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ex.王国にて

 元聖女セレナと『不死の魔王』ファンゲイルが去ったあとの王国は、ギフテッド皇国から派遣された使節団によって速やかに統治されていった。王族は処刑、貴族制度は廃止された。

 現在要職あるいは領主として土地を収めている貴族に関しては、混乱を避けるため新たな役職が開設され、それに就いた上で職務は継続する運びとなった。


「おやおや、レイニー卿ではありませぬか」


「バレンタイン卿、お久しぶりですね」


「貴殿がこの辺境に左遷……おっと、聖女の守護者として抜擢されて以来ですな。いやはや、このような田舎の国でもしっかりと職務を全うされていて、素晴らしいですな」


 バレンタインはレイニーと同じ『枢機卿』のギフトを持つ、皇国の重鎮だ。初期対応こそレイニーが行ったが、首尾を早馬で報告してからわずかひと月後、王国支配のためにやってきたのだった。教皇から王国統治における全権を委任されており、実質的な国のトップとなっている。


 皇国にいた頃は何度も顔を合わせていたが、会う度に嫌味を言ってくる。聖騎士団からたたき上げで地位を築いてきたレイニーが気に入らないのだ。


「しかし、レイニー卿がいながらも聖女様をみすみす失うとは」


「力不足を恥じるばかりです。公務で王宮を離れている間の出来事で……」


「言い訳とは見苦しいですな。この国を手に入れた功績だけでは、取返しがつきませぬぞ」


 聖女の処刑は、レイニーをもってしても防ぐことができないほどに突然で、迅速だった。とある子爵の入れ知恵があったらしいが、それにしても強行するような素振りはなかったのだ。

 とはいえ、既に聖女の命は失われてしまった。これは皇国にとっても大きな損失であり、レイニーの責任は免れない。


「バレンタイン卿ほどのお方がわざわざ足を運ぶとは、この国はそれほど価値がおありなのでしょうか。ずいぶんと早い到着でしたが……。ああそれとも、あなたも皇国での立場が悪くなったとか」


「ふん、そんなわけないでしょう。教皇猊下は私の実力をお認めになり、こうして大役を与えてくださったのです。それは偏に、王国に住む大勢の信徒を救うためですぞ。魔王の侵攻があった後ですからな」


 その魔王を撃退したのは聖女と『勇者』となったアレンのおかげなのだが、皇国には伏せている。聖女の魔物化も、祝福(ギフト)の使用も、到底報告できるようなものではない。アレンはこれまで通りただの孤児として、孤児院で暮らしている。

 共闘する魔物については多くの兵士が目撃しているものの、教義に反することであればうっかり口にすることもないだろう。


「しかし、枢機卿一人で魔王を撃退とは、お手柄でしたな」


「一人ではございませんよ。多くの冒険者や兵士の方々が尽力してくださったおかげです」


「そういうことにしておきましょう」


 ――少々まずいことになりましたね。

 レイニーは内心でそう呟きながら、会釈をしてバレンタインと別れた。


 当然ながら、皇国も一枚岩ではない。レイニーの知らないところで、何かが動いている。己の身の振り方も考えなくてはならないようだ。

 連れ去られた聖女セレナの様子も気になるし、助け出すためにはアレンを鍛え上げる必要がある。やることが多すぎて、最近は頭痛に悩まされている。


 王宮を出たレイニーはその足でアレンの孤児院に向かった。

 皇国に向かっていたシスターと子どもたちも戻ってきて、かつての賑わいを取り戻していた。これこそが聖女の守りたかったものなのだと、レイニーは胸が熱くなる思いを抱えて扉を開いた。


「レイニーさん!」


 いの一番に気が付いたアレンが駆け寄ってくる。

 続いて後ろから顔を出したのは、赤毛の少年だった。


「おばさん……」



「その呼び方はやめなさいと、何度言えば分かるのですか」


 彼は、もともと孤児院にいた子どもではない。

 聖女が森の中で助け、レイニーが送り届けた少年だ。


「お母様の容態はいかがですか?」


「うん、さっきご飯食べて、今は寝てるよ」


「そうですか。聖女様ほどではございませんが、わたくしも回復魔法は得意です。すぐによくなるでしょう」


 少年――カイルが命を懸けて採集してきた薬草は、母親の病気を治すには至らなかった。煎じて飲めば薬効がある植物ではあるが、それほど劇的な効き目があるわけではない。そのため、同行していたレイニーが回復魔法を使用し、経過観察のために王国に連れてきたのだった。


「さて、アレン君。今日も特訓を始めましょうか」


「ああ。早くセレナを助けてやらないとな。魔王のところで、どんな目に合ってるか分からない」


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