ex.湿地洞窟
ちぐはぐな二組が、一応の協力関係を結んだ、その時。
「――っ! ファンゲイル様、発見しました。座標を記録いたしますわ」
ずっと魔力を探っていたミレイユが、ついにアザレアの魔力を捉えた。
即座に座標を記録する魔法を放つ。彼女の右手から飛び発った青い炎の鳥は、その場所にまっすぐ向かった。
続いて、左手にも蒼炎の鳥が現れた。
「ファンゲイル様、こちらをお持ちください。対になる鳥の居場所に案内してくれますわ」
「うん、ありがとう。ミレイユは……」
「ええ、冥国の守りはお任せくださいませ」
ミレイユが地平線を見つめて、そう言った。
彼女の視線の先には、まるで津波のように押し寄せる虫の大群がいた。その数は先日の比ではなく、強力な個体も多いようだ。地を這い、あるいは空を飛び、冥国を目指している。
「スカルドラゴン、行くよ」
「ガタガタ」
氷で造った階段を登り、スカルドラゴンの頭に座った。手のひらに乗る小さな鳥は、じっと一方向を向いている。
「待ってくれ! 俺も連れて行ってほしい。俺は……セレナを助けるために強くなったんだ」
「最初からそのつもりだよ、勇者くん」
「そ、そうか。頼む」
アレンは地面を蹴って跳躍し、ファンゲイルに倣ってスカルドラゴンの頭に乗った。骨にしっかりと捕まる。
「わたくしは……」
「レイニーさん、あなたがセレナを大切に思っていることは知っている。けど、ここは俺に任せて欲しい。そこにいる王国の人たちを守ってくれ」
「……聖女様なら、彼らを見捨てることを良しとしないでしょうね。アレン、約束してください。必ず聖女様を助けると」
「ああ、もちろんだ」
アレンとファンゲイルはスカルドラゴンの背に乗り、セレナの元へ。
ミレイユとレイニーは、『蟲の魔王』の勢力と戦うために残った。
スカルドラゴンが骨しかない翼を大きく広げた。二人を乗せ、高く飛び上がる。虫たちの頭上を大きく越え、一気に加速する。
彼らは知らぬことだが、ミレイユが魔力を探知できたのはアザレアが『魂の銀河』から出たからだ。そしてセレナがいる教会は、ネブラフィスの本拠地『湿地洞窟』の中にある。
「スカルドラゴンは飛行能力に優れた魔物なんだ。飛べそうな身体には見えないけどね」
優雅に座るファンゲイルの言葉は、アレンには届かない。
猛スピードで飛行するスカルドラゴンにしがみつくので精一杯だからだ。風の音でかきけされ、会話などできるはずがない。
なんでそんな余裕そうなんだ、と内心で毒づく。よく見ると彼の周りだけ、スカルドラゴンの魔力が風を遮っている。乗るのは許されても、乗り心地までは保証されないらしい。
風を操るドラゴンの骨から作られたスカルドラゴンは、アンデッドになってもその能力を継承している。スキルで風を自在に操り、高速飛行を実現していた。最高速度は音速にも達する。
まもなくして、『湿地洞窟』の入口に辿り着いた。
「さて、ここからは徒歩だね。スカルドラゴンが入れそうには見えない」
「ここにセレナが……」
「クク、聖女ちゃんは僕の大切な研究材料だからね。返してもらうよ」
「は? おい、セレナに変なことしてないだろうな!?」
「ちょっとしかしてないよ」
アレンをからかいながら、湿地洞窟に足を踏み入れる。
ミレイユに託された鳥は、役目を終えたとばかりに消滅した。湿地洞窟の中はおそろしく瘴気の密度が高い。おそらく、先行した鳥も中にまで入れなかったのだろう。
ここからは案内なしで進むしかない。しかし、入り組んだ洞窟を地道にマッピングする時間はない。
「スノーダスト」
「神の導き」
二人が同時に魔法を発動した。
ファンゲイルが放った目に見えない微細な氷が空間を満たす。どんどん洞窟の中を浸食していき、その全容をファンゲイルに伝えた。効果としてはセレナの霊域に近い。
アレンは聖剣を手から聖剣を取り出し、歩き出した。その道は、ファンゲイルが探知した正解の道と同じだ。
「……なーに、その魔法」
「勇者のスキルだ。なんとなく正解がわかる」
「へー、ずるいね」
複雑な洞窟も、二人にとっては一本道と変わらないようだった。
そして、彼らは同時に、この先で待ち受ける敵も察知していた。