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旅路

 私が『不死の魔王』ファンゲイルに誘拐されてから半月が経過した。

 この半月はずっと移動していたと思う。目的地はファンゲイルの国だ。王国近くの砦はあくまで一時的に住んでいただけで、本拠地は別のところにあるらしい。


 『不死の森』を出て荒野や山脈地帯など人間があまり通らない道を進んできた。疲労のないアンデッドということで、かなりの距離を短期間で稼いだと思う。私も飛んでいるだけだから楽らくだ。


 ファンゲイルは常に女性の白骨死体を抱いている変態魔王だから、最初は何をされるのかと戦々恐々としていた。でも「アンデッドには優しい」という本人の言葉通り、今のところ私は無事です。


 なにせ私はもう人間じゃないからね。美少女聖女ちゃんとして皆に愛されていたのも生前のこと。処刑されて死霊となった私は、美少女死霊聖女ちゃんに進化したんだよ!

 ヒトダマから始まってなかなか人型になれなかったけど、今の姿は気に入っている。『聖霊』は一言で言えば神々しい幽霊って感じで、生前に近い姿だけどとっても可愛いのだ。


「ヒトダマ美味し~」


「こやつ、たった半月で馴染みすぎじゃあないかの?」


 牛の頭をぽりぽりと掻いて、ゴズが苦笑した。隣に腰かけるメズは興味なさそうに、野鳥の肉を頬張った。

 二人もアンデッドになったんだよね。ゾンビやグールと同じで肉体があるタイプだから、いつも生肉を食べている。


 私の食べ物はもっぱらヒトダマだ。ファンゲイルが養殖していたもので、(かめ)に入れて運んでいる。

 旅の途中、たびたび休憩してはみんなで魂や肉を食べるのだ。といっても意思のない低位の魔物はそのまま森に置いていったから、同行しているのは高位の魔物だけ。ファンゲイルは当然として、あとはゴズとメズだけだ。スカルドラゴンはどこかに飛んでいった。


「いつまでも沈んでいたって仕方ないからね!」


 切り替えの早さは私の長所だよ。

 そりゃ、幼い頃から一緒に育ったアレンと離れ離れになるのは寂しいけれど……国を守るためだから仕方ないよね。それにアレンが迎えに来るって言ってくれたから、私はそれを信じて待つよ。


「一応、儂ら殺し合った仲なんじゃけど」


「子どもを襲ったことは許してないよ」


「そんなだらけ切った格好で言われてものう」


 失礼な!

 ちょっと横向きにふわふわ漂いながらヒトダマ食べているだけなのに……。


 ゴズもメズも先の戦争では殺し合って、アレンやレイニーさんと共に倒した相手だ。ファンゲイルの魔法によって蘇ったけど、お互いに複雑な感情があることは否定しない。

 しかしそこはアンデッド特有の感覚なのか魔物同士だからなのか、過ぎたことはいいや、と思っている。私としては王国や孤児院の皆を守れただけで十分なのだ。


 私の身ひとつで解決するなら……って、これはアレンに怒られちゃうやつだ。

 でも、なんだかんだファンゲイルとの旅も悪くないと思い始めている。国も良いところだといいなー。


「よし、じゃあいつものやつ始めますか!」


 食事を終えた私は地面に降り立って、ゴズとメズに声を掛ける。二人は好戦的な笑みを浮かべて立ち上がった。


 ただ移動するだけではつまらないからと、ファンゲイルの提案によって始まった訓練だ。当の魔王は休憩中離れたところでゆっくりしているから、私たち三人で行う。


「今日も我が勝つがな」


 メズはそう言って、槍を頭上で大げさに回転させた。ぶんぶんと空気を裂くごとに、闇魔力が練り上げられていく。穂先、そして腕に魔力が集中した。


 ゴズはもっと大雑把だ。斧を構えたかと思うと、全身から闇魔力が放出される。足先から斧全体に掛けて、濃密な魔力が鎧のようにまとわりついた。


「ゴズは雑なのだ。もっと細かく操作しなければ」


「なんじゃと? メズは魔力が少ないから、節約が必要なだけじゃろう」


 二人が今やっているのは、闇魔力を操作して武器や身体に纏い、その場所を強化する技術だ。

 種族スキルではなく、訓練次第で誰でも身に付けられるものらしい。


 先の戦争では、私のホーリーレイを防いだりポルターガイストを跳ね返したり、あるいは攻撃に使ったりしていた。攻防どちらにも使用できる万能な力だ。


「おーし、私も」


 最近の訓練では、二人に魔力の使い方を教わっている。

 魔力量だけで見れば私が一番だけど、メズに言わせれば使い方がなってないとのことだ。聖女の魔法は得意なんだけどね。


 私は身体を構成する闇魔力に意識を集中させ、右手に集める。

 少しずつ対外に放出したそれを、霧散させないよう注意しながら拳を包み込むのだ。


硬魔(こうま)――纏い」


 魔力を押し固めることで物理的な干渉すらも可能にするのが硬魔だ。身体に纏えば戦闘において非常に有利になる。


 右拳をじっと見つめて、魔力をコントロールしようとする。球体を意識しているんだけど、ぐるぐると魔力が動いてどうにも安定しない。楕円形になったりでこぼこになったりを繰り返して、ついには制御を離れて霧散してしまった。


「ダメだー! 難しい」


 硬魔を使えれば私も近接戦闘できるようになるのに!


「センスがない」


「むむ、まあお前さんは柔魔が得意だからのう」


 硬魔と対を為すのが柔魔だ。言ってしまえば通常の魔力なのだが、スキルを使わずそのままの状態で操るのも高度な技術らしい。言われてみれば、聖域や結界は魔力を放出して場所を指定してから発動するものなので、柔魔の扱いは慣れていると思う。


「でも硬魔も使いたい」


「要練習じゃな」


 結局、この旅で硬魔を会得するには至らなかった。できれば国に着くまでには使いこなしたかったんだけどなー。


「やあ、そろそろ出発しようか」


 ファンゲイルが戻ってきた。彼はいつも来ている紺色のローブのままなのに、女性の遺骨の方は旅用の外套に変わっている。自分より骨のオシャレを優先するってどういうことなの……。


「今日中には着くよ」


「やっとだ!」


 魔王の国ってことは、魔物がいっぱいいるんだよね?

 ちょっと楽しみかも。


お待たせしました!第二部スタートします!

おかげさまで書籍化の準備も順調に進んでおります。続報をお待ちください。

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