探検します!
散歩の目的はゴーストの進化だ。
とはいえ感情を芽生えさせる方法は良く分からないし、他の進化方法についてはもっと見当が付かない。とりあえず魂の数は必要だから、その辺にいるヒトダマでも食べさせよう。
冥国を出て、山に出た。山は迷子になりやすい場所として有名だから気を付けないとね。『不死の山』は植物のない禿山だし、冥国は遠くからでも分かるくらい魂が密集しているから見失う心配はないのだけれど。
「みんな、いっくよー」
聖結界とポルターガイストを合わせた『不定形結界』で作った手綱で三体のゴーストを引っ張る。威力なしで優しく触れるようにしているから、痛かったりはしない、と思う。
聖属性を強めにしたら魔物に有効だし、ポルターガイストを強くすれば縛り付けたり叩きつけたりもできて、色々と使い道がありそう。便利だね。
「おっ、スケルトンだ」
山で徘徊しているスケルトンは、厳密にはファンゲイルの仲間ではない。有事にはソウルドミネイトで戦力にもなるし、不死の山から人間を遠ざける役目も担っているが、あくまで野生の魔物である。生きてないけど。
だから、必要なら倒しても問題ない。
「ソウルドレイン」
スケルトンから無理やり魂を引きはがした。今の私にとって、スケルトンくらいなら敵にもならない。
骨がカタカタと地面に落ちる。抜け出した魂にかぶりつきたくなるのをぐっと我慢。一体のゴーストに渡した。
「食べていいよ」
「けらけらっ!」
小さい手を伸ばして、嬉しそうに笑った。空中をくるりと一回転。大きく開けた口で魂に食らいついた。
ゴーストが進化するためには千個もの魂を与える必要がある。養殖場のヒトダマも利用するつもりだが、機会があればスケルトンの魂も与えよう。
「そういえば、オニビはスケルトンの骨に入ったら進化候補増えたんだよね。ゴーストもできるかも?」
必要素材を所持するまで進化先候補は分からない。
今魂を与えたゴーストを、頭蓋骨の中に入れてみる。ゴーストの方が少し大きいから、頭蓋骨と一体化しているように見える。
「神託」
進化先候補を確認した。
しかし、特に新しい情報が出てくることはなかった。むぅ、骨じゃダメか。
霊体しか持たない『死霊系』と、物質に魂が取り付いた『憑依系』は基本的に別々で進化していくものなのだろう。私が進化してきた時も、オニビの時を除いて憑依系が候補になることはなかった。
スケルトンもゴーストと同じく自然発生する魔物だしね。エアアーマーなんかはどうなるんだろう……? 落ちている鎧とかがあったら試してみよう。
「他に進化先があるか分からないし、とりあえずレイスを目指そっかー。どう? 願望とか湧いてきたりしない?」
「けら?」
「ひっひっ」
うーん、一緒に遊んでいればいつか感情芽生えたりするのかなぁ。
ミレイユやファンゲイルはどこまで知っているんだろう。死霊の研究には難航しているような口ぶりだったけど。
王国に攻めてきた軍勢の中には、死霊系はサイレントゴーストしかいなかった。となると、魂をたくさん与える進化方法しか分からないのかもしれない。
でも、私がゴーストからレイスに進化したことに関しては特に驚いてなかったよね。進化すること自体は知っているのだろう。後で聞いてみようかな。
「よーし、とりあえず魂たくさん食べよう! 私もお腹空いたよ!」
手綱を引いて、移動を再開する。
不死の山は岩が多く、ごつごつしている。とても歩きづらそうで、死霊で良かったと思う。徘徊しているスケルトンも、よく岩に引っ掛かってもがいている。
また鉱物が豊富なようで、途中で採掘に出かけるスケルトンナイトの集団とすれ違った。気さくに挨拶すると、指揮していたスケルトンジェネラルが手を振ってくれた。魔物の統括の仕組みも気になるね。まだまだ知らないことがいっぱいだ。
「洞窟発見!」
冥国から少し山を降りたところに、スケルトンも通れないような割れ目を発見した。覗いてみると、結構奥まで空洞が続いているように見える。
狭い道でも死霊の私たちなら問題ない。生き埋めになる心配もないのがいいね。
壁に空いた穴をするりと抜けて、中に入る。ゴーストたちが好き勝手進んでいくので、慌てて追いかけた。
私たちアンデッドは、暗闇の中でもはっきりと見ることができる。眼球がない代わりに魔力的な作用で視覚を確保しているからだ。明暗を認識することはできるけど見えなくなることはない。
登ったり、下ったり。洞窟の形に任せて、どんどん進んでいく。たぶん、下る方が多かったと思う。本格的に現在地が分からなくなったけど、一本道だから戻れるよね……?
自然にできた洞窟のようで、岩肌がむき出しで場所によっては尖っている。狭い道を何とか抜けると、広けた空間が現れた。
「わぁ」
本で読んだことがある。鍾乳洞だ!
つららの尖った柱が上からも下からも伸びていて、幻想的な空間を創り出している。どこからか漏れた光が、洞窟内を明るく彩った。
私の知る鍾乳石は白だったと思うんだけど、この洞窟は濃い青色だ。よく見ると、魔力の塊であることが分かる。
透き通った青色の鍾乳石が光を乱反射させているのかな。その光も青い筋となって、美しい。
青空のようであり、大海のようでもある。青だけの世界に入り込んだみたいだ。
「すごい魔力……」
魔力を多く内包する物質というと、魔石が思い浮かぶ。
瘴気が凝縮し宝石のようになったもので、魔物の体内から取れることがあるのだ。魔法の触媒として使うことができる。
この鍾乳石は、もしかして全部魔石なのかな?
鍾乳石の周りには、液体の魔力も少量、川のように流れていた。上からぽたぽた落ちた瘴気を含んだ水が、鍾乳洞を作り出しているのかもしれない。それはきっと、ほんの数年のできごとではない。数百年、数千年の歴史を持っているのだと思うと、感動する。
「けらけら」
「あっ、ちょっと!」
ゴーストが一匹、ふらふらと鍾乳石に吸い寄せられていった。




