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ゴーストたち

 それから、毎日のようにゴーストの研究をして、半年が過ぎた。

 正直冥国での日々は暇だったから、やることができて有難い。それに、ゴーストは可愛いから楽しい!


 みんな個性があるし、毎日一緒にいるから懐いてくれた。最初の三匹は、今では不定形結界の手綱がなくてもついてきてくれる。妹ができたみたいで嬉しい。


 ファンゲイルによる私の研究もゆっくりだけど進行している。

 といっても、私の進化はかなり特殊な例だし、進化条件からしても再現が容易とは思えない。だって、聖属性の魔力が大前提で、さらに人々からの祈りが必要なんだもん。もうそれ、魔物じゃないよ。


 散々実験にも付き合わされた。

 ミレイユが作った魔法陣の上で聖女の魔法を使ったり、聖魔融合のパターンを調べたり。

 ファンゲイルが操る魂干渉系の魔法を受け入れて、されるがままになったり……。うう、思いだすだけで恥ずかしい。乙女の身体を好き勝手するなんて!

 まあ聖霊は服も身体の一部なので、脱がせたりはできない。残念だったね! 変態魔王さん!

 代わりに、魂をじろじろと見られた。裸より恥ずかしい。


 ギフトや記憶を保ったままヒトダマになれた理由も良く分かっていない。ミレイユは生前に工作された可能性を考えていたみたいだけど、私の記憶にはない。一晩掛けて生前の思い出を色々語ったから、何かヒントがあればいいな。


 ファンゲイルが「じゃあ王国に聖女ちゃんの死体を貰いに行こうか」とか言い出したのは全力で止めた。首切られた私の身体なんて見たくないよ……。あんまり思い出したくないし、今の身体が気に入っているから。

 それに、王子が私の死体をどうしたのか分からない。レイニーさんなら知ってるかな?


 死体があれば研究が捗るのかもしれないけど、断固拒否である。ミレイユもさすがに哀れに思ったのか、提言してくれた。常日頃から死体を持ち歩いている変態魔王とは違うね! 魔王城に来てからは、王族かってくらい豪華なドレスを着せて胸元には『天使のタリスマン』が光っているから、骨子ちゃんはさらに煌びやかになった。結局タリスマンが何なのか教えてもらってないし、あの死体が何かも分からないけど、変態なのは間違いない。


「けらけら」「きゃっきゃっ」「ひひひ」


 そんなことを思い出しながら、いつもの三匹と散歩をする。

 スケルトンを狩りつくしたらまた怒られるから、養殖場のヒトダマをメインに与えている。


「あっ、スケルトン発見。たまにならいいよね……?」


「けらけら」


「ウェイブ、行っちゃえ!」


 ヒトダマばっかり食べてると飽きるもんね! 私は生前から、食事にはうるさいんだよ!


 やる気十分、といった様子で前に出たウェイブゴーストが、スキルを発動する。

 空気を振るわせ物体を破壊するほどの悲鳴――スクリームウェイブ。無害な笑い声から、ずいぶんと凶悪なスキルに変わったものだ。


 指向性を与えられた音波が、スケルトンを襲った。数秒後、攻撃されたことに気が付いたスケルトンがこちらを向くころには、既に骨の身体がバラバラになっていた。

 タイムラグがあるけど、非常に強力なスキルだ。ちょっとうるさい。


「あ、もう一匹。よーし、今度は……」


「ひひひ」


 ニヒルに笑うこの子は、既にただのゴーストではない。いつも無気力ですぐに帰ろうとする子だけど頑張って進化したのだ。

 すぅーっと、灰色の身体が薄くなっていく。背景が透けて見えるようになり、輪郭だけが残った。よく目を凝らさないと、ゴーストの姿は見えない。


 スケルトンに近づいていく。すぐ後ろにいるというのに、気づかれない。

 次の瞬間、スケルトンの首が落ちた。


「ナイス、サイレン!」


「ひひひ」


 再び姿を現したサイレンが、口を歪めた。


 通常進化のサイレントゴーストだ。この子も鍾乳洞に連れて行ったんだけど、サイレントゴーストになりたかったらしい。もともと静かで大人しい子だったから、ぴったりだ。

 種族スキルは『忍び斬り』。霊体の存在維持に使う魔力を極限まで削ることで姿を消し、余剰魔力を一撃の刃に全て注ぎ込む攻撃だ。もし外したり防がれたりした場合は弱った状態で姿を晒してしまうというリスキーなスキルでもある。その分、攻撃性能は非常に高い。


「うんうん! 次はクラウン!」


「きゃっきゃっ」


 最後の一匹はクラウンゴーストだ。

 この子が持つスキルは『幻術』――幻を作りだして、相手に見せるものだ。


 クラウンゴーストへの進化条件は、レイスに近かった。つまり、感情の発露だ。

 でも『願望』を条件とするレイスと違い、クラウンゴーストの必要条件は『悪戯心』。


 笑うだけだったゴーストが、相手を笑わせたいという感情を抱いた時に進化する、道化の姿だ。頭には角あるいは耳のようにも見える突起が二つ伸び、目元には星型のマークが浮かぶ。


「あっ! 今日はウサギの幻だね。可愛い~」


 私が拍手すると、クラウンが「きゃっきゃっ」と嬉しそうに笑った。私と一緒に過ごすうちに、私を笑わせることが好きになった子だ。なんて健気!

 でも、あくまで幻だから攻撃性能はない。相変わらず無害な子なのだ。使い様によっては戦闘でも役に立つとは思うけどね。


 他にも、ゴースト研究所のゴーストたちは何体か進化した。中にはレイスも一体いる。

 半年間の成果としては上々じゃない?

 ファンゲイルも喜んでいたし、私って研究者向いてるかも~。


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