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儀式

「ネブラフィス様、天使のタリスマンをお持ちしました」

「よくやったな! 人造人間の使い方が上手くて助かるぜ」

「勿体ないお言葉です」


 突然現れたカマキリの魔物が、天使のタリスマンをネブラフィスに手渡した。トアリさんの首にかけられ、ファンゲイルが死守していたはずの物だ。

 彼が負けるところは想像がつかないけど、ここにあるということは少なくとも奪われたということになる。魔王から腕を奪ってみせた人造人間なら可能なのかな?


「ああ……! やっと悲願が叶うのね! ネブラフィス、早くそれを渡しなさい!」

「あいよ。報酬は弾めよ?」

「もちろんよ。だってこれから、皇国は神の力で世界を支配するんだもの! ネブラフィスは便利だから、少しは分けてあげてもいいわ」


 世界を支配するなんて、現実味がない。

 ていうか、大陸どころか海の先までなんて想像もつかないよ。私なんて、王国しか知らないのに。


「これが五百年前の秘宝、天使がもたらした神具なのね……綺麗……」


 アザレアが天使のタリスマンをうっとりと眺める。

 なんで天使様が、神を害する可能性がある神具を渡すんだろう? そういう伝承があるだけで無関係なのかもしれないけど。


「神の力を手中に収めれば、アタシたち革新派が教会のトップに立てるわ。鬱陶しい保守派の連中も、大きな顔をしている聖騎士団も逆らえなくなる。……ふふふ、今から楽しみね」

「そんなことさせないよ」

「縛られているくせに、口だけは達者ね。まあいいわ。今から儀式を始めるもの。すぐにあなたの意識はなくなるわ」


 さっきから脱出しようとしているけど、黒い鎖に魔力を封じ込められているため、力が出ない。『異端審問官』の魔法だろうか。魔物のスキルも聖女の魔法も、発動しようとした瞬間にかき消される。

 強すぎない? 捕まったらおしまいだ。

 ギフトとしての格は『聖女』のほうが上のはずだから、生前の魔力量があれば対抗できたかもしれない。


「元々、処刑後にあなたの魂はここに転送される予定だったのよ。『魂の銀河』を通ってね。そしてこの天使のタリスマンに吸収させ、神への生贄にするの」

「そんなことのために、私は殺されたんだ。トアリさん……五百年前の聖女も?」

「ええ。『不死の魔王』に邪魔されたらしいわね。その後も何度か聖女を殺したのだけれど、天使のタリスマンが見つからなかった。……代わりに魂を人造人間に植え付ける研究は進んだけれど、副産物に過ぎないわね」


 記録によると約五十年に一度のペースで現れるという、『聖女』のギフト。たしかに短命の子が多いとは思っていたけど、偶然だと思っていた。まさか、他でもない皇国に殺されていたなんて。


 いくら魂を抜き取ってこの場に連れてきたとしても、いずれ摩耗してなくなってしまう。だから天使のタリスマンが発見できるまで、儀式はできなかった。

 しかし、今ここに私の魂と天使のタリスマンが揃ってしまった。


「さあ、儀式を始めるわ。大丈夫、痛くないわよ。知らないけど」

「ぜったいに、アレンが助けに来るよ。あなたを必ず止める。アレンは絶対負けないから」

「儀式が始まれば、誰にも止めることはできないわ。そんなに悲観することないのよ? だって、あなたは神の一部になれるのだから! 敬虔な信徒なら、むしろ誉れでなくて?」


 嫌味に笑いながら、彼女が天使のタリスマンを私に近づけた。私は抵抗もできず、首にかけられるのを見ていることしかできない。

 壁際ではネブラフィスが面白そうに眺めている。カマキリの魔物はいつの間にかどこかへ消えていた。


「さあ、アタシたちのために消えなさい」


 物質であるはずのタリスマンは、落下することなく私の首にかかった。黒い鎖がさらに伸び、球体となって私を包み込んだ。暗闇の中に閉じ込められ、外の状況は窺えない。


 私、これで消えるの?

 一度目はあっさりと手放した命のくせに、今は死ぬのがとっても怖い。

 ただ『聖女』のギフトを持って生まれたというだけで、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?


 結局、あれからアレンとは会えなかったな。強くなったアレンと会うの、楽しみにしていたのに。

 ……弱気になっちゃダメだ。アレンを信じよう。彼は昔から、私がピンチの時には颯爽と現れて、助けてくれるんだ。喧嘩は強くないし、器用に立ち回れるわけではないから何も解決しなくて、最後は兄のカールが後始末してくれるんだけどね。

 でも、私のところに最初に来てくれるのは、いつだってアレンだった。


 だから、今回も大丈夫。

 私にできることは、意識を強く持って少しでも抵抗することだ。儀式がどういうものか、さっぱりわからないけど。


 もう外の様子も感じ取れない。

 意外と何も起きないなー……なんて思えたのも束の間だった。


(んっ、あ、ぐぁあああああ)


 痛い! 魂を直接削られる痛みだ。

 ヒトダマだった頃のソウルドレインとは比べ物にならない。魔力で守られているはずの聖霊の身体から、魂が引きずり出される。首元の天使のタリスマンが暗闇の中で煌めいて、私の魂を貪ろうとする。


 聖結界、聖域、ホーリーレイ……思いつく限りの魔法やスキルを撃ちまくるけど、鎖にかき消されるだけで効果はない。

 天使のタリスマンを外そうともがいても、へばりついて離れない。


(アレン……)


 外で儀式が進行したのだろうか。

 私の魂は少しずつ吸い込まれ――完全に天使のタリスマンの中に取り込まれた。


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