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第8話 猫かまくらテント

 休憩所での干し肉で仲良くなったのか、午後の馬車の中ではみんなで話が弾んだ。カップルの二人は、故郷に帰って結婚の報告をするために旅をしていて、冒険者っぽいいかついおじさん達は、やっぱり冒険者なんだって。


 ちなみに、冒険者のおじさん達は、「普段、子どもに話しかけると泣かれるから黙っていた」そうだ。本当はお喋りだから、わたしとクリスの会話に加わりたかったらしい。


「おじさん達みたいな外見の人、うちの村にいっぱいいるよ。普段から会うわけじゃないけど、祭りの時に集まるとすごい迫力だから、おじさん達怖くないよ」

「わたくしの家にいる護衛の騎士達も、暑苦しいのがいっぱいいて慣れてますわ」

 二人のちびっこは全然動じてなかったことを知り、たくさんお喋りしてくれるようになった。


 クリスの護衛さんはあんまりお喋りをしないので、なぜかと思ったら、「お嬢の初めての友達との会話を邪魔したくなかったので」と言って、クリスに怒られていた。


「わたしも、女の子の友達はクリスが初めてなの! うちは田舎だから、近所に子どもがほとんどいなくて」

「わたくしは貴族だから、街の子達からは遠巻きにされてしまって……」

「初めての女の子の友達がクリスで嬉しいなあ」

 そう言うと、照れたクリスがすごくすごおく可愛かった。


 ちなみにクリスの護衛さんは、黄色の髪の毛で、話すと明るい元気な人。名前はニコラスって言うんだって。ニコニコニコラス。

 クリスを暖かく見守っていて、近所のお兄ちゃんって感じだ。


 みんなでお喋りをしたり、ボーッとしたりしていると、野営場所に着いた。

「野営場所に着いたぞ! なぜだか馬がいつもより元気で、野営場所にも無事に早くつけた。明るいうちに、各々、夜営の準備をするように」

 馬車から降りて野営の準備だ。と言っても初めての野営なので、何からしたらいいのかわからない。


「クリスの隣にテント張ってもいい?」

「もちろんよ。むしろわたくしのテントに入ってもいいのよ?」

「ううん、大丈夫。せっかくの野営セット、使ってみたいからさ」


 クリスは屋敷の庭で野営の練習をしてから来たらしく、手慣れた様子でテントを張っている。

 さ〜て、わたしもテント、張ろうかな?


 鞄からテントを念じて引っ張り出してみると、おにぎりみたいな形の白い塊が出てきた。「これ、テント……?」 

 白い塊には、肉球マークが付いている。これってもしかして……。この肉球マークに魔力を流す感じかな? とりあえず、白いテントもどきを地面に置いて、肉球にタッチ。ちょびっと魔力を流してみた。すると、ぽんっ!と、かまくらのようなテントに膨らんだのだ。猫耳付きの。


 隣でテントを張り終えたクリスが驚きの目でこちらを見ている。

「ミア、それ……何?」

「……うーん。テント? なのかな? ちょっと中を見てくるよ」


「クロちゃんおいで」

猫耳かまくらの上に止まっていたクロちゃんを呼んで、中に入ってみる。


「うわあ! なんだか見た目より中の方が断然広くない?」

『主の母上は、魔道具作りが本当に得意なのだな』

 クロちゃんと中をチェックしていく。簡易キッチンに、お風呂までついていた。クロちゃんの止まり木まである。至れり尽くせり。


 外に出ると、みんな興味津々でテントの周りに集まっていた。しかし、どうやらある程度の距離までしか近付けないらしい。

「クリス、そこまでしか近付けないの?」

「そうみたい、なんだか見えない壁があるみたいだわ。ってミアの持ち物でしょう!」

「えへへ、だって母さん、持ち物の説明ほとんどしてくれなかったんだもの」

 でもクリスが入れないとなるとつまらない。お喋りとかしたいもんね。


「どうやったらクリスが入れるようになるのかな?」

「こういう結界の場合、魔力登録した持ち主が許可すれば入れるようになるはずですよ」とニコラスさん。


「クリスがテント内に入ることを許可する!」と言ってみる。特に何も見た目の反応はないけれど、どうかな……?

「あっ!壁が消えたわ。入れるみたい。」

 クリスが他の人より一歩中に入った。


「あ、護衛だからニコラスさんも許可した方がいいですよね。『ニコラスさんもテント内に入ることを許可』」

「ミアちゃん、お嬢の護衛だからって男性にホイホイ許可を与えるのは駄目ですよ」

「でも護衛上、入れた方がいいでしょう?」

「まあ、そりゃそうなんですけどね」

「それなら、大切なクリスをきちんと守ってもらうために、しょうがないよ」


 そんな話をしていると、周りに集まっていた男性陣が去っていくのが見えた。ニコラスさん、さりげなく他の男性を牽制してくれたんだなあ。

 カップルの女性はこちらをチラチラと誘って欲しそうに見ているが、なんだかこの女性あんまり好きになれないので(オンナの勘ってやつよ、七歳だけどね!)、気付かなかったフリをする。


「それではクリスさんご一行ご案内〜」

 クリスとニコラスさん、そしてクリスの従魔ブランカを案内する。ちなみにブランカは、クリス付きということで、特に許可もなく入れました。

 一番乗りのブランカは中に入って、くるっと旋回した後、クロちゃん用の止まり木を早速奪っていました。


「うわあ、なんですか、このテント…!? 外と中の面積合ってないですよ」

「まあ! 素敵な空間ですわね。キッチンにお風呂まであるの……!?」

「すごいよねえ、わたしも中に入ってびっくりしちゃった」

 呑気にそういうわたしに、クリスとニコラスさんは顔を見合わせてため息をついた。


「ミア……。あなたがなぜこんなに、魔道具をたくさん持っているのか知らないけれど、これ、貴族でも上層部しか持っていないようなアイテムよ。」

「えっ、そんなに珍しいの?」

「そうよ、あなたもっと常識をね……! そ、そうだったわ、わたしがこの子に常識を教えるんだったわ……」

「ありがとね、頼りにしてます、クリス様っ」

 やっぱりこのテントはすごいものだったのね。


「じゃあ、とりあえず外に出ようか。夜ご飯の準備が必要だもんね」

「夜ご飯の準備……準備なんて必要かしら?」

 外に出ると、皆、各自のテントを張り終えていた。


 この野営場所は森の中を進む道の脇に設けられた広場なので、少し進めばすぐに森があるのだ。

「よし、クロちゃん、森へレッツゴー!」

「ちょっと待った、お嬢ちゃん、森へ行くのか?」

 冒険者さん達が聞いてくる。


「はい! ちょうど森があるので、木の実とか果物を採ってこようかなあって思って」

「一人で森に入るのは危ねえぞ」

「むむ……。うちの裏山より安全そうだから大丈夫かと思ってましたが、確かに初めての森は危ないのかなあ……。」

「俺たちも一緒に行ってやろうか?」

「いいのですか? じゃあお願いしてもいいですか?」


 私たちは、「危ないわよ」と止めるクリスを置いて、森へと入っていった。


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