第9話 街道の森散策
「ふんふふんふふ〜ん」
「にゃっにゃにゃんにゃにゃ〜ん」
クロと歌いながら森の中を進んでいく。
「なんか気の抜ける歌だな」
「それにしても、嬢ちゃん、良かったのか? 俺たちから提案しておいてなんだが、俺たちみたいな怪しい風体の冒険者二人と森なんか入っちゃダメだろ」
「そうだぞ、魔法鞄持ちの一人旅の少女なんて、狙ってくださいって言ってるようなもんだぞ」
「ん〜。でも、おじさん達は大丈夫な気がして! 女の勘ってやつです!」
「ははっ、そりゃあ良い。でも、あのカップルには気をつけておけ。なんか胡散臭い気がする」
「やっぱりそうなんですね。わたしもそう感じてたのですが、他に同じように感じる人がいて良かったです」
「お、意外と『女の勘』が仕事してるじゃねえか」
「意外とはなんですか〜!」
ワイワイ言いながら進んでいく。
「あ、ありました! りんごの木だ!」
木に駆け寄り、スルスルと登り、鞄に詰めていく。クロちゃんは高いところや枝の細いところから採って、お腹の袋に入れている。
「嬢ちゃん、猿みたいだな」
「むー! そんなこと言うと、分けてあげませんよ!」
「わかったわかった、俺らは一応、周囲を見張ってるからさ」
「ありがとうございます、助かります」
そう言いながら木の上から周りを見渡すと、奥にキラっとしたものが見えた。
「お、なんだかキラキラしたものを発見しました。あっちに行ってみましょう」
木から降りて、おじさん達を連れて行く。
「それにしても嬢ちゃん、森に慣れてるって本当だったんだな」
「そりゃあ、伊達にど田舎で育ったわけじゃないのですよ。ふふん」
さっき、りんごの木の上から見えたあたりに到着した。
「この辺りに、キラッとしたものが見えたんですが……」
「お、あれじゃねえか?」
「何あれ! 金色の……さくらんぼ?」
「嬢ちゃん、すげえじゃねえか、あれ普通は森の奥深くにしかないって言われてる種類だぞ。でも気を付けろ、これがあるってことは、この辺りに魔物が出るかもしれないぞ」
「魔物……! 美味しいお肉ですね?」
目がキラーンとする。
「いや、そりゃまあ普通の肉より美味しいけどよ。それより、危ないとかあるだろうよ」
「危ないのですか?」
「まあ、この辺りに出るのなら、俺たちには余裕だが」
「それなら安心ですね、頼りにしてます。では、私はさくらんぼの収穫に行ってきます!」
クロちゃんとさくらんぼ狩り。木の上で少し味見をしたら、美味しい!これはいっぱい採らなくてはと気合が入る。
そんなことをしていたら、下から声が聞こえてきた。
「魔猪が来るぞ!」
さくらんぼの木に一直線に走ってくる。このまま衝突されたら揺れるぞ〜と思って木にしっかりしがみつく。また落ちたら嫌だもんね。
しかし、そんな衝撃が来る前に、あっさり倒された魔猪。
「おお〜。冒険者って感じですね! ありがとうございます」
お礼を言い、魔猪に近づく。
「嬢ちゃんには刺激が強いかと思ったが、全然平気なのな」
「田舎育ちですからね! せっかくですからここで捌いちゃいましょう。あ、でも水がないか」
「水が出る魔道具なら持ってるぞ」
「へ〜そういう魔道具もあるのですか、それなら私も持ってるのかな?」
鞄をゴソゴソしてみるものの、特に該当するものは入ってなかった。
「残念ながら、入ってなかったです。」
「魔力持ちなら、魔道具じゃなくて魔法で水を出すのが普通だからじゃないか?」
「な、なるほど! 魔法!」
「まあ、とりあえず今回はこの魔道具で済ませようぜ」
血抜きしてサッと捌く。
「嬢ちゃん手慣れてんな、俺らより上手だぜ」
「ふふ、田舎育ちですからね!」
「嬢ちゃんの言う田舎って、一体どんなんだよ、魔石のありかも全部分かってて普通じゃねえだろ」
出てきた魔石はうちの台所に転がっていたのよりは小さいけれど、これが結構高値で売れるのを商業ギルドで見ていたからね。
