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ゴースト研究

 私が『冥国』にやってきてから数日が経った。

 研究対象にされると聞いて戦々恐々としていたのだけれど、ミレイユから色々事情聴取されたくらいで、特に何もされてない。ひとまずはほっとした。

 ミレイユからは聖女になってからのこと、そして死んだ後のことを事細かに聞かれた。それが何の役に立つのか私には分からないけど、魔法関連についてはファンゲイルすらも凌ぐ知識を持つらしい彼女は、何か思い当たる節があったようだ。


 また必要になったら呼ぶと言われ、それからはぐーたら過ごしていた。

 暇な時は硬魔の練習をしたり、ミレイユに絡みに行って邪険にされたり、冥国を散歩したりした。


 冥国にも至る所にヒトダマの養殖場があって、アンデッドの食糧が生産されている。最悪何も食べなくても生きていける私たち魔物だが、やはり魂を食べた方が調子がいい。魔力も回復するしね。


「うまうま」


 森のヒトダマがあっさりした爽やかな味だとしたら、山育ちのヒトダマはコクがあってしっかりしている。とっても美味しい。こっちの方が好きかも。

 魂を食べることに対する抵抗は、すっかりなくなった。いや、最初からなかったね。


「聖女ちゃん、入るよ」


「あーい」


 ファンゲイルの声だ。

 私にあてがわれた部屋は、ファンゲイルとミレイユが住む魔王城の一室だ。二人の研究施設も入っている。今はいないけど、他の幹部の部屋もあるらしい。


「どう? ここの生活にも慣れた?」


「快適だよ! なんか、特別待遇って感じ。もしかして、私って結構大事にされてる?」


 ゴズとメズは外の住宅で暮らしているもんね。

 私は最初から幹部待遇だ。


 ファンゲイルは「そうだよ」と言いながら手を伸ばして、私の頭を撫でようとする。霊体だけど、硬魔を自在に使いこなせる魔物は普通に触れることができるのだ。


「ひいっ」


 さっと身を引いて、ファンゲイルの手から逃れる。ダメだよ、私にはアレンが……。

 両手で頭を抑え壁際で縮こまった。


「ふふっ」


 口元を抑えてくつくつと笑う様子を見て、からかわれたのだと気が付いた。

 相変わらず性格の悪い魔王だね。子どものように無邪気な笑顔は、とても五百年を生きる不死の存在には見えないけど。


「君は僕のペットだからね。それに、近くにいてくれた方が研究しやすい。そのうち、準備ができたら君の魂も調べさせてもらうよ。聖霊という種族についても気になるし」


 幹部扱いではなく、ペット扱いだったらしい。


「ふーん。で、今日はどうかしたの?」


「君にも仕事をしてもらおうと思ってね」


「えー」


 仕事……なんて嫌な響き……。

 思えば死霊になってから、人間のしがらみから解き放たれていた。身体は疲れないし、何もしなくても責められることはない。聖女の務めもないから、毎日ヒトダマを食べてぼーっとしているだけで良かった。王宮にいた頃は常に気を張っていたから、気が楽だし性に合っていると思う。


 顔を引きつらせて、ゆっくり視線を外した。

 大丈夫、壁ならすり抜けられる! 死霊だからね!


 ゴツンと、いつかと同じように結界に頭をぶつけた。


「来るよね?」


「はい」


 物理的に気温が下がった部屋の中で、首を縦に何度も振った。有無を言わさず、部屋から連れ出される。


 ファンゲイルと共にやってきたのは、魔王城の隣にある小屋だった。外からでも感じられるくらい、中でたくさんの魂が蠢いている。


「ここはゴーストの実験をしているところなんだ」


「食べるの?」


「君……」


「うそうそ!!」


 別に、いつもご飯のこと考えているわけじゃないからね!?

 私も前はゴーストだったのに、食べることには抵抗はないけど……。ファンゲイルに聞いたら「人間だって牛やウサギを食べるでしょ」って言われた。魔物にとって、その程度の認識らしい。


 だからといって、死霊は全て捕食の対象というわけではない。魔王軍の大切な戦力でもあるし、アンデッドの研究のためには欠かせない存在だ。


「君は聖女の魔法で進化条件を看破できるって言っていたよね? それは自分以外でも?」


「うん、条件を満たさないとできない場合もあるけどね」


 『神託』は人間のギフトを確認したり、敵の魔物のランクや種族スキルを確認するために用いられる聖女のスキルだ。また死霊になった後は、これを使って進化条件を確認し、分岐の際はどちらに進化するか選ぶこともできた。

 先日試したら、自分より下位の魔物に限るがスケルトンの進化条件も教えて貰えたのだ。


「十分だよ。僕たちは今まで、しらみつぶしに試行錯誤するしかなかったんだから。ゴーストはレイスやサイレントゴースト以外にも、多種多様な魔物に進化する魔物だから、色々なパターンを記録して欲しいんだ」


 ケラケラ笑うだけの無害な魔物だけど、死霊の基礎になるような大事な存在なんだね。


「与える魂や魔力によって進化先が変わることも確認されている。中にはゴーストが二十体くらい閉じ込めてあるし、必要なら養殖場のヒトダマは自由に使ってくれていいから」


「おお、私が研究する側になるんだね! なんか楽しそう!」


「聖女の力は、僕たちには本当に貴重なんだ。期待しているよ」


 私はゴーストからレイスに進化したけれど、死霊系はまだまだたくさんの魔物がいるからね!

 魔王軍はその多くが『憑依系』――スケルトンやエアアーマーなんかの肉体に魂が宿っているタイプの魔物だから、死霊系の実用化を期待されているのかもしれない。

 ふふふ、魂の専門家なんて言いつつ、まだまだみたいだね。


 決めた!

 可愛くて強い、私だけのゴースト軍団を作っちゃおう!


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― 新着の感想 ―
[一言] 研究ということで気楽に請け負ってはいるけどそれ、人類を殺す為の戦力になるんですぜ。 気付いていても逆らえない以上は仕方ないのでしょうが… 今後人殺しを直接命じられた時がある意味で本当の分岐点…
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