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戦端

 その日は、突然訪れた。


「ファンゲイル! 敵が来たよ!」

「ワタクシの感知魔法にも反応がありますわ」


 私の聖結界とミレイユの魔法が、ほぼ同時に敵襲を察知した。

 効果を限定的にすれば、少ない魔力でも広範囲に結界を張ることができる。今回の場合、魔物の通過を私に知らせるだけの結界で、『不死の山』周辺を囲っておいたのだ。


 ミレイユも各地に術式を設置して、似た効果を発揮している。


「いよいよだね。あはっ、遅すぎてこっちから攻めようかと思ったよ」

「どうやら滅びたいらしいですわね」


 実際、『蟲の魔王』ネブラフィスの本拠地は既に判明している。あちらが虫の魔物で情報を集めているように、私たちにはアンデッドがいるのだ。死霊系は移動の制限が少ないので、レイスに探してもらった。


 場所は村長さんが言っていた通り、皇国からほど近い洞窟だ。人々から『湿地洞窟』と呼ばれる深い洞穴は、虫系の魔物で溢れ中に入った者は二度と出られないと言われている。


 目と鼻の先に魔王が住みついているというのに、皇国が見逃しているということになるね。


「手を出してこなければ見逃して差し上げましたのに。ファンゲイル様に楯突くなど、おろかな」

「別にネブラフィスには興味ないからね。でも、攻めてくるなら容赦しないよ」


 戦争の準備は万全だ。

 スケルトンジェネラルを始めとしたCランク以上の魔物も大勢いて、戦力は王国に侵略してきた時の比ではない。レイスだったころの私では到底太刀打ちできないような軍勢だ。

 相手も魔王だから一筋縄ではいかないと思うけど、それでも負ける気がしなかった。


「皇国も来てるのかな?」

「さあね。僕としては因縁に決着をつけたいところだけど」

「私は……できれば来ないでほしい。人間と戦いたくはないよ」


 皇国が本当に関係しているのだとしても、それはごく一部だろう。ほとんどの神官や教徒は、本当に魔物が悪だと思っているはずだ。

 トアリさんや私の死の真相は知りたい。でも、人間を積極的に殺してしまったら、私はもう、胸を張ってアレンと会えない。


「どっちにしても、まずは戦争だ。――ミレイユ」

「はい。ワタクシにお任せを。虫どもを焼き尽くしてまいります」


 ミレイユ、怒ると怖いからなー。

 彼女は魔法の天才であるとともに、スケルトンの軍勢を率いる指揮官でもある。ファンゲイルが出る幕もないだろう。


 私とファンゲイルは冥国で待機だ。標的がのこのこと姿を現す必要もないだろうという判断である。

 ちょっともどかしいけれど、ミレイユに任せておけば大丈夫だよね。


「スカルドラゴン、来なさい」


 小さく呟いて、優雅に窓から飛び降りた。もちろん投身自殺をしたわけではない。タイミングよく飛んできたスカルドラゴンがミレイユの身を受け止める。スカルドラゴンの頭部に降り立った彼女は、傘の下で妖艶な笑みを浮かべた。

 風圧の中でも彼女の衣服は一切乱れない。深い青色が、昼間の空に消えていった。


「ネブラフィスだけならどうとでもなるんだけどね。聖騎士団が出てくるようなら、僕が動かないといけない」


 聖属性はアンデッドの天敵だ。

 皇国の神官のほとんどは非戦闘員だけど、中には戦闘に特化した人もいる。ギフトで言えば『枢機卿』や『聖騎士』などだ。彼らは魔物討伐のスペシャリストだから、皇国が戦争に参加するのであれば出てくるだろう。


「さて、僕らも様子を見ようか」


 ファンゲイルとともに、山頂に移動する。私は飛べるし、ファンゲイルも氷塊に乗って飛ばすことで短時間なら高速移動が可能だ。

 ここからなら遠くまで見渡すことができる。今日は雲も少なくて、見晴らしがいい。


「望遠氷晶」


 ファンゲイルの杖が瞬いて、目の前に巨大な氷を出現させた。

 スカルドラゴンよりも大きなそれは、ただの氷ではない。円柱になっていて、面を私たちに向けている。

 そこに描かれるのは、麓の様子だ。


 光を取り込み、拡大する魔法である。障害物がなければ遠くの様子を間近に見ることができるのだ。便利な魔法だね。戦況の把握にぴったりだ。


 冥国を目指す虫の魔物が大勢映っている――そう、思っていた。


「え?」

「へえ、そう来たか」


 しかし、そこに映っていたのは人間だった。

 鎧や法衣が示すのは、ギフテッド教の紋章。……皇国の軍勢だ。


「嘘っ、なんで人間が?」

「魔物はいなそうだね。ふーん、最初から皇国が来るんだ。それとも、タイミングを合わせて攻めるつもりかな?」


 前回と同じく、虫の魔物が攻めてくるのだと思っていた。皇国が最初からリスクを取る選択をするとは思わなかったのだ。

 聖職者のギフトを持つ者は貴重で、それほど数がいるわけではない。聖騎士ともなれば、虎の子の戦力だ。


 彼らの様子が映し出される氷塊を見つめていると、何か違和感を覚えた。

 いや、違和感というより記憶の端に引っ掛かるような……。


「あれ? この人、どこかで……」


 一度気づくと、その感覚は鮮明になっていく。

 最初に見つけたのは、一人の兵士だった。間違いない。この人と会ったことがある。――王国で。


 一人だけなら偶然だと思えた。

 でも、王国で一緒に働いていた神官や、防衛戦をともにした冒険者など、見知った顔が次々と見つかる。

 そして極めつけは……。


「レイニー、さん……?」


 皇国の軍勢なんかじゃない。

 攻めて来たのは――王国の人たちだ。


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