第86話 気のいい黒猫バス
無事に魔王ことシュバルツがクリスの仲間となり、あっという間に魔の森遠征が終わってしまった。
魔王討伐って言ったらもっと死闘の末……みたいなのを想像していたのになあ。
結局、今から下山するのも大変ということで野営になった。みんなで焚き火をして、マシュマロを焼いて食べる。
毛皮勢が全員、口の周りをマシュマロだらけにしている。ベッタベタだ。もちろん魔王もレオ様もだ。
というわけで、うちの万能スライム、ライくんが綺麗にしてあげている。ついでに歯磨きもしてあげたらしい。柴犬とはいえ、魔王の口に入るスライム。勇気あるな〜!
翌朝、ふと朝陽が登る頃に目が覚めてテントの外に出てみた。枕にしていたライくんもついてきた。
「ん〜! 森の朝の匂いは気持ちがいいね」
『まあ、魔の山だけどな!』
「た、確かに……」
今のわたしの格好はパジャマ。つまり白猫着ぐるみだ。ちょっと防御力が心許ないかもしれない。一応、テントの周りに張った結界があるんだけどね。
結界から出ないようにウロウロと散歩をする。
「あれ、ライくん。あれ、何かなあ?」
『ん? ……でっかい黒猫?』
「そうだよねぇ、猫っぽいよねぇ?」
結界のすぐそばで、なぜか香箱座りをしている大きい猫さんがいた。可愛い。今すぐに結界から飛び出して、もふり倒したい。
猫ちゃんの目をじっと見つめるのはダメだから、ちょっとゆっくり瞬きしつつ、害はないですよ〜とアピールする。
そんな感じで結界越しにコミュニケーションを図ろうとしていたら、テントから魔王が出てきた。
「魔王さん、おはよう〜」
「俺様にはもうシュバルツというかっこいい名前があるのだ。名前で呼ぶことを許してやろう」
「シュバルツおはよう〜」
『シュバルツ兄貴、おはようっす!』
尊大な感じだけど、見た目は、ずんぐりむっくりした柴犬だ。
「ところで、こいつと何してるんだ?」
「朝の散歩で見かけたからね、仲良くなれるかと思って」
「こいつは俺様の配下だぞ」
「えっ!? 魔王の配下!?」
ビックリして、ちょっぴり結界から離れる。
「そんな離れなくても大丈夫だ。気のいいやつなんだ」
「そうは言っても、魔王の配下でしょう。しかも従魔にしてないから、結界の中に入れるのはやっぱり不安だよねえ。でも配下ってことは、家族同然なんだよね?」
「ま、まあな。転生して、全く力のなかった赤ん坊の頃から俺様を中に入れて守り育ててくれたんだ」
「中に入れて?」
どういう意味だろう、と思っていると、黒猫さんが立った。
すると……! なんと、横側から見ると中が空洞になっているではないですか……!
「「ネ、ネコバス……!!」」
ライくんとハモってしまった。っていうかライくん、ネコバスをご存知……? ま、いっか。
とりあえずは、今は目の前のモフモフネコバスさんです。しかも背中から羽まで出てきました。格納式!
「ま、まさか飛んだりできるってことですか?」
「おうよ。中に入れてもらって、魔の山の上空を飛ぶのは楽しいぞ」
思わず、ライくんと目を見合わせる。欲しい……仲間に欲しい……! わたしのモフモフパラダイスの一員にぜひ……!
「あの、ネコバ…ではなくて、気のいい黒猫さん、こんにちは。もしよければ、わたくしミアの従魔になりませんか? 三食昼寝つき! 気のいいスライムとネコフクロウ、ニャムスターが先輩従魔です。スライムヘアパックをすると、艶々のもふもふに磨きがかかります。それからそれから……。んっと、魔王さんことシュバルツさんの主とわたしは親友です!」
黒猫さんは思案している。気がする。もう一声……?
『ミアねーちゃんの魔力は美味いし、おやつもついてくるぞ! 魔法学園では食べ放題だぜ』
スライムのライくんからの援護射撃っ!
黒猫さんは結界のギリギリまでやってきて、シュバルツさんをチラッと見てから、わたしの方を見て、頷いた。
「良いのですか!? ありがとう、気のいい黒猫さん!」
名前は何にしようかなぁ。女の子だよね? 男の子だったら、ヤマトなんだけど……。アズキさんにしよう。
「よし、あなたの名前はアズキさん! ……どうかな?」
『あっ、ミアねーちゃん、マジックポーション飲んでからぁー!』
ピカっと光るアズキさんを見つめながら、魔力が抜けていくのを感じつつ、ライくんの声を聞いていた。
うっ、時すでに遅し。マジックポーションを出す元気がない。意識は保てたけど、身体が動かない。
『あらまあ、素敵な名前をありがとね。おや、結界を通れるようになったよ。よっこらせ。早速新しいご主人様を運ぶとするかね。そこのスライム先輩、中に放り込んでちょうだい』
みょーんと開いたドアに、ライくんに放り込まれる。
うわぁ、中がもふもふ。頬擦りしちゃお。
その後、キャンプ地までアズキさんに運んでもらって、みんなを驚かせてしまったのでした。
あ〜もふもふ最高!




