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スケルトンは軽いね

 戦場の中心では、レイニーさんとミレイユが大規模に戦っている。

 蒼炎で作られた巨大な龍と、聖なる鎖で作られた巨人の腕。遠目から見ると巨大な魔物が喰らい合っているように見える。

 二人の距離は離れているけど、魔導士タイプの二人には適正な間合いだ。ミレイユはスカルドラゴンに、レイニーさんは鎖の上に立つことで、空中戦を可能としている。


 両者の最高戦力がぶつかっている中、スケルトン系と人間の争いも本格化している。

 今のところ拮抗していてどちらかといえば人間側が有利だ。しかし、アンデッドは疲労しないし、数も膨大。いずれ人間に被害が出始める。


「スケルトンを全部倒す? でもそうすると『蟲の魔王』と戦えなくなっちゃうし……よし」


 私は空中に飛び上がり、全体を俯瞰する。


「霊域――ポルターガイスト!」


 対多数は私の得意分野だ!

 闇魔力を薄く広げて、戦場を覆いつくす。そして、物質を掴むスキル、ポルターガイストでスケルトンを一斉に捕獲した。

 突然動きが止まった敵に、人間たちが戸惑った顔をする。


「みんな山に帰れー!」


 ぐぐぐ、っと手繰るように闇魔力を引っ張る。

 ただ持ち上げるだけなら細かい操作はいらない。Cランクのスケルトンジェネラルなんかには抵抗されちゃったけど、スケルトンソルジャーやエアアーマーなどはポルターガイストに捕まり、身動きが取れないまま空に浮かんだ。

 そのまま、まとめて『不死の山』の中腹まで持っていく。


「ふう、軽い軽い。もっとお肉つけたほうがいいんじゃない?」


 あ、私は乙女だからもっと軽いよ。体重ないからね!


 全身鎧に身を包むスケルトンジェネラルは手ごわいけど、不定形結界で作った硬魔と組み合わせることで、移動させることに成功した。同じく山に返す。


 再び戦場に戻って、両手を広げた。


「みんな、戦うのはやめにしよ? 山に入ったら生きては出られないよ」


「聖女様……」

「なぜ聖女様が……? 死んだはずじゃ」

「聖女様が飛んでる」

「ああ、我らの聖女様……まさか再び会えるとは」


 私の顔を知る神官たちが、まっさきに反応した。中には泣き崩れる人もいる。レイニーさんだけじゃなく、みんなにも心配かけちゃったみたいだね。貴族に嫌がらせを受けても、神官たちはずっと味方でいてくれた。


「やっほーっす。セレナちゃん」

「あ! 冒険者の!」

「『破壊王』ニコラハムっすよ」


 そうそう、すっごい強い冒険者の人。彼は私のこの姿を知っているので、話が早い。


「ニコラハムさん、ここは私に任せて、撤退してくれないかな? 事情はあとで話すけど、とにかくこの戦争は無意味なの」

「別にいいっすよ。魔王と戦いたかったっすけど、あれに巻き込まれたくないっすから」


 ちらっと、未だ継続中のド派手バトルを見る。うん、彼なら無事で済みそうだけど、できれば混ざりたくないよね。


「でも、いいんすか? アレン君のこと」

「んー? アレン?」

「アレン君、セレナちゃんを助けるために一人で山に入っていったすけど」

「えっ」


 アレンが一人で?

 道中では合わなかったから、すれ違いになったの?

 一人で無茶するなんて、いくら強くなったとしても無謀だ。冥国にはファンゲイルがいる。絶対的な魔法の実力を持つミレイユですら敵わない、正真正銘の魔王だ。


「助けに行くとか言っちゃだめっすよ」


 踵を返そうとした私に、ニコラハムの言葉が突き刺さる。


「アレン君なら大丈夫っす。セレナちゃんを救うために努力したのに逆に助けられるとか、侮辱に等しいっすよ」

「でも……」

「何のためにここに来たっすか?」


 常ににこやかな彼の笑みが、一層深まった。

 わかってる。今私がやるべきは、しっかり戦争を止めることだ。アレンが行く先に私がいないのは申し訳ないけど、彼はファンゲイルを倒す覚悟を持って山に入った。それは私が頼んだことだ。なら、邪魔するべきじゃない。


「そうだよね……アレンは弱くない」

「めちゃくちゃ強いっすよ。驚くほどに」

「それは楽しみだなぁ……。よし、じゃあ私はレイニーさんを止めてくる!」


 神官たちは手を止めてくれた。冒険者や兵士も、ニコラハムがなんとかしてくれる。

 良かった。犠牲者はいないみたい。神官が大勢いるからケガも問題ない。戦う必要なんてないんだから、平和が一番だよね。一安心だ。


 スケルトンが戻ってくるまで時間がかかるし、ミレイユも一旦止めてくれると助かるな。


 純白と群青がしのぎを削る上空を見上げて、飛ぼうとした。――その時。


「やーっと隙を見せたわね」


 耳元で、心の底からすくみ上るような恐ろしい声がした。


「アンドロメダの鎖」

「え……?」

「咎人を裁くための鎖よ。どう? あなたにも効くでしょ?」


 身体が動かない。蜘蛛が獲物を糸でぐるぐる巻きにするように、黒い鎖が私を簀巻きにした。

 常に展開しているはずの霊域にも反応がなかった。目に届きそうなほど口角を尖らせた女性が、私の前に姿を現す。


 その顔を、私は知っていた。忘れるはずがない。死ぬ瞬間まで見ていた顔だ。


「子爵令嬢アザレア……!? 偽聖女のあなたがなんでここに!」

「あっはっは! 滑稽ね、聖女様? 魔物なんかになるから、無駄に苦労させられたわ。せっかく処刑(・・・・・・)したのに(・・・・)


 自分こそが真の聖女だと主張して王子に取入ったアザレアは、不気味に高笑いした。

 かつて見た令嬢の服装ではない。漆黒の法衣を身に纏い、鋭利な瞳を向けている。世間知らずそうな姿とは似ても似つかない。


「アザレア殿、ついに捕らえたのですな。さすがは異端審問官のエース」

「ええ、バレンタイン卿。これで私たちの目的は達成したようなもの……。天使のタリスマンは任せるわ。アタシは聖女の魂を連れて行く」

「お任せを」


 異端審問官。噂でしか聞いたことのない、ギフテッド教会の暗部。

 アザレアが異端審問官……? 話についていけない。


「待つっすよ――絶対破壊」


 ニコラハムが一瞬で肉薄し、アザレアに拳を叩きこむ。判断が早い。しかし、あらゆる物質を崩壊させる彼の拳は、アザレアに届くことはなかった。アザレアを守るように現れた黒い結界が、拳を吸い込んだのだ。ニコラハムは慌てて手を引っ込める。


 アザレアは鎖ごと私を引きずって、その場を離れる。


「レイニーさん!」


 ダメだ、魔力が使えない。鎖は魔力を遮断していて、外部に魔力を出せないのだ。こうなると、私は魔法を使えない。


 上空で戦っていたレイニーさんが私に気づいて手を伸ばした。ミレイユもはっとしたように魔法を止める。でも、二人とも間に合わない。


「聖女さ……セレナぁあああ!」


 レイニーさんの叫びが虚しく響く。


「さようなら。愚かな枢機卿さん。異空間結界――魂の銀河」


 アザレアは先ほどのような一枚の黒い結界を出し、その中に身体を滑り込ませた。私を連れて。


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