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アレンなら分かってくれる!

 思い返したのは、数日前のこと。最初の侵攻をアレンとカールたちとともに防いだあと、森の中でファンゲイルに出会ったのだ。

 色々話したけどそれは置いておいて、その後彼は骨ドラゴンに乗って飛び去ったんだった。


 普通のスケルトンとは一線を画す、おそらくBランク以上、いやもしかしたらAランクの幹部かもしれない。骨しかない翼でなぜか空を飛び、ファンゲイルとともに王都に飛来している。


「おいおい、なんだありゃ」


「まさかこっちは陽動……?」


「あんなデカい魔物見たことねぇぞ!」


 アレンの視線を追った兵士たちが、骨ドラゴンを指さしながら口々に叫んだ。

 さしもの冒険者たちも、今回ばかりは表情を硬くする。余裕を見せるのはニコラハムくらいだ。


「おひょ~、ちょっとは骨のありそうな奴が出てきたっすね」


 スケルトンだけに、という小声に反応する者はいない。


 なんで突然王都に? こっちの進軍は陽動ってこと?

 『不死の魔王』ファンゲイルと骨ドラゴンだけだとしても戦闘能力はきっと絶大だ。民間人の被害は計り知れない。

 騎士団が控えているとはいえ、日和見の貴族たちに対応できるかどうか……。


「アレン、私、行かないと」


 聖霊になった私なら、ファンゲイルとだってきっと戦える。

 今この国を守れるのは私しかいないんだ。


「なんでだよ、王都には騎士団や貴族がいるだろ?」


「でも、魔王は強いから」


「お前はもう頑張っただろ。そんな身体になっても故郷に戻ってきて、俺に伝えて、戦いだって一番活躍して、街を守ったじゃねぇか。なのに、なんでまだ戦うとか言うんだよ」


「アレン、私は聖女なの。私しかいないんだよ」


「なんで、自分を殺した相手まで守ろうとするんだよ」


 絞り出したような掠れた声が、ひどく耳に残った。

 アレンは私が死んだことをどう受け止めたのだろうか。死んだ当人は特に感慨もなく能天気なものだったけれど、残されたアレンは、レイニーさんは、孤児院のみんなはどう感じたのだろう。

 人の死とは、得てして残された者を苦しめるものだ。聖女として、その姿を散々見てきた。


 しかも私の場合、王子という明確な原因がいるのだ。アレンが王子や貴族をどう思っているかは、想像に難くない。


「ごめんね。でも、王宮や王都にもお世話になった人はたくさんいるから」


 王子の息がかかった貴族たちからは、だいぶ酷い扱いを受けた。直接的な被害こそ少ないけど、これ見よがしに冷遇されたり陰口を言われたりなんてのは日常茶飯事だった。

 でも、侍従や料理人、庭師など仲の良い人たちもたくさんいたのだ。毎朝礼拝に来る老人夫婦や、慕ってくれる子供たちもいた。

 孤児院のみんなと同じように、見捨てることなんてできないよ。


 それに、王都がやられたらこの街も機能停止するからね!


 数秒、アレンと見つめ合う。いつになく真剣な私に根負けして、アレンはため息をついた。


「わかったよ」


「アレンなら分かってくれるって思ってたよ!」


「変なところで頑固だからな、お前は」


 さすがアレン。よく分かってる。

 そうと決まれば、善は急げだ。壁も障害物も全部無視して、まっすぐ突っ切るよ! 霊体だからね。


「俺も行く」


 走り出そうとした私を、短い言葉が留まらせた。


「危ないよ。それに貴族たちもいる」


「お前が行くなら行く」


「そっか」


 私と同じで、アレンも簡単に説得できるようなタイプじゃないよね。

 それにアレンが来てくれるなら心強いのは確かだ。


「にひひ、俺も行きたいところっすけど……」


 ニコラハムが言葉を濁して、森の方をちらりと見た。魂の抜けた死体の山。そしてその奥には、新たなアンデットの集団が現れていた。


「もうひと踏ん張りってところかな」


「腕が鳴るっすね」


「そういうわけだから、アレン、セレナ。こっちは僕らに任せて、王都は頼めるかな?」


 カールが背中越しに目を細めた。

 もはや歴戦の風格だ。今一息ついたばかりだっていうのに、カールも他の兵士も既に覚悟を決めている。

 私は『聖属性付与』を念入りに掛け直して、ここは任せることにした。


「わかった!」


 ファンゲイル、絶対止める!

 あ、王子と貴族はまだ許してないから覚悟しててね。


レビューを頂きました。本当に嬉しいです。ありがとうございます。

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