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第7話 金髪縦ロールのクリスとお友達になる

 乗合馬車にはすでに七人乗っていた。

お嬢様な女の子と、護衛っぽいお兄さんの二人組。ちょっと子供に近づいたら泣かれそうな外見の冒険者っぽい二人組。若いカップル。馬車の隅でじっと無言の黒づくめのお兄さん。

 私は一番御者さんに近い席に座った。


「そこの黒づくめのヤツが、この馬車の護衛だ。愛想は悪いが、腕は立つから安心しろよ」

御者さんに言われて、もう一度、黒づくめのお兄さんを見る。

「よろしくお願いします」

と言ってみたが、目で頷かれた。


 あっという間に馬車が街の端まで着き、門番さんのチェックを受けて外へ出た。初めての街だったのに、買い物をする間もなく通り過ぎてしまった……。

 街の外に出ると、途端に道が悪くなる。うわあ、このままじゃお尻が痛くなるよう。周りを見ると、女の子だけクッションをお尻の下に敷いている。自前なのか。

 バッグに手を入れてクッションを引っ張り出す。やっぱり入ってた! 父さん母さんありがとう!


 クッションはやっぱり猫型だった。モフモフの手触りが最高。私のモフモフにも触りたくなって、クロちゃんに声を掛ける。

「クロちゃんおいで〜」

外を飛んだり、馬車の屋根に止まったりしていたクロちゃんを呼び寄せる。

『なんだ主、呼んだか』

「特に用はないんだけど、モフモフしたくなって!」

『我のモフモフは世界一だからな!』

 眉間と耳の後ろを念入りの撫で撫で。うっとり目を細めているクロちゃん、可愛いすぎる。


「ねえ、あなた。その子、あなたの従魔なの?」

 クロちゃんを堪能していると、向かいの席に座っていた女の子が声をかけてきた。金髪縦ロールの美少女だ。縦ロール、初めて見た。

「うん、そうだよ! クロちゃんっていうの。賢くってモフモフで自慢の従魔なの」

『主、照れるじゃないか』

「ということは、あなたも魔力持ち?」

「そうみたい! 知ったのは一昨日なんだけどね。『も』ってことは、もしかして、あなたも?」

「そうよ。じゃあ、あなたも魔法学園へ向かうのね」

「わあ、あなたも? 嬉しいなあ。仲良くしてね」

「そ、そうね……。馬車が一緒になったのも何かの縁。仲良くしてあげてもよろしくてよ!」

 ちょっと照れてるお嬢様が可愛い。


「私、ミアって言うの。あなたは?」

「わたくしはクリスティーヌ・イリレイよ。」

「苗字があるって事はお貴族様なんだ! あ、敬語で話したほうがいいよね。いいですよね」

「べ、別にさっきまでの話し方で構わないわ。私たち仲良くするんでしょう……!」

「わあ、ありがとう。田舎育ちだから敬語って苦手なんだ、助かる」

 旅立って早速、美少女の友達が出来てしまった。嬉しいなあ。


「そういえば、クリスティーヌちゃんの従魔はどこにいるの?」

「クリス。クリスでいいわ」

「クリスちゃん?」

「クリスって呼んで。わたくしもミアと呼ばせてもらうわ」

「クリス」

 そう名前を呼ぶと嬉しそうに、クリスは笑った。

 

 それからクリスは馬車のそとに手を出して、「ビアンカ」と言った。すると、その腕には、白い可愛い小鳥が止まっていたのだ。

「もしかしてクリスの従魔ちゃん?」

「そうよ、ビアンカというの。うちの子も可愛いでしょう?」

「とっても美しい従魔なのね」

金髪縦ロールの美少女の腕に止まる、白い小鳥。絵になる……。


「それにしても、ミアの従魔はネコフクロウだなんて。よく魔力が足りたわね」

「契約の時に、魔力がギリギリだったから、そのまま寝ちゃったけどね。でもネコフクロウって魔力がたくさん必要なの?」

「そりゃそうよ。ネコフクロウといえば、配達従魔の中でダントツトップよ」

「配達従魔?」

 配達従魔というのはなんだろう、と思いながらも、クロちゃんがすごいと言われてとっても嬉しくなる。口元にやけちゃう。撫で撫で。


 そんなわたしの様子を見て、呆れたようなクリス。

「あなた、本当に何も知らないのね」

「そうなの。一昨日、クロちゃんが手紙を持ってくるまで魔力って言葉さえ知らなかったし、昨日初めて街に来てお金の種類を学んだし、知らないことばかりなの。良かったら、わたしに常識を教えてくれる?」