「はい、おじさん。これ」
魔石を二人に渡す。
「良いよ、嬢ちゃんにやるよ」
「でも倒したのは二人ですよ?」
「俺らの鞄に入れると邪魔だしな」
おじさん達の優しさだと思って、いただく事にした。あとで多めにお肉を食べさせてあげよう。
魔石を鞄にしまって、帰り道を進む。
「あっ、キノコを見つけましたよ! こっちにはローズマリーも」
「お、これ薬草じゃねえか」
「ローズマリーって薬草なんですか? これ料理に入れるとおいしいから、採っていきましょう」
「はあ? 料理に?」
とりあえず、多めに採取しておく。鞄に入れておけば、いつでも使えるもんね。
野営場所に戻ると、テントの前をうろうろしているクリスがいた。
「ただいま〜!」
「ミア、もう! 心配したのよ」
「えへへ、心配させてごめんね。でも美味しいの、いっぱい獲ってきたからね」
そう言って、鞄から今日の収穫を出す。
「こんなに!?」
「さて、暗くなる前に、ごはんにしよう!」
何にしようかな。焼肉と、お鍋かな。
そういえば料理道具って、持ってるのかな。うん! ちゃんと入ってた。良かった。我が家の定番、バーベキューセットと大鍋を取り出す。あ、でも調味料は塩しか入ってないみたい。
焼肉用のお肉はローズマリーと塩で漬けておきます。ローズマリーはお肉の臭みを消してくれるし、良い香りだし、消化にも良いのです。
お鍋は、採ってきたキノコと肉をたっぷり入れて。こっちも塩で味付け。ちょっと味見。キノコの出汁が効いてて美味しい!
「できた〜!」
焼肉はあとは焼くだけ、お鍋は良い感じに煮えた。周りを見ると、みんなこっちを見ている。
「そういえば、野営の時は皆さん何を食べるんですか?」
「嬢ちゃん。普通はな、干し肉と硬いパンだ。それをひたすら食べるんだ」
「えっ! あれ、移動中のお昼だけじゃないんですか?」
「普通は料理なんてしないんだぞ」
「あ、じゃあ皆さん夜ご飯は自前のものを食べるって感じですかね?」
「……いや。 俺たちは魔猪を倒したからな! 食べるぞ! 食べて良いんだよな?」
「もちろんですよ。さっきの魔石で料理代は相殺ってことで、どうですか?」
「問題ねえぜ!」
早速、お椀を持って食べたそうにしている冒険者のおじさん達。
「クリス達は、どうする? 食べる?」
「お金を払うから、いただきたいわ」
「ええ〜クリスは無料で良いよ?」
「だめよ? わたくしたちが払わなくては、他の人たちから不満が出るわ」
「う〜ん。そうだよねぇ」
隣でウズウズしている冒険者のおじさんたちに聞いてみる。
「おじさん、この場合って、相場が分からないんだけれど、いくらぐらいが良いのかなあ?」
「そうだなー。魔猪だし、料理に薬草も使ってるだろ。街で食べたら銀貨三枚ってところか?」
「そんなに!?」
「でも、嬢ちゃんは儲けたいとかじゃなくて、妙な軋轢が出ないようにしたいだけだろ?」
「そう、そうなの」
「じゃあ銀貨一枚で良いんじゃないか? この旅の最中、ずっと続きそうだしな!」
会話を聞いていた御者さんが「払います! 払いますから食べたいです!」と言っている。黒づくめの護衛さんも無言だが食べるぞという意志が伝わってくる。しかし、どうやらカップルは食べない事にしたようだ。
結局、御者さん、黒づくめの護衛さん、クリスと護衛のニコラスさん、冒険者のおじさん二人、そしてわたしが食べる事になった。
「じゃあ、まずはお鍋から。皆さん、お椀を持って並んでくださ〜い」
じゃんじゃんついでいく。
「お代わりは自分でしてくださいね! では。いただきます」
記憶が戻ってからは「いただきます」という言葉はやっぱり、するりと自然に出るようになった。特に自然の恵みや命をダイレクトに頂いているので、「いただきます」と「ごちそうさま」は欠かしたくないのだ。
さあ、食べるぞ!