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蒼炎

「止めないと!!」


 反射的に、そう叫んでいた。


 なんで王国の人たちがここにいるの!?

 もし『蟲の魔王』の裏で皇国が糸を引いていたとしても、敵になるのは皇国の人だと思っていた。それでも嫌だったけど、魔王と手を組んで悪い事を企んでいるなら戦うのも仕方ないとなんとか受け入れた。


 でも、王国の人は違う。

 王国の兵士も神官も冒険者も、みんな故郷の大切な仲間だ。


「私、説得してくる!」

「無駄だよ。人間が魔物の言うことを聞くと思う?」

「レイニーさんならきっとわかってくれるもん」


 彼らと敵対するなら……私は何のために守ってきたの?

 結界を張り続け、死んだあとも奔走し、自分の身を人質としてファンゲイルを退けた。それは全て、故郷と王国に住む人たちを守るためだ。小国だけど豊かで温かい人たちが住む、大事な故郷を。


 もしその気持ちさえ忘れてしまったら、私は私でいられなくなってしまう。その時は心まで魔物になってしまうことだろう。


「好きにしなよ」


 ファンゲイルは呆れた顔で、私を送りだす。

 ミレイユが出発してから、まだそんなに経っていない。スケルトンは移動が遅いから、今から急げば戦いが始まる前に辿り着けるはずだ。


 研究所にいるゴーストたちを呼ぶ時間もない。

 私一人で止めないと!


「いそげーーー」


 滑空するように、頂上からまっすぐ向かっていく。風も障害物も関係ない。死霊の身体を駆使して、とにかく急いだ。


 望遠氷晶越しに見ていた景色が、だんだんと近づいてくる。やがて肉眼でもはっきりと見える距離になった。


「少し遅かったっ!」


 予め各地にスケルトンが潜んでいたのだった。

 既に戦端は開かれていて、スケルトンとの小競り合いが起きている。ミレイユを乗せたスカルドラゴンは、上空から様子を窺っていた。


「ミレイユ!」

「セレナ? どうして来たのかしら? あなたは狙われているのだから、冥国にいなさい」

「戦いをやめて! あの人たちは敵じゃないよ?」


 私の言葉に、傘を差すミレイユが眉を顰めた。


「何を言っているの? 冥国に侵略しようとしているのだから、ファンゲイル様の敵ですわ。当然、皆殺しですわよ」

「違うの! えっと、違くないんだけど、たぶんみんな騙されているだけで! 待ってて、私が説得してくるから」

「そう……あなた、ファンゲイル様に反旗を翻すのですわね」


 彼女の目が、すっと細められた。


 怒りではない。ただ純粋な殺意。私を敵だと認識した目だ。

 今まではちゃんと仲間だと思ってもらえてたんだ、と妙に実感した。だって、親しみの籠った目しか見たことがなかったから。


 でも、ミレイユはファンゲイルの敵には容赦しない。


「人間に付くのなら、一緒に滅ぼしますわよ?」


 この半年間、ミレイユとはそれなりに仲良くやってきた。女性同士だから話せることもあったし、研究されたり魔法を教わったり、少なくない時間を一緒に過ごしたはずだ。

 でも……王国の人たちを殺すというなら、私は敵に回る。


「絶対に止めるよ。人間も、ミレイユも。殺し合いなんてさせないから」


 そう告げた瞬間。


「蒼炎」

「――ッ! 聖結界!」


 恐ろしく冷たい目をしたミレイユが、指で虚空をなぞった。

 たったそれだけで、十を超える炎の球が現れる。青く煌めくそれは、一斉に私に向かって飛んできた。


 完全に殺す気だ。一つ一つが必殺の威力を持つ蒼炎を、聖結界でなんとか防ぐ。


「ミレイユ、待って!」

「安心なさい。皇国があなたをどうするつもりなのかは知らないけれど、あなたが死ねば防げますわ」


 彼女の猛攻は止まらない。

 ミレイユの生前のギフトは『大魔導士』という、聖と闇以外の全ての魔法に精通するギフトだ。中でも、殺傷力と速度に優れる蒼炎を好んで使う。


 私は距離を取りながら、聖結界で身を守る。一重じゃ足りない。魔法防御に特化した結界を幾重にも張り巡らせる。

 空中で聖結界と蒼炎が衝突し、爆発が起きる。お互いに高い位置を飛んでいるから、地上には影響ない。


「私は戦いたいわけじゃないのに」


 今のところ、ミレイユは本気を出していない。手加減してくれているのか、単純にこれで十分だと思っているのか。

 ともかく、なんとかして殺し合いを止めないと!


「さっき、一瞬だけどレイニーさんが見えたはず……。よし、レイニーさんを探そう!」


 ミレイユは説得に応じそうにない。人間たちが冥国を目指している以上、ミレイユは決して退かないだろう。

 なら王国の人たちを説得して、侵攻をやめてもらえばいいのだ。奇しくも、王国を防衛していた時とは反対の状況である。


「聖結界、五重で!」

「あら?」


 箱型の聖結界でミレイユとスカルドラゴンを囲い込む。

 すぐ破られるだろうけど……少しでも時間を稼がないと。


 眼下ではスケルトンと人間たちが戦っている。スケルトンジェネラルも何体か出ているから、時間が経てば経つほど被害が増えるだろう。


「ヒール! 聖結界! 聖域!」


 私は地上に降りて、ケガ人を見つけ次第ヒールをかける。

 同時に、魔法を展開していく。これでだいぶ被害は抑えられるはずだ。


「ファントムか!?」

「え……? 聖女様……?」


 知った顔が何人かいるね。再会を喜びたいところだけど、まずは戦争を止める必要がある。

 高速で飛び回り、レイニーさんの姿を探す。『枢機卿』が身に着ける法衣は特に豪華なので、きっとすぐに見つかるはず。


 それに、レイニーさんが全力で戦えばとても目立つ。


「ジャッジメントホーリー」


 凛とした歌うような声。そして、天まで届く光の柱。


「見つけた! レイニーさーん!」


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[気になる点] 誤字報告 超常からまっすぐ向かっていく。 ジャッチメントホーリー
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