「しょうがないわね!」

 クリスみたいな素敵な女の子と友達に慣れて良かった。


「ところで、そのミアのクッション可愛いわね」

「これ? ありがとう! クリスがクッション使ってるの見て、何かないかなあって鞄の中調べてみたら、入ってたの」

「あなた、鞄の中に何が入ってるかも知らないの?」

「……。うん。実はね、父さんと母さんが、いろ〜んなものを入れたから、何入れたか忘れちゃったんだって……」


 途端にクリスはキョロキョロして、小声で聞いてきた。

「それもしかして、魔法鞄?」

「うん、そうだよ? とっても便利なの」

「ミア……魔法鞄って、すごーくすごーく高くて、持ってる人は必ず護衛を雇うし、なるべく持ってないフリをするものなのよ」

 クリスの隣の護衛のお兄さんもウンウン頷いている。


 そっと他の乗客を見ると、みんな聞こえてないフリをしているけれど、確実に聞こえてそうな雰囲気だ。声を抑えたって聞こえちゃうよね。

「この鞄ね、わたしじゃない人が触ると、『ちょっとピリッとする』って母様が行ってたから大丈夫だと思う」

 あえて普通の大きさの声に戻して、言っておく。

「まあ、今後気をつけなさいね」

「はーい! 教えてくれて、ありがとうね、クリス」


 馬車でクリスやクロちゃんとお喋りをしながら進んでいると、お腹がぐうっと鳴った。

「……。ところで、この旅の旅程を何も知らずに乗っちゃったんだけど、ご飯を食べる時間とかあるのかな?」

 照れながらクリスに聞いてみる。と呆れた顔で教えてくれた。


「旅程を知らないってミア……。なんだか色々抜けすぎてて、今後の学園生活まで不安になってきたわよ。」

 この馬車は二週間かけて隣の領まで行くこと、それまでは毎日野営、食事は各自で用意、朝ごはんと夜ごはんはゆっくり食べられるけれど、昼は馬車が休憩する時にササッと食べるということらしい。


「ミア、野営セットとか持ってるの?」

「この中に入ってるって、母さんが言ってた。野営初めてだからドキドキするなあ」

ぽんぽんと、鞄を叩いて見せる。


 その時、御者さんの声が聞こえた。

「よし、休憩所についたぞー!二十分経ったら、また出発するからな!」

休憩時間は、経ったの二十分らしい。上手に使わなくては。


 馬車から飛び降りて、伸びをして屈伸。あのままじゃエコノミー症候群になっちゃうもんね。

「クロちゃん、二十分後にここを出るみたいだけど、それまでお散歩してきてもいいよ」

 馬車に寄り添うように飛んだり、わたしに撫でられていたクロちゃんも運動不足だったのだろう。嬉しそうに飛んで行った。


「よお〜し! ごはんだ、何食べようかな」

 周りを見ると、大体みんな干し肉をかじっている。ふむ。干し肉がやはり旅のお供の定番とな。

 わたしも干し肉にしようっと。わたしのは、裏山の美味しい鳥を使ったやつで、セミドライなのだ。さすが時間停止機能付きの魔法鞄。カラカラに乾かさなくても良いのである。お子様の顎にも優しいね。


「ん〜美味しい〜!」

 もぐもぐと干し肉を食べていると、クリスが聞いてきた。

「干し肉ってそんなに美味しいものじゃないでしょう?」

「クリスも一枚食べる? あ、お貴族様だから毒味とかいる?」

「いいわ。ミアは友達でしょう?」

 照れながら言うクリスが、すごく可愛い。


「いや、お嬢、俺が毒味をしましょう」

 クリスの護衛さんが出てきた。

「いいわ、あなた毒味とか言って全部食べちゃうつもりでしょう」

「だって美味しそうじゃないですか〜」


「じゃあ護衛さんにも毒味ということで、一枚あげますね」

はいっ、と渡すと、ニカっと嬉しそうな護衛さん。

「ありがとうございます! さっきから気になってたんですよね」


 二人は同時に齧り付いた。やっぱり毒味は建前なのだ。そして二人して目を見合わせた。

「「美味しい!」」

「なにこれ? こんなに美味しい干し肉初めて食べたわ!」

「これ、うちの裏山で獲れる鳥の干し肉です。父さんがよく狩ってくるから。」

「なんていう鳥?」

「名前は知らないの。見ればわかるんだけど」


 干し肉で盛り上がってると、じーっと周りの視線を感じた。御者さん護衛さんも含めて、全員の視線を感じる。


「……。皆さんもどうですか? あ、でも、わたしの保存食が無くなっちゃうと困るので、今回限りですよ〜」

 たぶん、ものすご〜くいっぱい入っているので在庫は気にしなくて良さそうだけれど、念のため節約しておいた方がいいもんね。


 結果、皆さんから大好評でした。食べ終わった後の皆さんの顔がギラついていた。

 そうそう。馬にも、うちの庭の自慢の林檎を分けてあげました。嬉しそうに食べていた。


「よし、二十分経ったな、そろそろ行くか。暗くなる前に野営場所に着きたいからな」

 御者さんの声で、また皆馬車に乗り込んでいく。


 馬車に乗り込み、クロちゃんはどこかな? と空を見上げると、ちょうど帰ってくるところだった。

「クロちゃん、おかえり」

『主、これ森の中で見つけたからお土産だ』

お腹の袋から、わたしの膝にいくつかの木の実と果物を載せてくれた。

「わあ、クロちゃんありがとう! あとで食べるね」

 他の人の物欲しそうな顔を無視して、今は鞄に閉まっておく。


 御者さんが全員乗ったのを確認して、馬車は進み始めた。

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