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レイニーVSミレイユ

 思えば、この姿でレイニーさんに会うのは初めてだ。


 処刑されて魔物になってから、会ったのは二回だけ。商人の男性を助けた時はゴーストの姿で、ゴズと戦った時はレイスの姿で。

 一回目は問答無用で攻撃されたけど、二回目は半分くらい察してくれたんだったかな。でも聖霊になった今なら、生前と同じ姿だから信じてもらえるはず。


 そういえば、最初は人型になってレイニーさんに会うことを目標にしていたね。ずいぶんと遠回りしてしまった。


「聖女……様……?」


 私の姿を捉えた双眸が、かっと見開く。

 ちょっと足がないけど私だよ!


 突然いなくなってごめんなさい。また会えて嬉しい。喋れるようになったからこそ伝えたいことが、たくさんある。

 でも今は、それどころではない。

 私はレイニーさんの前に降りて、声を張り上げる。


「レイニーさん! 戦うのをやめて欲しいの! 敵はファンゲイル……『不死の魔王』じゃないんだよ!」

「聖女様、どういうことでしょうか。たしか、あなたは『不死の魔王』に囚われているんじゃ……」

「えっと、説明すると長いんだけど、本当の敵は『蟲の魔王』と皇国で……とにかく、今すぐみんなを止めて、撤退して?」


 兵士や冒険者もいるみたいだけど、神官がほとんどの割合を占めている。レイニーさんは皇国でも地位が高いから、彼女が言えば従う。


 戸惑っているレイニーさんをさらに説得しようとして……背後に気配を感じたので、慌てて聖結界を展開する。


「セレナ。これ以上邪魔をするなら、本当に消し飛ばしますわよ?」

「ミレイユ……」


 聖結界をこんなにすぐ突破されるなんて……。

 大地を揺らすスカルドラゴンに、周りの神官たちが怯えて後ずさる。この巨体が暴れるだけで十分脅威だ。

 ミレイユはスカルドラゴンの頭に直立したまま、私を見降ろす。


「まったく。だから聖女を仲間にするなんて反対だったのですわ」

「聖女様を仲間……? 魔物風情が、何をおっしゃっているのでしょうか」

「あら、ずいぶんと下賤な魔力が多い方ですこと……。厄介ですわね」


 私を挟んで、レイニーさんとミレイユが火花を散らす。

 白く輝く鎖が空を切り、蒼く揺らめく炎が迎え撃つように踊る。


「なんでみんな、そんなに好戦的なの! 聖結界」


 中央に割り込んで、両手から聖結界を展開する。

 私が挟み撃ちされる形だ。それぞれの攻撃が聖結界に衝突する。さすが武闘派の二人なだけあって、ものすごい威力だ。


 なんとか防いだ、と息を吐いたのも束の間。爆風が晴れた先に見えたミレイユの魔法を見て、ぎょっとする。


「手加減は終わりですわ。冥府の炎よ、顕現なさい――青龍」


 スカルドラゴンほどに大きく細長い、蒼炎の龍がミレイユを中心にとぐろを巻いた。

 そして、顎を大きく開けて突進してくる。


 これは無理!

 炎に包まれているのに、ミレイユの目は冷え切っている。実は冷たい炎なんじゃないかと錯覚させられる。


 少しでも食い止めようと、全力で結界を張ろうとして……止めた。レイニーさんが私の前に出たからだ。


「もう二度と、あなた様を失わないと決めましたから。ジャッチメントホーリー」


 空から降り注ぐ聖なる柱は、本来は攻撃の魔法だ。しかし、魔物に裁きを与える絶対的な光の放流は、冥府の炎すらも消し去る。

 頭や胴体を貫かれ、炎の龍はどことなく苦しそうにもがいた。


「聖女様。今は別行動をしていますが、アレンも来ています」

「アレンが?」

「はい。見違えるように強くなっていますよ。ですから安心してください。脅されているのでしょう? わたくしたちが助けますから」


 『勇者』のギフトを使いこなせたみたいだね。

 約束通り助けに来てくれるのは嬉しい。早く会いたいね。


「でも、私は大丈夫だよ。それより今は……」

「下がって!」


 ミレイユから、絶え間なく攻撃が飛んでくる。

 戦闘の余波だけで周囲が破壊されていく。私は聖結界を各所に展開して、人間たちを守る。ミレイユが本気を出せば、下級の神官ではひとたまりもない。


 しかし、レイニーさんなら対抗できる。

 『枢機卿』の名は伊達ではない。彼女が放つ聖魔力で作られた鎖が、何本も寄り集まって青龍に匹敵するほど大きな塊になった。それは巨人の腕のように動き、蒼炎と衝突する。


「どっちにも死んでほしくないっていうのは、私のわがままなのかな」


 なんでこうなってしまったんだろう。

 ついに本格的な戦争に発展してしまった戦場を呆然と眺めて、そうひとりごちる。

 レイニーさんとミレイユだけじゃない。遅れて到着した高位の魔物が、あちこちで人間と戦い始めている。王国の戦力は神官や冒険者など、戦闘に秀でた者が多い。それでも、押され始めていた。


「これじゃ、敵の思うつぼだよ」


 本当は戦う必要なんてないはずなのに。

 というか、なんで王国の人たちがここにいるんだろう。レイニーさんは私を助けに来たと言っていたけど、それに他の人たちを巻き込むとは考えづらい。


 もしかしたら、『蟲の魔王』と同じように、皇国が手引きしたのかもしれない。戦力を削り、弱ったところを叩くために。

 もしこの状況で虫の魔物まで乱入してきたら三つ巴の混戦になる。


「レイニーさんがダメなら……私が直接みんなを説得するしかないね」


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