第79話 魔女っ子、増える
「ホーリークリスティーヌ! メークアップ!」
「セイントヴィクトリア! メークアップ!」
そういえば二人の名前はクリスティーヌとヴィクトリアだったなあ……と改めて思いつつ、見つめる。
効果音が流れてきそうな変身シーンが始まった。ヒマリはすでに、変身仲間ができたことが嬉しそうだ。
今回は女神様のスポットライトもあるから、なんだかすごい派手な変身である。
変身の音楽をつけたいくらいです。
『おおおおおー! クリスっちもヴィーっちも魔法少女ぉ〜!!』
身体を震わせながら興奮しているスライムが約一匹。
ホーリークリスティーヌは、ニーハイブーツにミニスカートが可愛い!
セイントヴィクトリアは、ニーハイブーツにショートパンツ姿の白騎士スタイルだ。両者、絶対領域素敵ぃ!
それにヴィーちゃんは、なんだか王子様より王子っぽい雰囲気だ!
あっ、いつからか隣にいるオーランドとルイスにギロリと見られた。あれ? 声に出してないよね?
二人とも、キラキラ光る白いマントがかっこいい。
「こ、このミニスカート、ちょっと短すぎではありませんの!?」
「大丈夫、可愛いから」
「そういう問題ではありませんわ!」
「でも女神様の趣味だし」
「うぐぅ……」
ヴィーちゃんは白騎士スタイルが気に入ったようだ。
「これは動きやすくていいな。聖女様をお守りするのに良さそうだ」
そう言いながら、クリスにウインクすると、周りの女子がキャァっ!と盛り上がる。うっ……ヴィーちゃんかっこいい。
新たな扉を開けそうだ。
食堂でみんなでワイワイしていたところ、寮監のケト先生がやってきた。
「まさかマオ寮から聖女と聖騎士が出るとはにゃ〜。学園長が二人に会いたいそうにゃ」
「「わ、わかりました……!」」
「それにしても、聖女と聖騎士の服、似合ってるにゃ。懐かしいにゃぁ」
そう言いながら、先生はお昼寝の続きをするのだと言って去っていった。
とりあえず、クリスとヴィーちゃんは学園長に会いに行くらしい。そこで美味しい夜ごはんが出るといいね?
わたしとヒマリは食堂でごはんを食べることにする。
今日のごはんは唐揚げ定食だ!
外はカラッと、中はジューシーで美味しい。
たっぷり野菜スープと、ご飯もついています。ご飯は、いわゆるジャポニカ米じゃないのが残念なんだけれど、それでも美味しい!
『唐揚げ美味しいですにゃ』
『我も好きだ。いくつでも食べられそうだ』
『俺っちも唐揚げ好きだけど、食べすぎると胃もたれするかもしれないぜ?』
果たしてスライムに胃もたれって存在するのかは謎だが、三匹は山盛りにした唐揚げをせっせとお腹に詰め込んでいる。
魔物も栄養バランスとか気にした方がいいのかなぁ…? でもあの子達、魔素が栄養だから、味とかは嗜好の問題なのかなあ。
「それにしても、クリスとヴィーちゃんが選ばれるなんてビックリしたねぇ」
「うん……。なんだか、みんなが遠くに行っちゃったみたいで、ボクちょっぴり寂しいよ」
「そう?」
「そうだよ! だって、ミアは実は王族の血が流れてたし、二人は聖女と聖騎士だよ!? ボクはただの平民だもの」
「でもでも、わたしは実際は平民だよ? ちょっと権力のある平民! それに領地に帰ったら、ただの田舎暮らしよ? まあ、それがいいんだけど」
「ふふ。大丈夫、ちょっと寂しかっただけだからさ! さ、唐揚げ食べよっ」
もぐもぐと唐揚げを頬張るヒマリ。
定食の後は、デザートタイムだ。
チョコレートケーキに、ミルクレープ、シュークリーム……。デザートをてんこ盛り持ってくる。若いってすばらしいです。食べても食べても太りません……!
お茶のポットと茶葉も持ってきた。
「マジカルミアミア、ニャーニャー!」「ホットウォーター」
腕輪から杖を出して、ポットにお湯を注ぐ。猫の形をしたホットウォーターがニャーン、とポットに入っていく。
「ところでさ、さっきチラリとしか見なかったけど、この杖とヒマリの持ってる杖、クリスの持ってたやつに似てない?」
「それ、ボクも思ってた!」
改めて、杖を並べてみる。
「これ、母さんが昔使ってたやつを改良したって言ってた」
「ボクのはアンディの叔母さま、カレン様から頂いたやつだよね」
杖二つを見比べていると、聖獣レオ様がやってきた。
「それらの杖は、聖女の遺産だな」
「聖女の遺産?」
「昔の聖女が使っていた杖だ。聖女の役目を終えると、普通の杖になるんだ。ま、普通の杖と言っても呪文が必要だったり癖はあるがな。代々受け継がれてきたんだろう」
そうなのかあ、聖女の遺産ねぇ。と思って改めて杖を持って見つめてみる。
とはいえ、わたしだけは変身しないのよね? ブレスレットから杖を出すときに呪文が必要なだけだし。その辺、母さんが改良したのかなあ?
『……唱えて』
「ん? 何か言った?」
「何も言ってないよ?」
空耳かな?
『……唱えて。マジカルミアミア、メイクアップ!』
「マジカルミアミア、メイクアップ?」
その瞬間、杖がピカー!っと光って、まさかのわたしの変身シーンが始まってしまった。
なんだこりゃ〜!