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アレンとなら、負ける気がしないね

 アザレアは強いし、私を処刑に導いた相手だから若干の恐怖心もある。

 でも、どうしてだろうね。


 アレンとなら、負ける気がしない。


「お願い、神様。魔力を使わせて……!」


 聖魔力と闇魔力だけでは、アザレアの黒鎖を突破できない。

 新しく手に入れた神属性の魔力。土壇場だけど、使いこなさないと。


「エンジェルウィング」


 死霊の身体は、主に闇魔力で形成されている。聖霊に進化した時に、そこに聖魔力も混ざった。いわば、混合魔力だ。

 でも、天使の翼は違う。背中から繋がっているのに、純粋な神魔力だけで成り立っているのだ。だから、硬魔のようにぶつけるだけで神属性の攻撃ができる。


 体外に放出するような使い方は、まだできない。他の魔力と性質は似ているのに、上手く扱えないのだ。


「アレン、いっくよー!」


 軽く羽ばたくだけで、翼がキラキラと輝いて身体が浮かび上がる。推進力も旋回も、以前の比ではない。


「ホーリーセイバー!」

「眩しいわねェ! グレイプニル――ケートス!」


 アレンに壊されたはずの鎖の大魚が、再び姿を現した。

 次々と虚空から生える鎖が、小魚や大魚の姿に変わっていく。とんでもない魔力量だね。


「はあっ! はっ! セレナ、俺から離れるなよ!」


 爆発力のあるアレンの攻撃でも、一体ずつ倒すのが精いっぱいだ。

 魔力量では負けてないけど、アザレアの鎖は魔力を吸収する。持久戦になったら不利なのはこちらだ。


「ふふふ、アタシの銀河では、誰も逃げられないのよ?」


 宙を泳ぐ魚たちは、不規則に『魂の銀河』に入り、別の場所から出現する。霊域でも知覚できない場所を通るため、反応が遅れてしまう。まるでそれぞれが意思を持っているように動くため、予測するのも難しい。


「アレン、一匹ずつ倒していても意味ないよ。私についてきて! エンジェルウィング!」


 小魚を消し飛ばしながら、空中で旋回した。翼を折りたたみ、アザレアに頭を向ける。


「とりゃー!」


 そういえば、ピィを倒す時にも突進した気がする!

 近接戦闘なんてできないから、仕方ないね。翼で身体を包んで、錐揉み回転しながら突っ込む。疑似的な神魔力の硬魔は、魚たちを次々と撃ち落とした。


「そんな強引な……ッ! ケートス!」


 彼女を守るように、大魚が大口を開ける。


「アレン!」

「デカイ魚は既に攻略済みだ! ホーリーセイバーッ!」


 勇者の並外れた身体能力で、私の背後にぴったりついていたアレンが聖剣を掲げた。

 数が多くて対処できないなら、一点突破すればいい。攻撃力は私たちのほうが上だからね!


「はぁああああ!」

「さっきと同じだとでも? ケートス! 喰らい尽くしなさい!」


 同じ魔法でも、使用者の加減によって強度や効果はがらりと変わる。私も、聖結界で形や強度、対象範囲なんかを細かく変えられるしね。

 アザレアの『グレイプニル』はレイニーさんのそれと名前は同じだけど、魔力を吸収する性質を持っている。そして、その強さは籠める魔力量によって変わる。


 アザレアはケートスの尾びれに手を添え、惜しむことなく魔力を注ぎ続けている。

 対するアレンも負けじと聖剣に魔力を流すが、だんだんと押され始めた。聖剣の輝きが、光を失っていく。


「くそ……っ。セレナ、俺のことは気にせず、今のうちにあいつを!」

「ダメだよ。私は離れない」


 ケートスは大きすぎて、エンジェルウィングでは破壊しきれない。

 でも、このままアレンが押し切られたら共倒れだ。


「……アレン、私を信じてくれる?」

「は? 当たり前だろ」

「うん。知ってる」


 アレンの背中に、そっと手を添える。

 今の私では、神魔力を体外に放出できない。厳密に言えば、出すだけならできるけど制御できず消えてしまう。


 でも、アレンと一緒ならできると思うんだ。


「今からアレンの身体を通して、聖剣に神魔力を流すね。アレンはなるべく抵抗しないで、受け入れてほしい。もしかしたら、ちょっと痛いかもしれないけど……」

「セレナがちゃんとコントロールしてくれるんだろ?」

「うん。任せて」

「おう、任せる」


 覚悟を決めて、後ろからアレンの腰に手を回す。翼を広げ、神魔力を滾らせた。

 ああ、こうしていると安心するな。教会の屋根裏で会った時は触れ合うこともできなかった。身体の感触や温度は感じられないけど、代わりに魔力の波長が伝わってくる。


「いくよ」


 これはアレンが『勇者』だから辛うじて可能な荒業だ。

 天使の翼から流れた神魔力が、アレンの身体に入り、聖剣の先まで伝わっていく。


「あっ、がっ……」


 アレンは歯を食いしばって、暴力的な魔力を受け入れた。少しでも抵抗すれば、彼の魔力が異物を追い出すだろう。でも、私の魔力はすんなりと受け渡せた。

 聖剣が、より一層神々しく煌めく。神魔力を纏った聖剣に、斬れないものはない。


「アレン!」

「うぉおおおおおおおお!」


 アレンは雄叫びを上げて、ケートスを切り裂いた。

 そのまま、アザレアに向けて聖剣を振り下ろす。彼女は口をぽかんと開けて、迫る聖剣を見ていた。

 散っていた小魚が一斉に寄ってきて盾となるが、神魔力に触れた瞬間消滅する。


 そして……アザレアは崩れ落ちた。


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