、人間と言い張るのは無謀だ。
なので、いつもゴーストたちと山を散歩している。あ、スケルトンはたまにしか倒してないよ! また怒られるからね!
「でも正直飽きたよね?」
「けらけら」
好奇心旺盛なウェイブが頷いてくれる。
だって半年だよ? ゴーストたちは可愛いし、ミレイユとも仲良くなって話すようになったけど、それ以外にすることないんだよ!
ゴズとメズはいつも戦闘訓練をしていて、よく飽きないなって思う。私も見つかったら硬魔の練習をさせられる。未だ習得には至ってない。
冥国の住民はスケルトンナイトやグール、エアアーマーが多い。自我のあるDランクの魔物だね。
中にはスケルトンジェネラルなどのCランクもいる。でも、どちらにせよ話すことはできないし、いつも働いているか訓練をしているかで、面白くはないのだ。魔物の生態を調べるための観察も、一か月で飽きた。
端的に言うと、人間に会いたい。
「よし、近くの村に行ってみよう!」
「きゃっきゃっ」
いたずらっ子のクラウンが嬉しそうにくるりと回った。
クラウンゴーストは人を脅かすのが真骨頂だもんね。
「ひひひ……」
うーん、サイレンは興味なさそう。でも、来てもらうよ!
みんな進化したとはいえ、まだ自我は弱い。指示を出せば聞いてくれるけど、気を抜くとどこかへ行ってしまうので、不定形結界による手綱は必須だ。
三体のゴーストを連れて、山を降りていく。
セレナ組、初の遠征!
冥国唯一の死霊集団は、障害物に縛られないから自由なのだ。
大丈夫、さしもの私も、人間の国に突撃したりはしないよ。人間にとって魔物がどう見えているのかは、王国で嫌というほど実感したもん。
ただ物陰からこっそり見て、死霊らしく驚かせるだけだよ!
山脈は驚くほど広いが、死霊である私たちにとって距離は大した問題じゃない。疲労を感じることもなければ、別に急いでもいない。アンデッドは時間にルーズなのだ。
夕日が沈む方に向かって、真っすぐ進んでいく。王国がある方向だ。たしか、間に皇国もあった気がする。その他にもいくつかの小国が並ぶ。王国は『不死の森』のせいで東側との国交が滞っていたけど、ファンゲイルがいなくなったから皇国や小国との貿易が捗りそうだね。ファンゲイルが使っていた砦も、森を直通するのであれば丁度いい間所だ。
最後の山を下りると、遠目に農村が見えてきた。ミレイユの話だと、この辺は牧羊が盛んらしいね。
たしかに、羊が放牧されているような影が複数見える。
「久しぶりの人間だ!」
魔物である私が言うと、久しぶりに人間を食べれる! みたいに聞こえちゃうね。違うよ、友達になりたいんだよ。
近づくにつれて、農村の姿がはっきりと見えてきた。『不死の山』の麓にある割には、そこそこ規模の大きい農村らしい。
羊もたくさんいるね。なんか、随分と黒くて平べったいのも混ざってるけど……。なんか蜘蛛みたいに見える。
「……え?」
見えるだけじゃない、大きな蜘蛛だ。様子がおかしい!




